モニタリングは官だけの責任ですか?銀行はモニタリングしないの?(その2)

オーキーさん曰く

金融機関に「事業」をモニタリングできる「能力」があるなら、今の日本の金融をめぐる問題の多くは解決しているはずです。
別に日本に限ったことではありません。
一定の基準を設けて、誰かにモニターさせて、それに基づき決定を下すことならできるでしょう。
英国においてもレンダーは事業に関し、技術アドバイザーを雇うなどして「モニタリング」をしているはずですが、いずれにしても一義的な責任など負えるはずもありません。


わたしはここにわが国のPFIの問題の核心があると思います。英国でPFI事業に関わったものとして、その考え方は間違っていると断言できます。
金融機関が、技術的な判断をすることは、本来の専門性から外れた行為であり、当然すべきではありません。しかしながら、英国においてレンダーは、事業に関して技術アドバイザーを雇いますが、技術アドバイザーにモニタリングをまかせきっているわけではありません。技術アドバイザーを活用して、客観的なモニタリングが行えるような仕組みをつくり、金融機関としてのリスクを取っているのです。

確かに、技術上の問題点があるかないかを判断するためには、技術アドバイザーが必要です。しかし、それを技術アドバイザーの分野だから、金融機関はモニタリングすることが出来ないとは考えるべきではありません。
英国では、技術アドバイザーに、客観的にサービスの質をモニタリングする枠組みを設定をさせ、具体的なモニタリングシステムの構築は、民間事業者に競争させて構築する仕組みがとられています。

残念ながら、わが国のモニタリングのガイドラインには、このモニタリング構築の方法が明確に記載されていないため、発注者がモニタリングをしなければならないと思い込んでいるのだと思います。つまり、公共事業であるので最終的に公共が責任を取らざるを得ないという部分が協調されすぎているように思われます。

モニタリングのガイドラインの記載を見てみましょう。
モニタリングの内容を説明する部分では、モニタリングは次の3つの確認となっています。
① 報告書等による履行内容の確認
ⅰ)取り決められた業務報告書が契約に定めた期限等で提出されているかの確認
ⅱ)報告書の具体的内容が要求水準を満たしたものとなっているかの確認
② 事実の確認
報告書の内容自体が事実行為として行われているかの確認。
ⅰ 測定機器による計測(電源装置など計測機器による処理量等の計測)
ⅱ サンプルの抽出による検査(安全基準、衛生基準等定めがあるもの)
ⅲ 現場での抜き打ち検査(選定事業者の仕様書等内容を抜き打ちで検査)
ⅳ サービス受益者等からの苦情等の連絡(受益者等からの苦情により情報を把握)
③その他:顧客満足度調査

これだけでは不十分です。誰が水準をきめるのか、そして、その水準の達成手段や手法を決めるのは誰か、どの水準が機械で測定するものであるのか、どの水準がサンプル抽出の対象であるのか、顧客満足度調査の対象は何か、もしくは、その決め方について、これらのルールの枠組みと具体的なシステムの構築をどのように官民で分担するのかが、記載されなければならないのです。実は、そこに技術アドバイザーの活躍の余地があります。ここで上手に技術アドバイザーを使って、客観的にサービスの質を評価する仕組みを構築することが出来れば、金融機関がモニタリングの結果を評価することが出来るようになるからです。

また、モニタリングの頻度については、わが国のガイドラインには次の3種類が記載されています。
1. 日常的に行うもの、
2. 一定の期間を定め定期的に行うもの、
3. 随時の抜き打ち等非定期的に行うもの等

日常的の中には、機械などを使って24時間継続して行うものと、窓口がオープンの時間帯だけ受付けるもの、通常の作業や巡回で発見するもの、連絡によって緊急に対応するもの、状況に応じて日常とは異なる方法で対処するものがあります。
一定の期間は、毎日、毎週、毎月、4半期、半年毎、毎年、3年毎、や5年毎等が考えられます。
抜き打ち等は、監査の時や、何らかの重要な問題が発生したり、発生する可能性があるときに実施します。

それぞれのモニタリング指標やモニタリング手法は、要求水準と同時に発注者が策定し、事業提案を求める際に事業枠組みとして示します。そして、それらの水準を達成する手法や手段及び、その要求水準を達成しているかどうかをモニタリングするシステムは、事業者に提案させることが重要です。これは、モニタリングはただで出来るものではないからであり、たとえば機械などを使って、兆候を発見したら対処する仕組みを組み込むことによって、リスクの顕在化を防ぐことが可能になったりするからです。そして、このような仕組みが構築できれば、金融機関が事業リスクを判断できるようになるのです。

