「ザルカウィ死亡」が意味するもの
<ザルカウィ容疑者死亡>米軍、ザルカウィ容疑者の写真を公開 - 米国
【バグダッド/イラク 9日 AFP】米軍はバグダッドで8日、アルカイダ(Al-Qaeda)率いる、アブムサブ・ザルカウィ(Abu Musab al-Zarqawi)容疑者が死亡した際の状況を説明した。
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(c)AFP/AHMAD AL
あのザルカウィがついに米軍の攻撃で死亡したという。米軍だけではなく、「イラクの聖戦アルカイダ組織」も8日、ザルカウィ容疑者の死亡を確認する声明を発表したので、どうやら本当らしい。報道や米軍発表、友人のジャーナリストの話などを総合すると、ザルカウィ一派の関係者からの密告があり、その情報を元にザルカウィの居場所が特定されたようだ。私も心当たりがあるので調べてみようと思う。
ただ、日本のメディアを含め欧米メディアは「ザルカウィを仕留めた」大騒ぎしているものの、現在のイラクにおいて、ザルカウィは既に「過去の人」だった。ザルカウィが死亡したことにより、混迷し続けるイラク情勢が好転するか、というと残念ながら疑わしいと言える。
続き)
■「過去の人」ザルカウィ
既にこのブログで述べた通り、ザルカウィ一派は外国人を人質として捕らえ首をはねる等のその過激な戦術が嫌われ既にイラクでの求心力を失っていた。今年4月10日のワシントンポスト紙がスクープした内部文書でも、米軍が「心理作戦」の一環としてザルカウィ容疑者の脅威を実際以上に大きくするプロパガンダ工作を行っていたことが明らかにされたが、実際、米軍への攻撃のほとんどは現地武装勢力によるものとみられる。つまり、ザルカウィがいようがいまいが、米軍への攻撃は収まらないだろう、ということなのだ。
■問題はむしろ宗派間衝突と米軍の掃討作戦
現在、イラクの人々にとって最大の問題は、同じイラク人同士で殺し合いをしている、ということだ。イラク保険省の発表によると、先月のバグダッドの遺体安置所に運び込まれた遺体は1400体、今年に入ってからの合計は6000体に上るという。スンニ、シーア両派が入り混じる地域では、自分の所属する宗派の多い地域への移住が相次ぎ、国内避難民は10万人を越え、私の友人のイラク人たちも次々に国外に脱出している。
また、ザルカウィを仕留めたからといって、一般市民を巻き添えにする米軍の掃討作戦が収まることもないだろう。「ザルカウィの残党狩り」とでも称して、破壊と殺戮を継続させるはずである。
■情勢安定化のカギは「新閣僚」「民兵の武装解除」「米軍の活動自粛」
最近のイラクの状況は正に過去最悪といえるのだが、この難局を打開するのに、全く策がないわけでもない。一つは、8日に確定したイラク新政権の国防相と内務相の姿勢だ。繰り返し書いてきたように、かつては良好な関係にあったスンニ・シーア両派が争いあうようになったのは、米軍の占領統治の失敗にある。米軍はシーア派民兵主体のイラク軍を伴って、スンニ派地区での掃討作戦を行い、やはりシーア派民兵を主体とする内務省下の治安部隊がスンニ派の人々を拘束し激しい拷問にかけ殺してきた。
新たに就任するアブデルカデル・オベイド国防大臣(スンニ派)やジャワド・ボラニ内務大臣(シーア派)は、治安機関を特定の宗派によらない公正なものへ改革し、また、罪なき一般市民を殺したり拷問したりすることは絶対避けなくてはならない。
次に特にSCIRIやサドル師派は、配下の民兵の武装解除を始めるべき。スンニ派の部族長や宗教指導者もシーア派と停戦を訴え、シーア派市民に危害を加えないことを武装勢力に約束させるべきだ。シーア、スンニ両派の指導者は宗派間の停戦を進め、宗派間で衝突を起こした者を罰するべきだ。
米軍は、特に宗派間衝突が酷いところでは地域の警備にあたるべきだが、基本的には武装勢力と停戦交渉を始め、基地の中に篭って余計な攻撃を受けたり、したりすることを避けること。その一方で段階的な撤退プランを計画・発表し、地域の武装勢力との停戦合意ができたところから撤退を始めるべきだろう。
以上のことが守られるのであれば、情勢は好転していくだろう。
■奇妙なタイミング
それにしても。若干奇妙に感じるのは、ザルカウィへの攻撃が行われたタイミングだ。つい先月末、イラク西部の町ハディーサで子どもを含む非武装かつ無抵抗のイラク人家族24人が米海兵隊に虐殺されたことが明らかになり、さらに似たような事件が相次いで発覚、米メディアはこれらの問題を大きく取り上げブッシュ政権への批判が強まっていた。身内の共和党内でもワーナー上院軍事委員長が公聴会を開催し、調査に乗り出すなど追求が始まっている。
そんな中、ブッシュ政権は少しでも米世論の批判をそらし、「対テロ戦争の勝利」を演出するべく、ザルカウィへの攻撃を行ったのではないか。そう、ザルカウィはブッシュ政権にとって毎度便利な奴だった。米軍に反抗的な地域を叩き潰すのにいつも使われた口実は「ザルカウィが潜伏している」だった。ザルカウィは最後まで、ブッシュ政権に利用されたのかもしれない・・・と、疑り深い私はつい、そう考えてしまう。ザルカウィに関しての情報を含め、ブッシュ政権はイラク戦争において様々な情報操作を行ってきた。米政府や軍の発表をそのまま聞くのではなく、果たしてそれは本当なのか、疑ってみることが必要となっているのだ。
カテゴリー[ イラク・中東 ], コメント[3], トラックバック[0]
登録日:2006年 06月 09日 23:42:21
コメント
オサマビンラディンの役割を知らない。
しかし、戦争行為が齎す災禍というものを世界に再確認させた。
お蔭で、宗教が根にある問題は今世紀最大の人類的課題の一つであることが証された。
ザルカウィは頑なにされたのかも知れない。
フセイン元大統領はあのイラクの状況ではむしろ適材だったのに、それより
天は宗教改革を優先したのだろうか。
まじへん @ 2006年 06月 15日 22:14:18
「米軍の占領統治の失敗」って言うか、或いはこれが狙いだったのでは?どちらにしても酷いですが。
「対テロ戦争」に偽りなしってんなら、生かして情報を吐かせた方が、って割と皆さん仰ってますが。
田仁 @ 2006年 06月 18日 21:24:25
時間は掛かるだろうけど、外国の軍隊が駐留してるあいだは、
解決できないでしょう。撤退がだいいいちです。
tacc @ 2006年 07月 24日 20:04:52
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- 志葉 玲(シバレイ)
- (男)
- HP:志葉玲Official Web Site
- ■1975年生まれ。番組制作会社を経て2002年からフリーに。イラク、レバノンなどの紛争地での現地取材の他、地球温暖化などの環境問題、共謀罪など国内政治まで幅広く取材している。
■志葉関係の本が相次いで出版されました!二冊とも、御一読いただければ幸いです。
『川田龍平 いのちを語る』 (川田龍平 著 志葉玲 写真/明石書店)
『たたかう!ジャーナリスト宣言 ボクの観た本当の戦争』(志葉玲 著・写真/社会批評社)
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