直接契約について金融機関がこんな説明をしていたら要注意

2月11日付の「官が示す必要のあるPFI事業の直接契約の雛形」に対して、オーキーさんから衝撃のコメントを受け取りました。もしかすると、自治体職員は、このような金融機関からの説明を受けて、金融機関が準備した直接契約を締結していませんか。

オーキーさんのコメントのみを引用して、簡潔に説明しましょう。
>熊谷氏はフローティング・チャージは必ずしも一般的ではないと言いながら、
>その根拠となるものを何も示してませんね。

私は、フローティング・チャージを用いてファイナンスしているPFI事業を否定しているわけではありません。一般的でないといっているだけです。それは、直接契約の雛形を読めばわかることです。
(翻訳するのは苦手なので、あまりしたくないのですが、根拠は既に示しています)

2 CONSENT TO SECURITY(担保に関する合意事項)
(a) The Authority acknowledges notice of, and consents to, the security interest granted over the Contractor’s rights under the Contract effected by the Contractor in favour of the Senior Lenders under the Security Document.
当局は、事業者が、担保(を規定した)書類に基づき、事業契約に基づいて持っている権利をシニアレンダーに対して、担保権として与えていることに関する通知を受け取っており、この点については合意するものである。
(b) The Authority confirms that it has not received notice of any other security interest granted over the Contractor’s rights under the Contract.
当局は、事業者が事業契約に基づいて、これ以外に担保権を(誰かに)与えたという通知は受け取っていないことを確認する。


ここの「事業契約に基づいて事業者が持っている権利」とは、事業契約の要求水準に基づいてサービスを提供しさえすれば、契約に記載されたとおりの金額が受け取れるというキャッシュフローから生まれるバリューが事業者の権利であることを意味します。つまり、金融機関からの融資は、事業契約のキャッシュフローから生まれるバリューが担保になっていることがわかります。不動産担保ではありませんし。フローティング・チャージによる包括的なSPCの担保でもありません。

>何故、プロジェクト・ファイナンスでフローティング・チャージを用いるか
>わかりますか?英国のPFIでフローティング・チャージを利用していないもの
>があるとしたら、フローティング・チャージを用いなくても同様の効果が
>得られるか、単純にコーポレート・ファイナンスの手法を用いているからですよ。


この断定的な意見の根拠は何なんでしょう?

>フローティング・チャージは包括性を維持したまま担保に取るのに優れた手段です。
>包括性が維持されるのであればフローティング・チャージではなくても
>構わないのですが、フローティング・チャージがもっとも手間がかからないと
>思われます。
>私は、海外のノンリコース案件でフローティング・チャージではなくて、
>SPCの定款に他の借り入れはレンダーの承認事項としたり、ネガティブ・
>プレッジが入っているのを見たことがあります。
>これで実効性が担保されるのならこれもありなのでしょう。
>他に一般債権者があまり入り込んでこないスキームだったらいいかもしれません。


上記からは、フローティング・チャージを用いれば、包括的に担保が取れることに触れているだけであり、まるで、Due Diligenceをしなくても、フローティング・チャージを用いさえすれば、融資ができるように見えてしまいます。

PFI事業とは、不動産の担保を取って融資しているのではありません。事業のキャッシュフローから生まれるバリューを担保にとって融資しているのです。

>PFIではSPCとサブ・コントラクターとの契約があり、レンダー以外にも
>債権者がありえますし、これらと権利が同順位もしくは劣後してしまったら
>そもそも事業の継続などできませんよ。だからこそプロジェクト・ファイナンスでは
>事業を包括的に担保に取る必要があるのです。包括的に事業が担保されていなくては
>ステップ・インはワークしなくなり、破綻時に事業の継続は保証されません。


PFIの標準契約約款の雛形を前提にしての議論です。PFIではSPCとサブコンの契約があるのは理解できますが、SPCがサブコンに対して資産の担保権を設定することはありませんし、そのような債権者がいないことは、直接契約で示されています。

>それと直接協定のところで前にも言いましたが、事業者が直接協定でサイン
>しなくてはならない理由はなんでしょうか?
>熊谷氏のコメントでは、1で事業者も加えて三社で協定を結ぶとありますが、
>2から4までで事業者がいなくてはならない理由は見出せませんね。
>事業者には事業権の譲渡(ノーベーション)の時、最後まできちんと施設、
>事業の継承に責任を持ってもらわなくてはなりませんね。でも、それは事業契約で
>規定されますし、融資契約にもレンダーとの関わりの部分は書けますね。
>事業者が直接協定で負う義務があるとしたら、公共とレンダーの間の
>ステップイン、ステップアウトの取り決めに従う、とすることでしょうか。
>でも、たいした問題ではないですね。何らかの形でアクノレッジさせれば済むことです。


別に私がコメントしているのではありません。
THIS AGREEMENT3 IS MADE ON [ ], [ ]
BETWEEN:
(1) [RELEVANT DEPARTMENT OR GOVERNMENT BODY] (the “Authority”);
(2) [ ] (the “Agent” for the Senior Lenders); and
(3) [PROJECT COMPANY] (the “Contractor”).
と、直接契約は、三者間の契約であることは、PFIの直接契約の常識です。

