脱「日本版PFI」のススメ に関しての質問(その2)

オーキーさんから次のようなコメントをいただきました。

敢えてここでは意見の異なる点を述べさせていただきます。
直接協定が三者契約であるとの点には、正直かなりの違和感を覚えました。直接協定で規定すべきはレンダーの担保権の行使についての一定の手順を書いたものであり、もちろんその中で事業者代替も含まれますが、事業者には行使されうる担保に関して何らの権利は無く、直接協定にサインするとしたら単に内容をAcknowledgeするだけのはずです。(権利が交錯するのは金融機関として絶対に受けいれられないはずです。)
つまり直接協定の規定を実行するような段階になった場合に、プロセスの蚊帳の外で、実際に事業者代替が発動される段になって引き継ぎの義務が生じる程度です。
事業者と発注者(公共)との間で直接協定を結び、発注者の事業介入権を定めている例はありますが、それとてもレンダーとの間の直接協定に優先する建て付けとはならないはずです。


この手の各論はニッチ過ぎるのか、内閣府のPFI検討委員会あたりで出てきた場合にも、議論し尽くされていない部分だとおもわれます。しかしながら、この点が明確になっていないことが日本版PFIを生み出す要因である可能性がありますので、どのように考えるべきであるかを検討してみましょう。

【PFI事業の直接契約はそもそも三者間契約であること】
まず、オーキーさんは、“PFI事業の直接協定が三者契約であることに違和感を覚えた”とのことですが、それは、たぶん日本版PFIの観点から見るので違和感を覚えるのではないでしょうか。
今年の3月末に「PFI契約の標準化第4版(SoPC4)」が公表され、(わが国を除いて)世界的にPFIの基本的な考え方を示したバイブル的な資料として用いられています。
このSoPC4に基づいた考え方を理解すれば違和感はなくなると思います。
(朗報をひとつ。今年の3月末までの業務として内閣府がSoPC4を翻訳するはずですので、来年以降には、日本語版のSoPC4も参照することができるはずです。)
SoPC4で直接契約の雛形がウェブ上で更改されています。

日本語のものは、SoPCの最初のバージョンのもの(“SoPC0”と呼ばれるもので、1999年7月に公開されたもの)を翻訳したものがWeb上にあり参照可能です。
SoPC0とSoPC4の違いは、市場取引で成立するFair Valueという適正な価格の概念及び、Liquid Market(流動性のある市場: Fair Valueが成立する市場)および、保険の手続きが追加されている程度であり、SoPCの発展において、PFIの基本的な考え方として1999年7月からほとんど変更のない部分です。
このSoPC0に記載されている直接契約の雛形は、次のような文言でスタートしています。

********************************************
この合意は、○年○月○日、以下の全員を当事者に締結される。
(1) [関連省庁もしくは政府団体](“当局”という)
(2) [ ](優先債権者2の“代理人”という)
(3) [プロジェクト会社](“事業者”という)
以下のとおり、合意される。
********************************************


【なぜ、直接契約を締結するのか】
さて、なぜ、直接契約を締結するのでしょうか。
オーキーさんのいう、
直接契約はレンダーの担保権の行使についての一定の手順を書いたものであり、
(もちろんその中で事業者代替も含まれますが、)事業者には行使されうる担保に
関して何らの権利は無く直接協定にサインするとしたら単に内容をAcknowledge
するだけのはず」

とは、既存の日本版PFI事業で締結されているものについて述べているのではないかと思われます。もし、直接契約がそのような内容であるとするならば、発注者にとってそのような契約を締結することにいったい何の意味があるのでしょうか。
一度、ある自治体のPFI担当者に、この理由を聞いたことがあります。担当者曰く、金融機関が、直接契約はこういうものだといって持ってくるので、そういうものかと思っていたが、確かになぜ、このような直接契約を締結しているのか合点がいかないといっていました。


