インランド・エンパイア

 デビッド・リンチの『インランド・エンパイア』という映画を見た。で、びっくりした。

 映画を見て「おもしろかった」「よかった」「泣いた」「笑った」「つまらなかった」という感想はよく持つけれど「びっくりした」という感想を持つことはほとんどない。

 筋はとても辿りにくいけど、なくはない。ある映画女優がある映画に参加してい

ろいろなことがいろいろと起こる、というもので、書くと何だかバカみたいだけれど、筋は?と聞かれればそうとしか答えられなくて、この映画のすごいのは、だからそこではない。

 とにかく冒頭から「え。何これ」「え。え。何これ」「え。え。え。何こ、るぅぇー」といきなり途方にくれてしまうような、意味のまったくわからないシーン(兎人間が出て来たり)が立て続く。そしてこの「わからなさ」が半端じゃない。まったくわからない。たいがいの「わからない」はそんなにわからなくはない。無理すれば何かしらの意味を見出せるように作られている。だから面白くないのだけど。だけどこれは違う。意味なんか見出せない。事前に何となく仕入れていた「難解」「ちょー難解」「なのに3時間」(3時間!もあるのですよ)という情報と、公演を見にきてくれた小説家の保坂和志さんがご自身のサイトの掲示板にぼくらのことを書いてくれた際、そこでぼくらの作品にからめてこの映画に触れられていて、という若干の「ブイ」と、意味がわからないなりにも「わはは」と笑える箇所(役者の演技とか)があったからからその山を耐えたけど、そうじゃなかったらあのまま見続けたかどうか自信がない。

 なのに、1時間を過ぎたあたりで、意味を追うのをあきらめた頃から、やめられなくなった。そしてそうやって見続けながら、意味を追わずに「見る」ということは何て楽しいのだろうということに気がついた。それは夢を見ているときと似ていた。夢では意味なんて追わずに、次から次に起きることに対して、不思議とも何とも思わずに、ただただ一所懸命に「そのこと」に対峙している。こないだも、足の指をのばしてもらう夢を見たのだけど、その夢のなかでぼくは「何で足の指を?」とか「のばしてくれているのは誰?」とかまったく思わずに「ああ気持ちいい。ふー」とだけ思っていた。それも一所懸命に。

 だけどよく考えたら、いちいち意味を追いたくなるのは映画や芝居を見ているときか小説を読んでいるときだけで、日常生活でいちいち相手のいうことや態度や天候や目にうつるいろいろなことや耳に聞こえるいろいろなことに意味を求めるのは恋愛のいちばん面倒くさい段階のときくらいで、普段、人と関わりあうときや突然のゲリラ豪雨や不条理な鉄砲水に対していちいち意味なんか追ってない。

 で、そうやって、しばしのうたた寝も入れながら、まったく映画と関係のない(ま、だけど映画を見ながら考えたのだから、関係なくはないのですけど。ていうかここがこの映画のすごいとこなのですけど)ことをいろいろと考えながら、3時間後に迎えたラストの場面で、女の人たちがわらわらと踊り出したとき、そこで突然、何ていうか「わあ」と、とても気分が高揚した。「何かよーわからんかったけど、ていうか全然わからんかったけどよかったぞー」と画面に向っていいそうになった。

 サ店で本を読もうとしているのだけどまわりの雑音ていうか、人びとが話す話の内容が聞こえて来て、それもあちこちから順不同に聞こえて来て、筋道立てた内容はまったくわからないけど、その抑揚や、断片の単語がおもしろくて、だから気になって本に集中出来ないのだけど、それでも不思議とうるさい中なのにも関わらず「すすっ」と読める瞬間もあって、そうやって読み切ったからの高揚なのかなんなのかよくわからないけど「ああ読んだー」ていう気分の高まりがあって、ていう、本の中身だけじゃなくて、本を読んでいるその時間の全部、みたいな映画というか、何というか。ていうか、こうして何かを何かにたとえると一瞬にしてものごとは「こじんまり」としてしまうけれども。

 デビッド・リンチ『インランド・エンパイア』。ツタヤにありまーす。

コメント[8], トラックバック[0]
登録日:2008年 08月 25日 17:21:37

コメント

デビッド・リンチ作品『ツイン・ピークス』をドキドキしながら
夜な夜なテレビを見てました。
あの感覚は、なんとも言い表せませんが・・・・。
のめり込むというか・・・。
『インランド・エンパイア』。ツタヤに行きまーす。。。

kumi @ 2008年 08月 26日 12:16:39

 観る人の常識では理解しにくい世界であっても、作者の中では立派に成立している正だったりする…そんな中でも「わはは」と思わず笑ってしまうのだとしたら、意外とリンチは話せる奴なのかもしれない☆

