モニタリングは官だけの責任ですか?銀行はモニタリングしないの?

オーキーさんからの次のコメントには驚いています。

金融機関は与信審査はできても事業の中身をモニターすることなどできません。モニタリングはやはり官の責任においてすべきでしょう。PFIとは言え公共事業なのですから。

金融機関の与信審査って何ですか?
"ススメ”にも書きましたが、金融機関が事業価値を評価する項目として①事業用地の適切性、②事業に必要とされる技術と設計条件、③EPCコントラクター(ゼネコン)の経験と適切性、④EPC(設計施工)契約の技術面に関する事項、⑤建設費と予備費の配分の適切性、⑥建設スケジュール、⑦建設と運営に関する許認可、⑧事業の特殊要素(例えば原料供給事業協定)の適切性、⑨マネジメント体制・人事評価、⑩運営上の前提条件の将来予測、⑪運営および維持管理コスト予測 ― 等 の項目があげられます。
これって、事業の中身ですよね。

PFIは施設整備費を支払うのではなく、施設を利用して提供するサービスに対しての支払いです。少なくとも、事業がサービス業績に連動視する仕組みになっていて、金融機関が事業リスクを取る以上、これらの事業の中身を当然モニターする必要があるわけです。
上記の考え方は、割賦支払いになっているので、建物さえ出来れば、後は知りませんよといっているように感じてしまいます。

モニタリングは、サービスの品質が要求どおりに提供されているかを確認する仕組みであって、主観的にならずに、客観的にするために、”ススメ”では、8種類のモニタリング手法を示しました。

品質が悪いと、発注者が感じるのは、
①要求したサービス水準が満たされていないとき
②事業者が入札段階で実施提案をしておきながらそのとおりに実施しないとき
③他の類似施設の比較可能なサービスと比べて明らかに品質水準が低いとき
④セルフモニタリングで悪いことがわかったとき、または、セルフモニタリングが機能しないとき
⑤専門業者と管理者(SPC)のサービス提供内容の理解に整合性が取れていないとき
⑥顧客満足度調査、従業員満足度調査などが改善されないとき
⑦法律を遵守していないとき
⑧監査によって、不適切であることが判明したとき

このようなモニタリングをすることを前提として、要求水準をこれらのモニタリング手法で評価できるように設定することが重要です。

したがって、そのモニタリングを行うのは、官であったり、事業者であったり、機械であったり、監督省庁や監督機関であったり、公認会計士であったり、要求水準に基づいて異なるわけであり、これを官の責任であるとすることは、乱暴すぎるように思われます。

PFIの基本理念を整理しなおしてみました。

【対象となる事業】  
  長期的な契約によって、公共サービスの質を確保する民間ノウハウが存在し、イノベーションが活用可能で、より安く、より品質の高いサービスを提供することが出来る事業が、PFI手法の活用に適切な事業である。  
【サービス購入契約】
  官は公共サービスの質の設定と提供が重要なのであって、そのために施設所有する必要はない。かえって、その公共サービスの質を達成する手段や手法は民間の自主性、創意工夫を尊重しつつ、出来るかぎり民間事業者にゆだねて実施することことによってプロセスの見直しやイノベーションの導入が進む。ただし、公共サービスの性格上、適切なサービス提供ができなかった場合の責任は最終的に官が取らざるを得ない。
【官が事業枠組みを設定】
  そこで、官は、民にサービス提供の手段や手法を任せる条件として、官が適切な要求水準をきめ、その業績をモニタリングし、要求したサービス水準を達成できない場合にはペナルティを課する事業枠組みを設定する。民は、事業枠組みの範囲内で、従来の仕組みを大幅に見直したり、サービスの質を達成するためのイノベーション手法を活用して、ペナルティをかけられないような事業管理システムを構築し、サービスを提供する。
【役割分担の仕組み】
  このような新事業手法は失敗する可能性があるので、金融機関に精査させる。金融機関にとって、事業の失敗は不良債権につながることから、確実に融資が回収できるように民間の事業提案を改善させる。 実績のある事業者の提案を金融機関が精査した事業であれば、民間事業者は収益を十分上げながらも、財政資金の効率的利用を図る提案をすることが出来ると考えられる。
【成功を確保する仕組み】
  ただし、万が一であっても事業破綻は、官にとっても好ましくない。そのため、民の事業契約上の債務不履行が発生した場合には、契約解除する前に金融機関に事業介入させ、事業の建て直しができるように、官、民、金融機関の三者が合意する。このような、直接の契約関係になかった官と金融機関が民を介在して結ぶ三者契約を「直接契約」と呼ぶ。「官と民の事業契約」、「民と金融機関の融資契約」、「官と民と金融機関の直接契約」の3つを同時に締結し、三者のリスクバランスを最適化し、安定した事業を継続的に行う。このような安定した高品質のサービス提供は、サービス利用者にとってのメリットにもなる。
【パートナーシップの源泉】
  以上のような適切なPFI手法の活用ができれば、利害関係者の全てがマルチプルWINの状態となり、官民の適切な役割分担に基づく新たな官民パートナーシップが形成されていくものと期待される。

