正に泥沼、新政権発足の見通し立たないイラク
【バグダッド/イラク 6日 AFP】イラク移行政府のイブラヒム・ジャファリ(Ibrahim Jaafari)首相は、4月末までに正式政府樹立を目指したいと語った。写真は、バグダッドでジャファリ首相と共同記者会見に臨む米共和党上院議員のジョン・ウィリアム・ワーナー(John Willian Warner)上院軍事委員会委員長(左)。(3月21日撮影)(c)AFP/POOL/SABHA ARAR
総選挙から4ヶ月たっても新首相すら決まらない…今、イラクの政治状況は正にマヒ状態に陥っている。「イラクの民主化」を掲げてきた米国もメンツ丸つぶれ、日本政府も自衛隊の撤退時期を決められない有様だ。なぜ、こんなに新政権発足が遅れているのか。私なりに整理してみた。
昨年12月15日に実施された総選挙は、フセイン政権崩壊後の「本格政権」を樹立するための選挙だった。ところが、組閣が進まないどころか、誰が新首相になるのかも不明瞭な状況だ。一旦はシーア派による最大会派UIA(イラク統一同盟)で続投が承認されたイブラヒム・ジャファリ移行政府首相に対し、クルド人やスンニ派の政党、そして身内のUIAからも辞任を求める声が上がるなど、イラクの政治は正に混沌としている。
■混乱を読み解くキーワードは「連邦制」「宗派間衝突」「イラン」
混乱を読み解くキーワードは「連邦制」と「宗派間衝突」そして「イラン」だ。連邦制とは、独立国並みの権限を持つ地方政府をつくることができ、治安権限や石油の利用権も地方政府が握るというもの。昨年10月に国民投票を経て承認されたイラク新憲法で規定されたが、これにスンニ派やその他の少数民族が猛反発している。というのもスンニ派の多いイラク中部・西部は有望な油田がなく、荒地で農耕地にも適さない。連邦制の是非は正に死活問題なのだ。
連邦制はフセイン政権時代から湾岸戦争以降は、一定の自治権を持っていたクルド人達が提案したものだが、UIA内の二大勢力の一つであるイラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)がイラク南部の石油の利用権を主張し始めたので、連邦制をめぐる対立はより激化してしまった。UIAの中でも少数勢力ながらキャスティングボードを握るサドル師派は、「イラク分裂につながる」として連邦制に反対している。先のUIA内での次期首相選で、ジャファリ首相はSCIRIの候補を一票差で破ったが、それはサドル師派の支持をジャファリ首相が得られたからだ。
■シーア派会派とクルド人会派、連立解消か?
だが、今年2月末から3月頭にかけてトルコを訪問したジャファリ首相は、連立を組む予定だった議会の第二勢力クルド同盟を激怒させてしまった。それはジャファリ首相がトルコ側に対してイラク北部の街キルクークを「クルド人地区に編入しない」と話したからだ。クルド人にとっては、トルコ政府は同国領内のクルド人の村々を焼き、人々を殺した仇敵。また、旧フセイン政権によって同胞達が立ち退かされ、約20万人が行方不明になる等した「悲劇の地」キルクークをクルド人の手に戻すことは譲れない。さらにキルクークはイラク最大の油田地帯であり、これをクルド人地区に編入するかしないかでは、連邦制に基づく地方政府をつくった際に得る利益がまったく違うのである。
憤激したクルド同盟はUIAとの連立を破棄することも示唆。先月3日には、スンニ派会派指導者のアドナン・ドレイミ氏が「ジャファリ首相が続投を断念しない限り、UIA抜きの連立政権をつくる」と発表したが、クルド同盟もこれに同調している。スンニ派2大会派とクルド同盟、アラウィ元首相率いるイラク国民リストが連立を組めば、UIAの議席数を凌ぐだけに、ジャファリ首相は窮地に追い込まれたと言える。スンニ派としては、先のアスカリ聖廟爆破事件以来の宗派間対立で、ジャファリ首相(だけでなくシーア派主体の政権自体に)不信感を抱いている。イラク政府が、シーア派民兵によるスンニ派のモスクや、スンニ派市民の殺害を止められなかったからだ。クルド同盟とスンニ派、世俗派で連邦制についての意見が異なるが、「ジャファリ首相降ろし」で共闘することにしたようだ。あくまで一時の連携かもしれないのだが。
■トラブルメイカー、SCIRI
UIAの中からもアデル・アブドルマフディ副大統領がジャファリ首相の辞任を要求。アブドルマフディ副大統領はSCIRIからの候補として首相選に臨んだが、ジャファリ首相に一票差で負けた経緯がある。SCIRIとしては、ジャファリ首相を追い落とすことで、UIA内での主導権を握ろうという思惑があるのだろう。しかし、SCIRIは同党幹部で内務大臣のバヤーン・ジャブル氏とその配下の治安組織、そしてSCIRIの民兵組織「バドル組織」がスンニ派の宗教指導者や一般市民を多数虐待し、殺害したことが問題とされている。SCIRIはかつてフセイン時代に苛烈な迫害を受けたため、スンニ派を「フセイン支持層」として憎んでいるのだが、米軍の支援も受けた内務省の活動は、シーア・スンニ両派に深い溝をもたらした。SCIRIの候補が首相になれば、スンニ派は猛烈に反発することになるだろう。
■親イランのシーア派勢力への米国の警戒感
「ジャファリ降ろし」には米国の意向もある。新政権発足の遅れの苛立ちに加え、シーア派主体の政権がシーア派国家で反米的なイランとの関係を強化することへの警戒感が強い。米国としては宗教色の薄い世俗派政党やクルド同盟を推したいのだ。2日にイラクを電撃訪問したライス国務長官もジャファリ首相の続投に難色を示した。SCIRIやサドル派に対しても同様で、昨年11月に米軍が内務省に突入したのも、SCIRIの勢力、ひいてはシーア派主体のイラク政府の力を削ぐためだった、という見方もできる。
■続く政治の空転/大分裂の始まりか?
今のイラクの政党はその大部分が、イラクの3大勢力=イスラム・シーア派、スンニ派、クルド人という宗派・民族に基づくものなので、話がややこしくなっている。元々、バグダッドなどでは異なる宗派や民族も混在して共存してきたのだが占領が続く中で、各派の対立が生まれ、それはもはや米国のコントロールからも外れたものになりつつある。一つ確かなことは、イラクの政治が空転する中で、一般市民の生活がますます困窮するということだ。また、政治的な対立が限界にまで達した場合、イラクが本格的な内戦に突入する恐れもある。
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登録日:2006年 04月 08日 23:55:50
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- 志葉 玲(シバレイ)
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- HP:志葉玲Official Web Site
- ■1975年生まれ。番組制作会社を経て2002年からフリーに。イラク、レバノンなどの紛争地での現地取材の他、地球温暖化などの環境問題、共謀罪など国内政治まで幅広く取材している。
■志葉関係の本が相次いで出版されました!二冊とも、御一読いただければ幸いです。
『川田龍平 いのちを語る』 (川田龍平 著 志葉玲 写真/明石書店)
『たたかう!ジャーナリスト宣言 ボクの観た本当の戦争』(志葉玲 著・写真/社会批評社)
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