発注者と事業者には、事業契約という直接の契約関係があります。
事業者と金融機関には融資契約という直接の契約関係があります。
ところが、発注者と、金融機関には直接契約がありません。だから、3者が直接契約を締結することによって、発注者と金融機関の間の直接的な関係が結ばれるのです。

たいした問題ではないという部分が、実は直接契約において最も重要なポイントです。この最後の5番目が機能するために1番から4版までの要件が必要になるのです。
もし、SoPC4で規定しているような直接契約が存在しなかったら、まず、発注者は金融機関との直接的な契約がないので、ステップインの権利を与えるためには、新たな契約を締結する必要が出てきます。すぐに与えることはできません。
さらに、SoPC4で規定しているような直接契約が存在しなければ、事業者は公共とレンダーが勝手に決めたステップイン、ステップアウトの取り決めに従う必要はありません。利害が衝突しているからです。
直接契約がなぜ必要なのか、どのような直接契約が必要なのかについて、発注者として認識しておく必要があります。

カテゴリー[ 直接契約 ], コメント[1], トラックバック[0]
登録日:2008年 02月 14日 22:10:35

コメント

熊谷さん、これまずいですよ。プロジェクト・ファイナンスの専門家が失笑しますよ。
熊谷さんはプロジェクト・ファイナンスの契約構造を良く理解されていないようです。
熊谷氏を攻撃するのが目的ではありませんが、ある意味格好の教材なので反論します。

>この断定的な意見の根拠は何なんでしょう?
簡単です。包括的な担保を取らないファイナンスはプロジェクト・ファイナンスとは呼べないからです。何故、包括的な担保が必要かはおって説明します。

熊谷氏もプロジェクト・ファイナンスは、事業のキャッシュ・フローに依拠するファイナンスだと言っています。で、本気で、事業契約のみがキャッシュ・フローの源泉とお考えですか?
それはそもそも熊谷氏が提唱するユニタリー・チャージの考えとも矛盾します。熊谷氏によれば、施設のアベイラビリティとサービスは一体なんですよね?それなら何故、担保を不動産と事業契約に分けるのですか?
プロジェクト・ファイナンスは特定の事業にかかる全ての資産をもって成り立つものです。施設とサービスは不可分であり、だからこそユニタリー・チャージの考えが成り立つのです。

>PFI事業とは、不動産の担保を取って融資しているのではありません。事業のキャッシュフローから生まれるバリューを担保にとって融資しているのです。
ここに熊谷氏のプロファイへの無理解がある意味凝縮されています。
そもそも、プロジェクト・ファイナンスで不動産を担保に取るのはその換価価値に着目しているからではありません。事業の継続から資金の回収をはかるからこそ、不動産の担保も必要なのです。
熊谷氏もPFIで事業者が破綻した場合は、レンダーが事業を継承するものを探してくる、ことに触れていますよね。事業契約の担保だけで本気でワークするとお思いですか?じゃあ、施設はどうするのですか?公共が新たに入札をかけるのですか?そうではないでしょう。施設も一体として、新たな事業者に継承させるんですよね?それには、事業を包括的に担保する仕組みが必要なのです。
公の施設を担保に取ることは、公物管理の観点から難しい側面もありますが、英国にはわが国のような公物管理の概念はありません。フローティング・チャージで事業者の資産の一切を担保に取ることに障壁は少ないはずです(無いとは言いませんが。)。

>さらに、SoPC4で規定しているような直接契約が存在しなければ、事業者は公共とレンダーが勝手に決めたステップイン、ステップアウトの取り決めに従う必要はありません。利害が衝突しているからです。
直接協定の存在と事業者の義務は関係ありません。何故ならステップインにかかる事業者の義務は融資契約に書かれるからです。それが証拠に、海外のPFIではないプロジェクト・ファイナンスでは直接協定がないものも結構あります。無くてもステップ・インはワークするのです。PFIで公共性が問題となるから直接協定が必要となるのです。
もうこれは反論とか何とかではなく、プロジェクト・ファイナンスにおけるコモン・センスです。

オーキー @ 2008年 02月 19日 23:43:36

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プロフィール
Hiroshi Kumagae
Hiroshi Kumagae
(男)
1959年05月06日
アビーム コンサルティング㈱             ディレクター
著書:脱「日本版PFI」のススメ 相模書房 ISBN978-4-7824-0705-9
ESADE大学院 国際経営修士
慶應義塾大学院 特別招聘講師(非常勤)
三田図書館・情報学会会員、PMFJ会員 公益事業学会会員
平成18年度内閣府PFI事業の総合評価検討委員会委員
平成19年度自治体PFI推進センター専門家委員会委員
日刊建設工業新聞 所論/緒論コラムニスト
東京LEC 法律文化 連載中 
剣道3段、居合道3段(夢想神伝流)
福岡県生まれ横浜市在住
連絡先:
hkumagae-mobile@softbank.ne.jp
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