この仕組みを構築するためには、どのようなリスクがどのような過程で顕在化する可能性があるかについて事前に、技術アドバイザーを交えて深く検討することが重要です。そして、導入可能性調査の段階から、問題が最小限で済む最善のケースから、問題が最大化する最悪のケースまでを、3種類もしくは5種類程度にわけ、どのようなリスクが顕在化するのかについてのコスト算定をするのです。
このリスク算定で示したリスクを民間に移転するために、事業検討の初期の段階ではシナリオ分析によるリスク分析を行います。そして、入札の段階では、事業者の提案によって公共が保持するリスクに対してどのような影響が発生するかについても算定要素の中に組み込めるような、モンテカルロシミュレーション手法などが用いられるのです。このリスク分析が行われていないのが問題なのです。

これらの算定は技術アドバイザーなしでは簡単に出来るものではありませんが、その結果を活用して、発注者が示したままの条件で融資をするか、それとも、事業契約の条件を緩和しなければ、資金調達コストが跳ね上がることを事業者と一緒に発注者と交渉するのが金融機関の役割です。
少なくとも、このようなプロジェクトファイナンスの考え方で、外資系の銀行は融資の検討をします。わが国のメガバンクも、海外のPFI事業には、このような対応をしています。もし、このような対応が出来ないという銀行があるのであれば、その銀行はPFI事業に参加する資格はありません。
いま、日本の銀行の格付けが改善していますが、やはり、このようなプロジェクトファイナンスができるようになってもらわないと、本来の銀行の役割は果たせないのではないかと思います。

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登録日:2007年 12月 24日 23:32:19

コメント

熊谷さんに質問。
1.最後の段落で、「・・・その結果を活用して、発注者が示したままの・・・」とありますが、「その結果」とは、発注者が事前に提示するものなのか、それとも、金融機関が雇った技術アドバイザーの力を借りて、金融機関が算定した結果なのか。発注者がそれだけ詳細なデータを市場に提示すること自体、もし、日本で行うとしたら、革命的なことだと思いますが、実際のところはどうなんでしょうか。発注者も当然、技術アドバイザーを雇っているわけですから、両者の技術アドバイザーが存在して、それぞれチェックを行い、その結果を元に交渉したうえで、発注者と事業者、そして金融機関の三者間契約が成立する、と理解すればいいのでしょうか。

2.サービスの品質に関するモニタリングは、事業者がまず自ら行い、公共が事業者からの報告に基づいて行ったうえで、サービスフィーを払うことになりますが、レンダーが技術アドバイザーを雇って行う「モニタリング」は、これとは別のものではないのでしょうか。運営開始まではともかく、運営が始まってから行うモニタリングは、公共と事業者の間の話だと理解している人は、少なくないと思いますが、もし違うのであれば、ご教示ください。(たとえば、Independent engineerが、運営開始後も、定期的に、金融機関に技術評価レポートを送り、CFが変動する兆候がないかどうか等、情報を提供する。金融機関はこれを元に、事業をモニターすることが可能になる等)

PFI侍 @ 2007年 12月 25日 00:32:05

熊谷氏はちょっと物事をロマンティックに考えすぎるきらいがあるのではないですか?
まあ、金融機関には「事業」をモニターする能力などない、と断言する私の方も極端すぎるのかもしれませんが。でも一定の真理は含んでいますよ(笑)。
だいたいにおいてはPFI侍さんの疑問にお答えいただければよいかと思いますが、金融機関のリスクテイクについて一言。

英国等海外では銀行が「事業」をきちんと見極めてリスクテイクしているのに日本ではプロジェクト・ファイナンスのリスクテイクができていない、との話ですが、これは簡単な事です。
日本の現在のマーケットと英国ではスプレッドが違いすぎます。「事業」をモニターする能力とは全然関係ありません。(いや全然は言い過ぎかもしれませんが)
それが証拠に、ノウハウがあるはずの外資系銀行ですら、日本ではほとんどプロジェクト・ファイナンス方式の融資を行っていないではありませんか。不動産がらみではノンリコース・ローンも結構やっていますが、それでもきちんとしたスプレッドが確保できなければリスクテイクなどできるわけ無いですよ。
日本のPFIはL+50を切っているマーケットですよ。金があまり過ぎて、リスクとリターンの関係があまりに非論理的になるのが日本のマーケットです。英国ではリスクテイクできて、日本ではできないのはそのためです。

