官が示す必要のあるPFI事業の直接契約の雛形
PFI事業に関与する公共アドバイザーの役割とは?に対してのオーキーさんのコメントの中に、PFI事業融資の担保に関して英国のフローティングチャージについて触れた部分があります。ここに大きな誤解があるようです。
>さて担保の件では少し誤解があるようです。PFIにしろ、他のプロファイ等のノンリコース
>にしろ、不動産も担保に取るのですよ。むしろ、ボロワーの資産という資産は全部担保
>に取るというのが正しいです。英国ではこれをフローティング・チャージ(不動担保)とい
>う包括的な担保によって押さえます。
>これは貸し金の回収のためではなく、第三者などが一部でも権利を取得することにより
>、資産の譲渡を行う必要が生じた際に権利関係が複雑になり、結局譲渡がうまく行かな
>くなるのを避けるためです。したがって、PFIのローン契約でもSPCの資産は資産は不
>動産も含めて全部担保に取ります。
>
>つまり、返済原資はキャッシュ・フローであるものの、回収目的ではなく、事業の一体性
>の確保のためにボロワーの全ての権利を担保に取るのです。
>
>オーキー @ 2008年 01月 21日 21:59:06
英国のPFI事業にフローティングチャージを活用した事例があるのは事実ですが、それは標準的なものではありません。
英国のDAの雛形は SoPC4の中に提示されていますので、それを参照してみましょう。
最初の部分(第1条から第3条まで)は次の通りです。
THIS AGREEMENT3 IS MADE ON [ ], [ ]
BETWEEN:
(1) [RELEVANT DEPARTMENT OR GOVERNMENT BODY] (the “Authority”);
(2) [ ] (the “Agent” for the Senior Lenders); and
(3) [PROJECT COMPANY] (the “Contractor”).
IT IS AGREED AS FOLLOWS:
1 INTERPRETATION (省略)
2 CONSENT TO SECURITY
(a) The Authority acknowledges notice of, and consents to, the security interest granted over the Contractor’s rights under the Contract effected by the Contractor in favour of the Senior Lenders under the Security Document.
(b) The Authority confirms that it has not received notice of any other security interest granted over the Contractor’s rights under the Contract.
3 NOTICE OF TERMINATION AND EXISTING LIABILITIES
The Authority shall not terminate or give notice terminating the Contract15 on the grounds of Contractor Default without giving to the Agent.
(a) at least the Required Period of prior written notice stating:
(i) the proposed Termination Date; and
(ii) the grounds for termination in reasonable detail, and
(b) not later than the date falling 30 days after the date of a Termination Notice or (if earlier) the date falling 30 days after the date on which the Agent informs the Authority that an Event of Default.16 has occurred, a notice containing details of any amount owed by the Contractor to the Authority, and any other existing liabilities or unperformed obligations17 of which the Authority is aware (having made reasonable enquiry):
(i) at the time of the Termination Notice or the notification of an Event of Default;
and/or
(ii) which will fall due on or prior to the end of the Required Period, under the Contract.
http://www.hm-treasury.gov.uk/media/4/E/pfi_sopc4ch31-37_210307.pdf より
【本来の機能を果たしていないPFI事業の直接契約】
このようなプロジェクトファイナンスであるはずのPFI事業の直接契約(DA)が本来の機能を果たしていない事例が散見されます。現在、DAのドラフトを、金融機関が用意しているばあいがほとんどであり、公共がその内容を十分に理解しないままDAに捺印している可能性があります。
【直接契約締結の目的】
そもそも、直接契約とは何を目的として誰が結ぶのでしょうか
DAの要素として重要なものに次の5つがあります。
1. 契約当事者:発注者、事業者、金融機関の三者が合意する契約である必要があること。
2. 事業の担保権:発注者は、契約に基づいて事業者に与えられている事業者の権利に関する担保権を、
保証状に基づいて事業者がシニアレンダーに与えている旨は認識しており、これに合意すること。
3. 契約解除の制限:発注者は、金融機関に通知することなしに、事業者の債務不履行を理由として、契約を解除しないこと
4. 事業介入の制限:金融機関の事業介入が適切でない場合に自治体の取れる行為等
5. 更改契約(ノベーション:事業者を交代する場合の契約)について
【融資契約の担保は何か】
PFI事業の融資によって、金融機関が担保として取ることができるものは、事業者が事業契約締結によって
得た事業の権利(すなわち、要求通りのサービス提供を条件として、事業者利益を生み出すサービス料金を自治体から受けとることが出来るという権利であり、事業契約のキャッシュフローが生み出す利益を指す)であって、建物や、備品の担保権ではありません。
【DAによって自治体が得られるメリットの有無】
