【フセイン元大統領死刑執行】サダムを「英雄」にする、「世論対策」「口封じ」の処刑
【バグダッド/イラク 30日 AFP】サダム・フセイン(Saddam Hussein)元大統領(69)の絞首刑が30日、自らの政権時代に使用していた拷問施設の一つで執行された。
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(c)AFP/DSK
ご存知の通り、イラク政府は30日、サダム・フセイン元大統領の死刑を執行した。20万人ものクルド人が行方不明になった(恐らく殺されたと思われる)というアンファル作戦など、サダム政権が、数々の人権侵害を行ってきたことは疑いようのない事実であり、当然その報いをうけるべきであろう。ただし、このたびのサダム処刑は断じて「独裁に対する民主主義の勝利」などではない。独裁下の人権侵害の真相は明らかにされないまま、支持率や求心力の大幅低下が危惧される米国・イラク両政権が、アピール的に処刑を急いだだけなのだ。そして、最初から最後まで米国に利用された独裁者は、処刑によって「殉教者」に仕立てあげられるのだろう。
続き)
■「世論対策」と「口封じ」~米国側の事情
サダム処刑を急ぐイラク政府にブッシュ政権がゴーサインを出したのは、一つにはイラクでの米軍死者数がもうじき3000人の大台に達することが大きいだろう。昨日30日、その数字は2998人までにのぼった。今月18日に公表されたCNNの世論調査によると、ブッシュ政権のイラク戦争の支持は過去最低の28%にまで落ち込むなど、米世論はますますブッシュ政権に対して厳しいものとなっている。だから、米メディアにおいても、「サダム処刑は批判回避のため」という指摘は少なくない。
だが、サダム処刑が米国にとって都合がいい理由はそれだけではない。サダムを生かしておけば、「米国の恥ずべき過去」が白日の下にさらされるかもしれないからだ。言わば、「口封じ」である。サダム・フセイン政権崩壊直後、バグダッドで取材をしていた私は、あるイラク人男性に会った。彼の手は、何本かの指が第二関節のところ、つまり真ん中くらいで、切断されていた。「サダム時代に拷問されたんだ」とその男性は言った。私は「では、サダム政権が崩壊して嬉しいだろう?」と聞くと、「サダムは嫌いだが、アメリカはもっと嫌いだ。あの国が諸悪の根源だよ」と答えたのだった。
よく知られたことだが、イラン・イラク戦争(1980~1988)の発端は、イスラム革命による親米政権崩壊を不愉快に思った米国が、サダムをそそのかしてイランに侵攻させたことに始まった。当時の米レーガン政権は、サダム政権に対して全面的な支援を行っていたが、ボツリヌス菌など生物兵器の原材料をイラクに提供していたことが、当時の議会記録に残っている。また、イラクの生物・化学兵器、そして核開発のために、24の米企業が関わっていたことも、ドイツ紙「ターゲスツァイトゥング」によって報じられている(関連情報)。
サダム政権に対する国際的な非難が高まったクウェート侵攻に関しても、米国は事前にそれを知りながら、止めようとしなかった。1990年7月25日、サダムと会談した当時の米国の駐イラク大使エイプリル・グラスピーは、サダムがクウェートの併合を示唆した際、「国境問題に介入するつもりはない」と発言。その一週間後の1990年8月2日、イラクはクウェートに侵攻した。そして、湾岸戦争での空爆では15万8000人*のイラク人が殺されたと言われている。このことは、サダム側の暴露によって明らかにされたことだが、同じように、過去にさかのぼって、いろいろサダムに告白されては、米国は困るのである。
*米商務省に依頼された人口統計学の専門家ベス・ダポンテ氏の調査による。
■マリキ首相の保身~イラク政府の事情
イラク政府にもイラク政府の事情がある。今年2月のアスカリ聖廟爆破事件(関連記事)から劇的に悪化したシーア・スンニ両派の対立は、連日100人以上が犠牲になるなど、ますます激化の一途をたどり、イラク政府に対する内外からの批判は強まっている。特に、イラク赤新月事務所への襲撃・誘拐事件など、最近バグダッドで何度も起きている大規模誘拐では、
・数十台もの犯行グループの車両は、イラク警察のものだった。
・米軍やイラク軍の検問がバグダッド中にあるのに、拘束した大勢の人々を乗せた犯行グループの車が自由に移動できていた。
・犯行グループが持っていた銃はイラク警察が使っている銃と同じものだった。
など、イラク治安当局の関与、あるいは黙認が疑われており、マリキ首相の責任を問う声も高まっていた。マリキ首相は長年イラクを支配してきた独裁者を処刑することで、その威信を示したかったのかもしれない。
そもそも、現在の宗派間衝突の原因は、イラク内務省の暴走にある(詳しくは現在発売中の週刊SPA!に掲載されている特集をご覧いただきたい)。サダムが処刑される一方で、ジャファリ前イラク首相や、ジャブル前イラク内務大臣の責任が未だに曖昧とされたまま。これでは「サダム処刑はシーア派政党による私刑」とイラクの旧政権支持層に受け取られても仕方ない。イラク情勢は安定するどころか、ますます混乱していくことが懸念される。
■最大の「人道に対する罪」は国連安保理によるもの