カテゴリー[ モニタリング ], コメント[10], トラックバック[0]
登録日:2007年 12月 23日 23:57:38

コメント

一言
金融機関に「事業」をモニタリングできる「能力」があるなら、今の日本の金融をめぐる問題の多くは解決しているはずです。
別に日本に限ったことではありません。
一定の基準を設けて、誰かにモニターさせて、それに基づき決定を下すことならできるでしょう。
英国においてもレンダーは事業に関し、技術アドバイザーを雇うなどして「モニタリング」をしているはずですが、いずれにしても一義的な責任など負えるはずもありません。

オーキー @ 2007年 12月 24日 10:19:28

しかし、このテーマも深いですねえ。本質的な議論ですね。金融機関勤務経験者として申し上げれば、事業をモニタリングする能力が、金融機関にあるかどうかはともかく、その必要性があれば、外部の専門家(設計事務所、建築の専門家、保険コンサルタント、その他事業に特有の専門家)に依頼するなどして、専門的な見地から現状分析、将来予測を行うこともあります。でもそれは、金融機関が一義的に責任を負うことを意味するものではないでしょう。関係者(=プレーヤー)の能力を理解し、どのような行動を志向するかを理解したうえで、それぞれのプレーヤーの役割と責任の範囲を上手にデザインし、市場に参加を呼びかけ、適切な行動を誘導するという意味で、どちらかといえば、事業者募集段階で、絵を描く官の責任がもっとも大きいと私は思います。もちろん、すべてが官の責任という意味ではありません。

PFI侍 @ 2007年 12月 24日 16:29:16

とある事業(サービス購入型)のDAでは、こんなことも書いてあると聞いたことがあります。「発注者が○○に基づいて施設整備費の減額を行うこととなった場合」「維持管理・運営サービスの減額ポイントを付与することとなった場合」「維持管理・運営サービスが減額されることとなった場合」「業績連動払いの結果、予定よりもサービス対価が増減する場合」は、その旨、エージェント行に通知するよう、発注者に求める条項が含まれているとのこと。これは、レンダー側からの強い要望であったようです。これは、レンダーが事業運営の成り行きを、レンダーの立場からしっかりモニターするという姿勢に他ならないと思います。(もちろん、発注者の立場からは、面倒な手続きではありますが、減額幅によっては、CFが逼迫することも想定され、早めの手立てを講じる時間を確保する上では、必ずしも悪いことではないでしょうね。)

PFI侍 @ 2007年 12月 24日 16:39:13

モニタリングの結果、フィーの減額がありうるスキームであれば、それは官からレンダーに対して通知する義務があるでしょうね。Potencial Event Of Defaultですし、場合によってはEvent Of Defaultですからね。その通知がないのであればプロジェクト・ファイナンスなどできないでしょうね。

オーキー @ 2007年 12月 24日 17:59:08

ハコモノBTO事業では、こうしたやりとりは必要なく、ほとんどのBOT事業でもこうしたやりとりは必要ない。ほとんどが官の信用に依拠しているといってもいい事業で、プロジェクトファイナンスに仕立て上げる必要があるか、PFIに仕立て上げる必要があるかどうか、古くて新しい課題です。

PFI侍 @ 2007年 12月 24日 18:06:37

他に書いたように、ハコモノでは公共、事業者、レンダーのそれぞれに事業継続のインセンティブが働かない可能性が高い(プロジェクト・ファイナンスの本質に関わる)。だからハコモノPFIなどすべきではない、というのが私の主張です。

