戦争にも「仁義」が必要。イスラエルにはケジメを取らせるべき
<レバノン情勢>環境団体、爆撃による重油流出の被害状況を調査 - レバノン
【Jiyeh/レバノン 6日 AFP】イスラエル軍が7月から8月に行ったベイルート(Beirut)南部のJiyehにある発電所への爆撃で、1万5000トン以上の重油が流出し海底に沈んだ。
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(c)AFP/GREENPEACE/PIERRE GLEIZES
今年8月14日の停戦以来、もうすぐ2ヶ月が経とうとしている。だが、レバノンに侵攻したイスラエル軍の大部分は撤退したものの、未だ全ての撤退が完了した訳ではなく(関連情報)、イスラエルの爆撃機が今もレバノンの領空を侵犯している(関連情報)など、かの地の情勢は未だ不安定だと言える。また、イスラエル側が和平の条件としてあげた、ヒズボラの武装解除も現実的ではなく、イスラエル軍のハルツ参謀長が「ヒズボラが態勢の立て直しを図れば我々は阻止する」と発言するなど、今後、衝突が再燃する恐れもないわけではない。
再び紛争が勃発するのを防ぐにはどうしたらいいのか?思うに戦争することが双方にとって損である状況を作ることが重要かと思われる。そのためには、今回の紛争での被害実態を明らかにした上で、ハーグ陸戦条約やジュネーブ条約などに違反する戦争犯罪については、賠償などの何らかのペナルティーを科すことが必要なのではないだろうか。
続き)
■イスラエル軍の国際法違反
「一度、戦争になったら一般市民に犠牲が出るのも仕方がない。それが戦争というものだ」等と知った風なことをいうヒトビトがよくいる。だが、戦争をするにも「仁義」というものがあり、ジュネーブ条約などの国際人道法や、ハーグ陸戦条約などの戦時国際法で「やってはいけないこと」が定められている。例えば、“医療関係者の活動を妨害しない”、“不必要な苦痛を与える兵器は使用しない”“電気や水などの社会的基盤、ライフラインを破壊してはならない”、そして“一般市民を戦闘員と区別し、攻撃の対象としないこと”などなど。こうした視点から見て、今回のイスラエル軍のレバノンへの攻撃は明らかに「仁義」に反するものだった。
例えば、今夏の現地取材では、いくつも破壊された救急車を見かけたし、レバノン南部のティブニーン市では、国際赤十字の事務所が空爆されていた。電力施設や水道施設も執拗に攻撃され、病院には空爆で負傷した人々だけではなく、不衛生な水を飲まざるを得なかったため、病気になった人々、特に子ども達が大勢いた。またレバノン中部を流れるリタニ川以南では、「路上を移動するものは例えニワトリであっても攻撃される」状況であったため、物流もストップ。食料の配給ですら困難となり、レバノン南部では飢えた人々は木の根や草すら食べ、結局餓死した人もいた。さらに、事前通告を受けた報道関係者の車のナンバーを上空から識別する能力がありながら、イスラエル軍はより安全なところへ逃れようとする避難民達を爆撃し、停戦合意の報道を見聞きして住民達が戻ってきた住宅地も空爆した。
国際的な人権団体アムネスティ・インターナショナルは「イスラエル軍は故意かつ戦略的にレバノンの社会的基盤を破壊した」とする調査報告を発表している(関連情報)が、私も現地を取材した感想として、この調査報告は的を得たものだと思う。イスラエル政府関係者は「ヒズボラ*が市民を盾にした」と責任逃れの発言をしているが、詭弁もいいところだ。
*ヒズボラ:アラビア語で「神の党」を意味するヒズボラは、イスラエル軍によるレバノン占領への抵抗の中で1972年に結成された。日本の報道で「民兵組織」として紹介される軍事部門の他、政治部門もあり、レバノンの連立政権の一翼として、16人の国会議員と2人の大臣を擁する。また教育や医療・福祉などの社会サービスにも熱心で、特にレバノン南部では圧倒的な支持を誇る。今回の紛争では、ヒズボラがイスラエル兵を捕虜としたことがレバノン攻撃の口実とされたが、一方でイスラエル軍も諜報活動の一環として一般市民を含むレバノン人を拉致しており、ヒズボラはイスラエル兵の釈放の条件の中で、拉致されたレバノン人の解放も要求していた。