DAで最も重要なポイントであり、発注者である自治体にとって最も大きいメリットは、事業者の債務不履行が見つかった場合に、自治体が事業解約するまえに金融機関が事業介入してくれて、事業のキャッシュフローから生まれるバリューが低下しないように、業務改善してくれることころにあります。
DAでは、金融機関の担保権は事業契約から生まれるキャッシュフローが生み出すバリューであることを明確にした上で、そのバリューを守るために、金融機関の事業介入を公共が認める必要があります。
また、DAは、債務不履行で事業者を入れ替える“更改契約”が発生した場合には、既存の事業者が新たな事業者に対して事業契約に基づく権利を明け渡すことに合意する契約でもあります。
ところが、このような本来のDAのあり方に対して、我が国で一般的に用いられているようなDAでは、 本来の目的を達成することはできません。すなわち、その実態は、金融機関が、自治体に、金融機関が事業者の資産や備品の担保を取っていることを認めさせる契約になっており、官のメリットがない契約になっています。
【なぜわが国のDAに本来のPFIのDAの機能がなくなったのか】
わが国のBOT方式のPFI事業では、金融機関と事業者の融資契約で、PFIの事業対象となっている施設や備品が金融機関の融資の担保になっています。PFI事業ではなく、一般的な融資と同じ形態の担保です。
本来のPFI事業では、事業のキャッシュフローが生み出す、バリューを保護するために金融機関が介入するのですが、わが国のPFIのようなDAでは、金融機関は事業介入しないはずです。なぜなら、事業介入しなければ、官が間違いなく分割払いを保障してくれるからであり、もし事業介入して、事業がおかしくなった場合には、金融機関としての責任問題が生じるからです。このような状況においては、事業介入して立て直すというインセンティブは働きません。
全ての金融機関が同じ考え方に立っているかどうかの検証はできていませんが、従来の与信審査が、事業の破綻後の担保に基づいて行われる以上、割賦支払いでない、プロジェクトのキャッシュフローから生まれるバリューを担保にした審査をしたことがない可能性もあります。
【自治体はどう対処すべきか】
そもそも、いくらBOTであるからといっても、公共の施設を担保にして融資を受けてよいわけがありません。また、事業者が勝手にそんな融資契約を金融機関と結ぶことを、自治体は認めるべきではありません。
【DAの情報開示について】
わが国ではDAは、契約内容の中に金融機関のノウハウが詰まっているという理由で銀行は対外的にオープンしないとしており、また、そのためもあってか、自治体も開示していない事例が一般的です。しかしながら、このDAのあり方は、わが国のPFIでリスク移転が進まない根本的な原因にもなっています。
このDA問題は、今までのところ、PFI事業の課題として取り上げられてはいませんが、自治体の担当者、弁護士、アドバイザーは、このような日本版直接契約を結ぶことをすぐにやめて、本来のプロジェクトファイナンスのDAに改める必要があると思われます。
また、PFI事業はプロジェクトファイナンスであるという常識と、PFI契約のDAの雛形が既にパブリックドメインとして開示されている状況において金融機関もこのようなDAを結ぶべきではありません。
「金融機関がPFI事業への融資を通じて公共サービス提供という社会的役割の一翼を担う」という命題を達成するためにも、『財務モニタリングの実質的な効果を金融機関から得たい』という公共側の考えを実現するためにも、現在の日本版直接協定は見直す時期に来ているのではないでしょうか?
官が、直接契約のあり方を理解した上で、その雛形を示すのが改善の近道だと思われます。
カテゴリー[ 直接契約 ], コメント[1], トラックバック[0]
登録日:2008年 02月 11日 17:12:23
コメント
うーん、どうも良くわからないですね。
熊谷氏はフローティング・チャージは必ずしも一般的ではないと言いながら、その根拠となるものを何も示してませんね。
何故、プロジェクト・ファイナンスでフローティング・チャージを用いるかわかりますか?英国のPFIでフローティング・チャージを利用していないものがあるとしたら、フローティング・チャージを用いなくても同様の効果が得られるか、単純にコーポレート・ファイナンスの手法を用いているからですよ。
フローティング・チャージは包括性を維持したまま担保に取るのに優れた手段です。包括性が維持されるのであればフローティング・チャージではなくても構わないのですが、フローティング・チャージがもっとも手間がかからないと思われます。
私は、海外のノンリコース案件でフローティング・チャージではなくて、SPCの定款に他の借り入れはレンダーの承認事項としたり、ネガティブ・プレッジが入っているのを見たことがあります。これで実効性が担保されるのならこれもありなのでしょう。他に一般債権者があまり入り込んでこないスキームだったらいいかもしれません。
PFIではSPCとサブ・コントラクターとの契約があり、レンダー以外にも債権者がありえますし、これらと権利が同順位もしくは劣後してしまったらそもそも事業の継続などできませんよ。だからこそプロジェクト・ファイナンスでは事業を包括的に担保に取る必要があるのです。包括的に事業が担保されていなくてはステップ・インはワークしなくなり、破綻時に事業の継続は保証されません。
それと直接協定のところで前にも言いましたが、事業者が直接協定でサインしなくてはならない理由はなんでしょうか?
熊谷氏のコメントでは、1で事業者も加えて三社で協定を結ぶとありますが、2から4までで事業者がいなくてはならない理由は見出せませんね。
事業者には事業権の譲渡(ノーベーション)の時、最後まできちんと施設、事業の継承に責任を持ってもらわなくてはなりませんね。でも、それは事業契約で規定されますし、融資契約にもレンダーとの関わりの部分は書けますね。
事業者が直接協定で負う義務があるとしたら、公共とレンダーの間のステップイン、ステップアウトの取り決めに従う、とすることでしょうか。でも、たいした問題ではないですね。何らかの形でアクノレッジさせれば済むことです。
オーキー @ 2008年 02月 12日 23:06:16
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- プロフィール

- Hiroshi Kumagae
- (男)
- 1959年05月06日
- アビーム コンサルティング㈱ ディレクター
- 著書:脱「日本版PFI」のススメ 相模書房 ISBN978-4-7824-0705-9
- ESADE大学院 国際経営修士
慶應義塾大学院 特別招聘講師(非常勤)
三田図書館・情報学会会員、PMFJ会員 公益事業学会会員
平成18年度内閣府PFI事業の総合評価検討委員会委員
平成19年度自治体PFI推進センター専門家委員会委員
日刊建設工業新聞 所論/緒論コラムニスト
東京LEC 法律文化 連載中
剣道3段、居合道3段(夢想神伝流)
福岡県生まれ横浜市在住
連絡先:
hkumagae-mobile@softbank.ne.jp
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