オーキー @ 2007年 12月 24日 18:18:47

熊谷さん、この与信審査についてのコメントはともかく、この話は、どういうタイプの事業がPFIに向いているのか、どういう事業はPFIを導入すべきではないのかという、重要な議論ではないでしょうか。私の知り合いには、運営を含む複雑な事業は、サービス水準の設定が難しく、市民のニーズも変わるので、短期契約でその都度官が発注したほうがよく、ただのハコモノ(運営サービスを含まない)の方がPFI向きなのでは、という意見すらあります。
(KPIを活用するなど、変動要素に対処する方法があり、場合によってはサービスフィーの見直しを盛り込むことも可能と紹介しましたが、そもそもの基準設定が正しいと誰が証明できるのか、債務負担行為の設定はそんな柔軟ではないなんて返される始末。民間だって正しいかどうかは証明できるはずもなく、結果を持って検証されるべきものなのですが・・・なお、仙台市の天文台事業では、確か、業績連動払いが導入され、債務負担行為にきちんと組み込まれている。事業者の実績によって、サービスフィーの増減が可能という前例がありますが、先ごろ経団連が出した提言にも、債務負担行為の柔軟な運用が盛り込まれており、仙台市の例が例外なのかもしれませんが)

PFI侍 @ 2007年 12月 24日 18:32:49

PFI侍さん、
仙台市の天文台は熊谷氏が手がけた事例なのでそりゃあそうでしょう(笑)。
もっとも、そのことについては私も高く評価します。

PFIを離れてどのような事業がプロジェクト・ファイナンスに向いているかと言えば、運営部分が比重が高いものの、それは決して複雑ではなく、キャッシュ・フロー予測を単純化しやすいもの、ということになるでしょうねえ。つまりは有料道路などは向いているはず、病院はいろいろ議論のあるところ、必ずしも向いているとは言い切れないものの、まだまだ余地はあるのでは、というところかなと思います。

オーキー @ 2007年 12月 24日 18:37:33

熊谷氏は、
「官は、民にサービス提供の手段や手法を任せる条件として、官が適切な要求水準をきめ、その業績をモニタリングし、要求したサービス水準を達成できない場合にはペナルティを課する事業枠組みを設定する。」と言っておられるが、であれば金融機関にモニタリングさせるのは矛盾以外の何物でもないのでは?
モニタリングがペナルティに連動している以上、金融機関がモニタリングすれば「問題なし」の報告が行くに決まっている。

PFI侍さんは、私が言っている、「一義的に」の意味がお分かりですよね。

オーキー @ 2007年 12月 24日 19:17:47

こういうことでしょうか。「要求水準の達成の有無をモニタリングする」ということについては、たとえば、SPVのヘルプデスク機能、マネジメント機能を持つ事業者がセルフモニタリングを行い、その結果を公共に提示。公共はその報告や自ら把握した結果などに基づき、あらかじめ取り決めた基準に従い、当期のサービスフィーを満額払うか、減額して払うかを決める(もしくは基準に従い自動的に決まる)。そこに、金融機関の直接的な役割があるかというと、ない。じゃあ、金融機関の役割はというと、最初のページにある①~⑥の部分は、事業開始時点では、もう精査し終わっている。⑦~⑪については、事業期間中も条件が変わる可能性があるので、金融機関も定期的にチェックしていく必要はありそうですが、サービスのパフォーマンスの成果をモニターするのとは違いますね。それは、一義的には公共の役割です。CFの推移が想定の変動幅に収まっているかどうか、CFを大きく変動させるような出来事が起きないか、起きる可能性がないか、そういったことは金融機関がチェックする、そんなところでしょうか。熊谷さんは、パフォーマンスのよしあしまで、まずは金融がチェックすべし、とまでは言っていないと思いますが、私の思い違いでしょうか?

PFI侍 @ 2007年 12月 24日 19:35:41

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プロフィール
Hiroshi Kumagae
Hiroshi Kumagae
(男)
1959年05月06日
アビーム コンサルティング㈱             ディレクター
著書:脱「日本版PFI」のススメ 相模書房 ISBN978-4-7824-0705-9
ESADE大学院 国際経営修士
慶應義塾大学院 特別招聘講師(非常勤)
三田図書館・情報学会会員、PMFJ会員 公益事業学会会員
平成18年度内閣府PFI事業の総合評価検討委員会委員
平成19年度自治体PFI推進センター専門家委員会委員
日刊建設工業新聞 所論/緒論コラムニスト
東京LEC 法律文化 連載中 
剣道3段、居合道3段(夢想神伝流)
福岡県生まれ横浜市在住
連絡先:
hkumagae-mobile@softbank.ne.jp
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