■イスラエルは賠償すべき
レバノン政府の発表によればイスラエル軍による攻撃で、1187人の市民が死亡、3600人が負傷したとされる。さらに、学校や道路等の公共施設や住宅の損害額は約4000億円とレバノンのGDP*の約6分の1にも上った。その上、イスラエル軍は、多数の子爆弾が地雷と化すため「非人道的兵器」とされるクラスター爆弾を多用、国連地雷対策調整センターによれば56~110万発の子爆弾が「地雷」としてレバノン各地にバラまかれたという。イスラエル側としても、カチューシャミサイルなど、ヒズボラの報復攻撃で44人の市民が死亡、1350人以上が負傷した。僅か一ヶ月ほどの衝突としては被害はあまりに甚大だ。
*04年の世界銀行の推計によれば、レバノンのGDPは約218億ドル。
レバノンの復興支援に関しては、中東各国や米国、EU諸国、そして日本などが合計1100億円の支援を表明しているが、これらの被害はイスラエル軍の無差別攻撃の結果であり、本来ならばイスラエルに支払わせるべきものだ。同様に、ヒズボラもまた、イスラエル市民の被害に関しては補償すべきであろう。これまでの事例では、「戦後賠償」というものは、敗戦国が戦勝国に支払うというケースがほとんどだったが、特に国際人道法違反の戦争犯罪に関しては、加害側が支払うようにしてもよいのでは、と思う。米国のイラク攻撃にしても、イスラエルによるレバノン攻撃にしても、攻撃する側が被害を受ける側に対し賠償しないか、「復興支援」という形で国際社会に肩代わりさせている。だが、被害に対して攻撃した側が相応の賠償を要求される、という形になれば、未然に紛争を予防できないか、と思うのだ。
余談:「賠償」といえば、イスラエルは「パレスチナ難民の帰還及び、帰還を望まない難民への補償」を求める国連決議194号を1948年の採択以来、受け入れていない。しかしながら、そもそもイスラエルという国家は、1947年採択の国連決議181号により認められたものであり、イスラエルが国連決議194号が尊重せず、181号だけを認めてほしいというのは、余りにもムシのいい話であり、認められるべきではない。
■暴力ではなく法による統治のために
本ブログの読者の方々にも、私のアイディアを「非現実的だ」と思う人々も少ないないかもしれない。しかしながら、例えば経済のグローバル化の中で、WTO(世界貿易機関)は、その加盟国の「貿易の自由化を阻害する」と見なした行為に対して、制裁を科している。よく「WTOは、米国を中心とした欧米諸国の利益のためのみに存在する」という批判もあるし、事実、そう言われるに相応の実態もあるのだが、実は米国すらも鉄鋼のダンピングやセーフガードに関してWTOから「違反」だとレッドカードを出された事例もある。国家間紛争や国際人道法違反に関しては、国際司法裁判所及び、国際刑事裁判所が既に設立されているが、これらの機関にWTO並みに強力な権限を与え、加盟しない国に対しては、国連での権利、特に安全保障理事会での発言権等を制限すべきであろう。
いずれにしても、戦争だから何でもやっていい、というのではなく、実際には「やってはいけないこと」というものが、戦争という極限状態においても、確かに存在する。日本を始め、国際社会はただ戦争の被害に対し「復興支援」という形でカネを出すだけでなく、ダメなものはダメだと、きちんと批判し、それなりのケジメを取らせることが必要だろう。国際社会が暴力ではなく法によって維持されることは、これまでの歴史の中で夥しい量の血を流し、死体の山を築いた末に人類がようやく得た叡智であり、未来への希望と責任でもあるのだ。
カテゴリー[ イラク・中東 ], コメント[4], トラックバック[0]
登録日:2006年 10月 10日 03:39:02
コメント
面白いサゼスチョンです。
では、逆に、米国やイスラエルが戦争を裁かれるのに必要な要件は、何でしょう?