但し、英国でもPFIのノウハウが蓄積されて銀行がリスクテイクしやすくなっているということは認めましょう。技術アドバイザーのレポートをきちんと自分達の腹に落ちるように分析できるかどうかは、それなりに銀行にノウハウが蓄積されているかどうかによるでしょう。

あと、
「英国では、技術アドバイザーに、客観的にサービスの質をモニタリングする枠組みを設定をさせ、具体的なモニタリングシステムの構築は、民間事業者に競争させて構築する仕組みがとられています。」
との表現は少々?です。
そもそも客観性の確保はどうやっているのですか?
PFIも事業開始当初は、レンダーも事業者も公共も、利益は同じですから同じ方向を向いています。その意味で、誰が雇うにせよ、技術アドバイザーのレポートは一定程度の客観性が確保されていることが期待はされます。
でも、それは常にそうなのでしょうか?何故?

契約の理論に、ジョイントベンチャーは失敗する、というのがあります。この理論が見事に当てはまるのが日本の第三セクターです。相互依存は、無責任体制を生むだけです。したがって、英国のPFIでは随所にそうした依存を断ち切る仕組みが施されています。依存しないことにインセンティブを与えていると言っても良いでしょう。
だから、金融機関のモニタリングを当てにした仕組みはおかしいのです。

オーキー @ 2007年 12月 27日 01:21:55

まあ、熊谷さんが、ロマンチストかどうかはともかくとして、PFIはおそらく、金融機関、行政、民間事業者それぞれが、それぞれの長所を生かし、役割を果たし、責任をとれるようにすることで、初めて効果があるものなのでしょう。そのために、面倒でもきちんとした基準作りが求められる。それをもとに、はじめて交渉やら対話やらが成り立つわけなのでしょう。「相互依存」にならないような仕組みが必要なのだと、考えるべきでしょうね。「おれがやらなきゃ、誰がやる?」ではなく、「おれがやらなきゃ、誰かやる。」というジョークを教えてくれた上司がいました。相手を当てにするという思考、行動パターンにはまったとき、致命的なミスが起こりやすくなる。PFIに限らず、世の中に当てはまることですね。

ところで、オーキーさんが指摘されているように、およそPFとはいえない様なスプレッドがオファーされる事業が多いのは、金融機関では常識とも言ってよく、また、それを問題視している人も少なくありません。ひどいのになると、L+25というのがあったとか。オファーするほうもするほうですが、普通は安くなったら喜ぶんでしょうね。たいていの担当者は。

一方、ある自治体(BOTにこだわり続けている自治体)の方に話を聞いたところ、そこの案件のこれまでの実績は、おおむねL+90~120程度だったとか。価格よりも内容を明確に重視していることもあり、入札価格が一番安くとも、落札できるとは限らず、過去の案件すべてで、価格が一番安かったところは落ちているとか。安いのも立派なメリットではありますが、選定する側が、缶詰になって内容を十分に吟味し、点数に反映させた結果そうなっているとおっしゃっていました。しっかり見ると、提案によって移転されているリスクに差がみられること、新たなリスクになる提案もあること、同じリスクを管理する方法、コストにも違いがあり、費用対効果をしっかりと見極める必要があるんだとか。大多数の事例は、その逆が多いんでしょうけど。なお、英国のあるコンサルタントに伺ったところ、英国でもかつては+250とか、200とかいうのも珍しくなかったが、標準化が進んできたこともあり、最近では100~150くらいが一種の目安になっている感があるそうです。

PFI侍 @ 2007年 12月 28日 00:13:10

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プロフィール
Hiroshi Kumagae
Hiroshi Kumagae
(男)
1959年05月06日
アビーム コンサルティング㈱             ディレクター
著書:脱「日本版PFI」のススメ 相模書房 ISBN978-4-7824-0705-9
ESADE大学院 国際経営修士
慶應義塾大学院 特別招聘講師(非常勤)
三田図書館・情報学会会員、PMFJ会員 公益事業学会会員
平成18年度内閣府PFI事業の総合評価検討委員会委員
平成19年度自治体PFI推進センター専門家委員会委員
日刊建設工業新聞 所論/緒論コラムニスト
東京LEC 法律文化 連載中 
剣道3段、居合道3段(夢想神伝流)
福岡県生まれ横浜市在住
連絡先:
hkumagae-mobile@softbank.ne.jp
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