オーキーさんは続けて、
事業者には行使されうる担保に関して何らの
権利は無く、直接協定にサインするとしたら単に内容をAcknowledgeするだけのはずです。(権利が交錯するのは金融機関として絶対に受けいれられないはずです。)

とのことですが、「発注者と、事業者と、金融機関が直接契約を締結するということ」と、「事業者が行使されうる担保に関して何らかの権利を持つこと」とは、別の次元の論点ですので、3者で契約を締結することは必ずしも権利が交錯することにはつながりません。
また、その表現に続いて
つまり直接協定の規定を実行するような段階になった場合に、プロセスの蚊帳の外で、実際に事業者代替が発動される段になって引き継ぎの義務が生じる程度です。
事業者と発注者(公共)との間で直接協定を結び、発注者の事業介入権を定めている例はありますが、それとてもレンダーとの間の直接協定に優先する建て付けとはならないはずです。

とのことですが、このような考え方になるのは、前提条件として設定した「直接協定で規定すべきはレンダーの担保権の行使についての一定の手順を書いたもの」であるという部分の、レンダーの担保が「日本版PFI」のように、事業者の所有する不動産や備品に対して物的担保として設定されているからだと思われます。
施設整備費を割賦払いするという本来VFMを生み出さない契約内容でBOT契約を締結する日本版PFIにおいては、施設整備費の割賦である以上、その根拠となるのが物的担保になってしまうのではないかと思います。
直接契約で、発注者が、シニアレンダーに対して認めているのは、発注者と事業者の間で締結した事業契約に基づいて事業者に与えられている「事業者の権利」に関する担保権です。すなわち、事業のキャッシュフローそのものが担保になっており、この担保権は、サービスの品質が適切に提供できない場合には、減額される(変動する)ものです。

【二つの異なった事業介入】
もうひとつ、ここでは、事業契約の中に記載されるべき、発注者の事業介入権と、直接契約での金融機関の事業介入権の論点が混同されています。発注者の事業介入件の発動は、事業者の債務不履行とは必ずしも連動するものではなく、公共事業の特性において、事業介入すべき事象が生じた場合に発動するものです。
SoPC4でも第29章の当局の事業介入と、第31章の直接契約において発動する事業介入が別のものであることを明確に示しています。

【本来の日本版PFIの構築が必要】
日本は、海外のいろんな仕組みを輸入して、改善し、昇華してきたという歴史を持っている国です。私は、PFIも、海外で構築された仕組みを輸入して、改善し、「本来の日本型」に昇華できると考えています。オーストラリアのビクトリア州は、英国の仕組みをビクトリア流で改善し、昇華しており、パートナーシップビクトリア(PV)という名称を使っています。アジア諸国では、このPV方式のPPPは有名であり、アジア各国からのビクトリア州に視察が相次いでいます。

一方、現在の割賦払いの日本版PFIは、お金がないので、割賦払いで施設を整備しようという仕組みであり、発注者にとっても、事業者にとっても最も簡単な仕組みであるために推進されているように見受けられます。このような明確に海外で禁止されている仕組みを導入することは、改善でも昇華でもありません。日本版PFIの導入によって、損害をこうむっているのは、納税者です。このような日本版PFIを続けていると、その仕組みを推進したアドバイザー、事業担当者、議会、首長は、納税者から行政訴訟される可能性があります。そうならないように、既存の悪しき仕組み(日本版PFI)から脱しましょうというのが私からのススメです。

カテゴリー[ 脱「日本版PFI」のススメ ], コメント[1], トラックバック[0]
登録日:2007年 11月 05日 23:16:50

コメント

コメントバックありがとうございます。
さて、熊谷氏は私の言っていることを若干、誤解しているようです。
熊谷氏がいみじくも言っておられるように、日本のPFIでは公共側が何故、金融機関と直接協定を結ぶかわからない、と言い出すことがままあります。ひどいのになると、民間ごときに言われたくない、と言って席をけってしまうことも。。。
私は、公共側がこの直接協定を結ぶ意味がわからない、というところに日本のPFIの問題点が集約されていると思います。