イラクにおける「人道に対する罪」ということに関しては、サダムだけを悪者にはできないだろう。最大65万5000人*の人命を奪ったと言われる米主導の占領はもちろん、サダム独裁時代でさえ、イラク国民を最も苦しめていたのは、実は米国を中心とする国連安保理だった。90年のクウェート侵攻から03年5月まで行われた対イラク経済制裁、特に96年12月までは、食料や医薬品すら輸入を認められず、ユニセフの統計によれば、91年から98年までに約50万人もの子ども達が経済制裁による影響で死んでいった。当時、国連のイラク担当人道問題調整官だったデニス・ハリディー氏は「これはもはや大量虐殺だ」と抗議、その職を辞したのである。
*英医学誌「ランセット」掲載の論文による。関連記事
■「英雄」として死ぬサダム
今年秋、私は100万人もの難民が避難しているという、イラク隣国ヨルダンの首都アンマンを取材した。その中で出会ったあるイラク人男性はこう嘆く。「サダム独裁時代ですら、一般市民の間では、スンニだのシーアだの人々が争いあうことなんかなかった」。彼の父親はスンニ派、母親はシーア派なのだという。最初のうちは、サダム独裁の終焉を喜んでいた人々さえも、その後の混乱の中でサダム時代を懐かしむようにすらなっていたのだ。
サダム時代を懐かしみ、彼を「独裁者」ではなく、「イラクを一つにしていた偉大な指導者」とみなす風潮は、このたびの死刑執行が「米主導の不公正な裁判の中で処刑された」という印象を与える(関連記事)だけに、今後ますます高まることになるかもしれない。サダムは死刑執行直前、面会に来た親族に対して「殉教者としての死は本望」と語ったという。無様な獄中での姿をさらすよりも、「悲劇のヒーロー」としての死をサダムは望んだのかもしれない。
だが、サダム独裁の闇を明らかにするのであれば、あんなにもあっさりサダムを処刑するのではなく、生かしておいて真相究明に協力させるべきだった。上述の「アンファル作戦」他、数々の人権侵害や虐殺の真相が明らかにされないままで、サダム死刑判決の罪状は「1982年のシーア派住民148人の虐殺」のみだったのだ。これでは、サダム独裁下で虐殺された人々も浮かばれないというものだろう。
結局、サダムは、イラクの人々だけではなく、米国やイラクの政権関係者のごく短期的な利益のために裁かれ、処刑されたのだろう。しかし、処刑によって、サダムを英雄視するような風潮が高まれば、ブッシュ政権やマリキ政権にとってすら、不利益が出てくるだろう。そして、国際社会にとっても「人道に対する罪」をいかに裁くかという大きな問題に悪しき前例を作ってしまったのである。
カテゴリー[ イラク・中東 ], コメント[1], トラックバック[2]
登録日:2006年 12月 31日 14:15:14
コメント
サダム裁判については、その訴追内容(数件の住民虐殺事件)への疑問が深まるだけだった。裁判ではサダム弁護人が次々と暗殺されたし、コラムの「シーア派住民148人殺害」についてだが、「サダムは住民を一人も殺害していない」と証人に名乗りを上げていたその住民たちが法廷から無視され、代わりになぞのイラン人が証人として出廷していたと言う衝撃の告発がある。
またこういう告発をする部族リーダー、弁護人を次々と誘拐して殺害してきたことも記憶すべきだろう。
米国主導の「悪の枢軸キャンペーン」は一体何なのか?
今も平然と真顔でブッシュが演説しているのを見て思うのは、
「この人には人間の心が全くない」・・・ただそれだけだ。
うだすみこ @ 2007年 01月 06日 12:59:03
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今年は友人たちと石川県金沢市の尾山神社へ初詣に行ったが、 来年は行くのをやめようと思う。 先日、我が家で鍋会をやっていたときに、ひとりの参加者が、 「金沢は嘘で塗り固められた街だ、前田利家という人殺しをあがめたてまつって。当時は、たくさん人を殺せば偉くなった
date:2006年 12月 31日 23:17:41
前夜、一睡もできなかった。かのニュースの行方も気にはなっていたのだけれど、これは例のストレスからくるものだと思った。寝つきをよくするお薬はいつものように飲んでいたけど、もっとつよいものを服用すればよかった。朝の6時にはあきらめて起きあがり、あたたかいお茶を淹れてもらった。 イラク大統領が亡くなった。サッダーム・フセインは、首を絞めて殺された。 「わたしのいないイラクなど無意味だ」と最期に述べたという。犠牲祭初日の早朝の、あまりに凛然とした…。 わたしは神に祈ったはずだ。あなたのお導きで、かの国をこれ以上の混乱に陥れないでくださいと。 その翌日、仕事のミーティングの合い間...
date:2006年 12月 31日 16:53:32
- プロフィール

- 志葉 玲(シバレイ)
- (男)
- HP:志葉玲Official Web Site
- ■1975年生まれ。番組制作会社を経て2002年からフリーに。イラク、レバノンなどの紛争地での現地取材の他、地球温暖化などの環境問題、共謀罪など国内政治まで幅広く取材している。
■志葉関係の本が相次いで出版されました!二冊とも、御一読いただければ幸いです。
『川田龍平 いのちを語る』 (川田龍平 著 志葉玲 写真/明石書店)
『たたかう!ジャーナリスト宣言 ボクの観た本当の戦争』(志葉玲 著・写真/社会批評社)
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