中国の野望と宇宙軍拡

中国政府、衛星破壊実験公式に認める「軍拡競争の意図はない」 - 中国

【北京/中国 24日 AFP】外務省の劉建超(Liu Jianchao)報道局長は23日、宇宙空間で人工衛星破壊実験を実施したことを初めて認めた。
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(c)AFP/Frederic J

AFPBB News


中国が弾道ミサイルを使って、軌道上の衛星を破壊した実験は、アメリカの軍事戦略の弱点を突く衝撃的なもので、地上での軍備拡大競争を宇宙にまで拡大する可能性をはらんでいる。その問題点について、Q&Aの形式で整理してみたい。

Q 中国による人工衛星の破壊実験は、技術的にはどのような意味を持つのか?

A まず指摘できることは中国の弾道ミサイルの目標への誘導能力が、いわゆる西側諸国が想像する以上に著しく進歩しているということだ。実験で破壊された衛星は高度が860キロの軌道を移動していたと言われるが、この高度は通常の軍事衛星の軌道より倍程度高い。アメリカや日本の衛星も、400から500キロ程度の高さを移動しているので、中国はこうした衛星はすべて攻撃できる能力を保有したことになる。また、ミサイルの誘導性能の向上は、単に衛星への攻撃能力の向上を示しているだけでなく、中国の保有する中距離の弾道ミサイル、大陸間弾道ミサイルの性能が飛躍的に向上しつつあることも、今回の実験で明らかになった。もう一つ指摘できるのは、アメリカがミサイル防衛のために開発、実用化している高度な技術を中国が開発中であることが明らかになったと言うことだ。今回の実験では、ミサイルの先端部に取り付けられたKKV・運動エネルギー迎撃体が衛星を破壊したといわれている。KKVというのは、ミサイル本体から切り離されたあと、センサーが捉えた目標の位置を分析しながら、小型のロケットエンジンを使って自分の位置を修正して接近し、目標に体当たりするものだ。この実現には、接近して自爆するような技術は違って、飛んでくる弾丸の弾を打ち落とすぐらいの極めて高い精度の技術が要求され、アメリカはミサイル防衛のために実用化した。ただ、常に位置を変化させるミサイルを迎撃するのに比べて、あらかじめ決められた軌道を一定の速度で移動している衛星を狙うのははるかに容易だとは言えるが、それでも、秒速7,8キロの高速で移動する衛星に正確に体当たりするのは決して簡単なことではない。つまり、今回の実験は、中国が将来、ミサイル防衛にも応用できる高いミサイルの誘導技術を取得したことを物語っている。

Q 中国はなぜこのような兵器に関心があるのか?

A それが中国の軍事戦略だからだ。中国の軍事戦略は常に、アメリカと対峙することを想定して、戦術を立て、兵器を開発している。しかし、中国の軍には、アメリカの軍事力と直接対峙できるだけの能力はない。そのため、中国はアメリカの軍事的な弱点を突くことを重視している。その弱点こそ、アメリカが軌道上に展開させる様々な衛星だ。いわゆるハイテク兵器で彩られたアメリカなど西側諸国の軍隊にとって最も重要なのは情報の収集、伝達、命令を部隊に伝える指揮通信システムで、すべて衛星を使って行われている。紛争の探知から部隊の展開、兵器の誘導まで、多くが衛星を経由した情報に依存している。つまり、衛星は軍隊が作戦を行う際の目と耳の役割を果たしているのだ。たとえば、巡航ミサイル・トマホークは、搭載したコンピュータが、カーナビなどに使われるGPS・航法衛星の情報を受信しながら、自分と目標との位置関係を計算し、予め与えらえた地図によって、飛行の高度や方角を制御しながら、目標に接近、破壊する仕組みになっている。また、地上作戦でも衛星は欠かせない。視界に入らない、山の向こうにいる目標に対しても、衛星からの情報で目標の正確な位置を割り出し、この情報は他の部隊にもリアルタイムで伝わり、攻撃が行われる。このように、現代では、すべての軍事作戦は宇宙空間の衛星に依存している。イラク戦争は、宇宙が舞台になった初めての戦争とまで言われた。こうした宇宙空間の衛星と地上の軍隊とをIT・情報技術によって統合した新しいタイプの戦争を、最近ではNCW(ネットワーク・セントリック・ウォーフェア)、ネットワーク中心の戦争と言い、世界各国の軍隊の新しい姿になりつつある。ところが、ここで問題になるのが、宇宙空間の衛星はまったく無防備だということだ。中国はここに注目した。アメリカ議会の調査では、アメリカが保有するおよそ400基の衛星のうち、10パーセントあまりが破壊されただけで、アメリカ軍は作戦が行えなくなるという。