箱物ではないPFIで考えて見ましょう。病院でも刑務所でも良いです。ついでに日本によくあるBTOではなく、BOTとして熊谷氏が唱えるようにリスクが民間に移転されているとします。
この場合の公共側の一番の懸念はなんでしょう?もちろん、VFMがきちんと出ていること、というのも関心事の一つでしょうが、やはり事業が継続されることに最大の不安があるのではないでしょうか。ある日突然、民間事業者が病院は不採算だから事業をやめる、と言い出した場合に公共サービスは停止されることとなります。状況によっては多少のペナルティを払ってもj事業を止めたいという事業者いるはずです。あるいは事業が不調であるため、融資銀行団が突然、担保権を行使して事業が停止してしまう、ということも考えられます。
公共側にはこれを何としても阻止したい、という動機が本来あるはずであり、であれば直接協定の意味がわからない、などという発言が出るわけは無いのです。
公共としては銀行の担保権に一定に制約、約束事を課したいはずです。
だからこそ英国のPFIでは、直接協定においてPotenshal Event of Defaultの状況での銀行の権利、さらにいくつかのトリガーによる様々な権利行使の段階を経て、最終的には担保権の行使による事業者代替というプロセスになっているのです。
この間、実は銀行には事業を継続させて回収を図る考えと、事業を破綻させて手を引く考えと二つあるわけですが、公共としては何としても銀行に事業継続へのモチベーションを保って欲しいのはずです。
私に言わせれば直接協定の意義がわからないのであれば、それはすなわちPFI向きの事業ではないということです。つまり民間が手をひこうがどうしようが公共にとってはどっちでも良いもの、すなわち箱物PFIがそうですね。建物さえできてしまえば、維持管理だって公共内に官庁営繕の組織があり、従来型で維持管理だけ発注することもできる。その意味では直接協定は邪魔ですらあるわけです。
私の議論が、物的担保がどうの、という話ではないことはお分かりいただけたかと思います。
日本のPFIの直接協定はその意味でもほんとうにひどい。箱物、割賦、BTOで公共側にも銀行側にも直接協定を締結するメリットがあまり無い。適当に書いておいて、最後は協議となっているケースがほとんどではないですか。(協議が悪いとは言いませんが) でも箱物はこのように話をすすめるインセンティブが働きやすいとも言えるわけで、ゼネコンにしてみたら従来と同様に建物をつくったのに、維持管理その他の運営でのペナルティによって工事代金が減額されるのたたまったものではないし、融資銀行にしてみたら、ゼネコン主導でFeeがかつかつなのにその上減額などとんでもない、ということでしょう。

この箱物の議論は、実は私と熊谷氏で最も意見が異なるところだと思うのですが、これについては別にコメントしましょう。

直接協定の雛形で事業者の権利が書かれているとしたらそれはそれで発見ですのでご教示ください。

それではまた。

オーキー @ 2007年 11月 09日 00:53:46

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プロフィール
Hiroshi Kumagae
Hiroshi Kumagae
(男)
1959年05月06日
アビーム コンサルティング㈱             ディレクター
著書:脱「日本版PFI」のススメ 相模書房 ISBN978-4-7824-0705-9
ESADE大学院 国際経営修士
慶應義塾大学院 特別招聘講師(非常勤)
三田図書館・情報学会会員、PMFJ会員 公益事業学会会員
平成18年度内閣府PFI事業の総合評価検討委員会委員
平成19年度自治体PFI推進センター専門家委員会委員
日刊建設工業新聞 所論/緒論コラムニスト
東京LEC 法律文化 連載中 
剣道3段、居合道3段(夢想神伝流)
福岡県生まれ横浜市在住
連絡先:
hkumagae-mobile@softbank.ne.jp
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