って、現段階では純粋理論的な訓練として、になってしまいますが、その分発想は自由でしょう?
田仁 @ 2006年 10月 10日 15:04:12
>被害に対して攻撃した側が相応の賠償を要求される、という形になれば、未然に紛争を予防できないか
それ以前にレバノン政府に警察能力あれば今回の紛争防げたんじゃないの?
で、あんたの理屈だと北朝鮮に国際社会はなんら物理的手段にうつことできないんですけど?
岸 @ 2006年 10月 13日 12:45:02
国連で、人権擁護委員会だか理事会だか、随分と面白い事になってるようじゃないですか。
もう一寸欧州にも余裕ってものがあって、見守る姿勢を続けてくれれば、新しい機運が生まれるかも知れませんね?
田仁 @ 2006年 11月 02日 21:08:12
質問する前に自分で考える、ということも大事だと思うんだ(@∀@)
その訓練ができてないと、結果的に「それが何か?」と人に言われるような
どうでもいいことばかり口走ることになる。
「世界は弱肉強食」「戦争に仁義などない」などという、利いた風な
物言いがあるが、それは世界史の半分(というか、もっと少ない部分)
しか見ない言い草だ。世界史を詳しく知れば知るほど、
国際紛争を戦争以外の方法でおさめようという思想と交渉の営為は
えんえんと続いていることがわかる。たとえひとつの試みが破綻
しようとも教訓は残るし、新たな試みは常におこなわれている。
シバレイ氏の意見は、つきつめるとこういうことになる。
イスラエルの政治的な意思決定の過程においては、
「戦争や軍事行動を起こす場合のコスト・ベネフィット」を認識する
プロセスも当然含まれているのだが、現状ではそのコストが非常に低く
見積もられている。そのようなコスト評価体系を組み替えさせるために
新しい制度が必要なのだ、と。
で、ヒズボラは主に武力でイスラエルにコスト評価体系を見直させようと
しているわけだが(つまり「俺たちに手をだすと高くつくぜ」という)、
もちろんこの方法は犠牲が大きすぎておすすめできない。
(ただヒズボラが「武力だけ」の組織でないことも事実で、だから
大衆的に支持されている。)
武力以外の方法で、ある国の「戦争のコスト評価体系」を
いかに変えていくか?これは論ずるに値するテーマだ。
「不平を言うよりアイデアを出せ」というのは、日本のある経営者の
言葉だが、経営以外の場においても言えることじゃないかな(@∀@)
なお「国際社会」とかいう思考停止ワードは頭悪く見えるから
使わないほうがいいよ。
「それを英語で言えますか?」(@∀@)
・・・↑こういうことを突き詰めて考えたことがないのが
ゆとり教育クオリティ(@∀@)
九郎政宗 @ 2007年 02月 25日 16:29:15
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- プロフィール

- 志葉 玲(シバレイ)
- (男)
- HP:志葉玲Official Web Site
- ■1975年生まれ。番組制作会社を経て2002年からフリーに。イラク、レバノンなどの紛争地での現地取材の他、地球温暖化などの環境問題、共謀罪など国内政治まで幅広く取材している。
■志葉関係の本が相次いで出版されました!二冊とも、御一読いただければ幸いです。
『川田龍平 いのちを語る』 (川田龍平 著 志葉玲 写真/明石書店)
『たたかう!ジャーナリスト宣言 ボクの観た本当の戦争』(志葉玲 著・写真/社会批評社)
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