Q 衛星が破壊されたら、一般の社会生活にも影響はないのか?

A ここに大きな問題がある。衛星は軍事と民間の区別なく使われているのが現実だ。例えば、カーナビにはGPS・航法衛星が使われているが、GPSは本来、アメリカの軍事衛星であり、精度の高いチャンネルはすべて暗号化され、アメリカ軍専用だ。さらに、アメリカ軍は通常の通信を行う場合、一般の電話やテレビ中継などに使う民間の通信衛星を普通に利用しているし、民間の気象衛星や資源探査衛星が得た情報は常に、軍と民間が共同で利用している。こうした現状は各国とも共通していて、衛星はどの国でも軍と民間の区別なく利用されていて、社会の重要なインフラになっている。したがって、有事の際、もし、衛星が破壊されたりすれば、軍隊の機能だけでなく、社会の機能までマヒしてしまうだろう。中国の実験成功が脅威として受け止められているのはこのためだ。

Q 衛星を防衛するために、宇宙で軍備拡大競争が始まる可能性はないか?

A 最も懸念されるのがその点だ。実は軌道上に兵器を配備したり、軌道上で軍事的な実験を行うことを規制する国際的な取り決めは存在しない。唯一、宇宙条約で、大量破壊兵器の配備が禁止されているだけだ。しかし、現実には、これまで宇宙空間の軍事利用が問題化したことはほとんどない。なぜなら、宇宙はこれまでアメリカとロシアが独占的に利用してきたため、この両国の間で話し合いをして、決着すれば問題は起きなかった。例えば、中国が行ったような衛星を攻撃する技術は、アメリカもロシアもすでに20年以上前に実用化して、保有している。しかし、両国はこの種の兵器の配備は見合わせてきたため、大きな問題にはならなかった。つまり、アメリカとロシアの覇権が確立しているところに、中国が入り込もうとしてきたわけだ。その結果、宇宙での軍備拡大競争が始まる可能性を考えなくてはならなくなった。米ロが対抗措置を取ったり、インドなど進んだ弾道ミサイル技術を持つ国が中国に追随する可能性があるからだ。現実に、アメリカは、レーダーで捉えにくいステルス衛星の研究を始めている。したがって、今後、宇宙空間の軍事利用を規制するための多国間での話し合いを求める必要があるだろう。しかし、肝心なアメリカは、ミサイル防衛のシステムの宇宙配備に関心があることもあり、宇宙空間の軍事利用の規制については非常に消極的だ。ロシアも積極的とは言えない。結局、今後も当分は、宇宙の軍事利用は野放しという状態が続くことになるだろう。(了)

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登録日:2007年 01月 29日 13:33:04

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プロフィール
島崎就成 <Shimazaki Shusei >
■職業:ジャーナリスト
■経歴:国際記者として、米ソ軍縮交渉、冷戦崩壊、湾岸戦争、北朝鮮問題など、安全保障問題を専門に20年以上、世界各地で取材を続ける。
■専門分野:軍事・安全保障 (軍備管理、国際紛争分析、日米同盟、戦争史など)
■ひとこと:国の安全に関わる問題は冷静に事態を直視し、現実の選択肢の中から迅速に解答を導き出すことが重要だ。なぜなら、危機は常にそこにあるからだ。「戦争は嫌だ」「断固報復しろ」というような、怒りや恐怖、嫌悪といった感情によって政策が決定されては断じてならない。
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