 そんな奇天烈なおもしろさは先送りにして…今はFICTIONのDVDを総なめすることに余念がない(笑) 大人買いしちゃいました(笑)
 『歌え、牛に踏まれし者ら』についている特典映像の山下さんの紙芝居うまぁ~い(笑) 本編に通じる稽古場風景も、実におもしろい。メンバーは蒼白だけど…。全てのDVDに特典映像がついているわけではないけれど、本編についていると楽しい♪ グッと作品やFICTIONに近づいたような気がする。上演後は、山下さんは体力も残っていないだろうし、シャイそうだし、トークショーなんて絶対に無いだろうから(定員があったら悲しいもんね)、例え一年後だとしてもDVDの稽古場風景が作品を語ってくれると思うと、すでに来年がとても楽しみになる。(東京は6月頃らしい)
 ちなみに、大好きな『石のうら』の台本も買いました☆ 文庫サイズだったらバッグに入れて持ち歩くのにな~(笑) で、たまに見て元気もらうの(*^_^*)ふふっ

kiki @ 2008年 08月 27日 21:17:26

 ツタヤありませーん。ハハハ。宅配システムのレンタルを利用しようか迷っていたのだけど、そうまでして何を見たらいいか迷ってしまうので手持ちの同じものばかり見てしまいます。
もちろんFICTION大好きで、何回見てもいろんな面白さが溢れ出て飽きることがありません。今回のツアーで販売される次のDVDがとても楽しみです。

 全然関係ないんですけど、山下さんの腰痛がひどい前回のワークショップのときに、腰痛に効く体操と「ツボ」を今度お教えしようと思っていました。私は実は魔法の「足ツボ女」ふふふ。
子供から大人まで人の足を見るとモミモミしては、うっとりさせています。 足の指、気持ちいいんだわー。「ツボ」お教えしますね。

 最近生々しい恐ろしい夢で目覚めることが多いので、気持ちいい夢みたいなぁ。。。

nana @ 2008年 08月 28日 12:17:45

こんにちは
今頃は北海道でいらっしゃいますね。お天気はいかがでしょう? 山下さんも 皆さんも お体 ご自愛下さいね

『びっくりした映画』とか 『びっくりした本』とか そういえば あまり ないですね
『つまらなすぎてびっくりした』映画は 何本か観たような気がします(*_*)
映画が終わっても...『なんやったんやあれは』と 変な余韻を残し、1800円 返せ と心の中で呟いたりします。 だけど つまらない内容にも 単にくだらないのと くだらなすぎて 逆に爽快になる作品に出会ったりします。
でも 山下さんの仰るように 『意味など探さない』ほうが良いのかもしれませんね各々は。
映画に限らず 私は頭が悪いくせに すぐに 『意味』を探す癖があります。だから病ってしまいます(苦笑)
先日 前から観たかった映画に行きました。全然笑うとこじゃないのに おじさんが『ワハハ』と笑うので、びっくりしました。シリアスな作品なので腹がたちました。で 何で笑う? と 意味を考えたのです。そのおじさんは ただ 意味なく笑っていただけなのかもしれませんね。くだらなかったのかも。
私は 泣いてしまったのですが、劇場を出る頃また 『何で泣いてる?』と 意味を探すのでした。 厄介な人間ですね
『まん

つくね @ 2008年 09月 05日 09:52:23

お元気そうで何より。

デビッド・リンチのアレ何やったっけー。
気持ちの悪い赤ちゃん育てるやつ・・・
虫がいっぱいいっぱい出てくるやつ・・。
あかん。忘れた。

やっぱ「一生懸命」ではなく「一所懸命」が正解なんですね。
なんやー、あたし正解やーん。

yuko @ 2008年 09月 16日 05:44:21

両方正解。でも「一生懸命」は「一所懸命」の転じたものでもともとあったのは「一所懸命」。

公演が昨日終わりました。そろそろここも再開します。

山下 @ 2008年 09月 16日 10:08:43

 北海道ツアーお疲れ様でした。

 FICTIONは一度は涼しくなった北の大地を再び暑くし、秋風と共に去りぬでした。
今日の富良野は台風のせいか少し蒸し暑いです。

 ごえもんちゃん、元気でしたか?

 山下さんの「劇」の日々はずっと続いていると思われますが、しばし休養されたら、またこのフォログ楽しみに待っています。

 このコーナーがなければ私はぜんぜん「考える人」にならないのです(笑)

nana @ 2008年 09月 17日 11:56:37

デビッド・リンチの『インランド・エンパイア』という映画を見た。で、びっくりした。と山下さんが書かれていたけど、
ほんと・びっくりした。。。。
内容については、びっくりしてというか、あれと、あれはああなってくっついてでも、現実は、あれ?であれはじゃあなに?
とたぶん何度見てもくっついたり離れたりで・・・。
もひとつ、びっくりなのが、ツタヤの最近よくでるDVDの棚に並んでいたこと。。。どんな、思いで皆さん手にとり、借りて行ったんだろう。。
ひきつけられるものを、感じて、タイトルで??
作者や、監督で??出演者で??

一年前に脚本「山下澄人」にひきつけられ、役者の一言にひきつけられ・その人が同一人物だとわかって、「FICTON」を知り、
生の劇を見ることが出来て・・・・・・。

もいちど『インランド・エンパイア』見ても、自分の中での消化ように、FICTONの劇「しんせかい」に近い感覚です。。。。

新しいゾクゾクをありがとうございます。。。。。

kumi @ 2008年 09月 24日 11:03:51

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山下澄人
FICTION WEB
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「FICTION 」主宰。映像、ラジオドラマのシナリオも手がけ、2005年には初監督作品「ON THE ROCK」を発表。

E-mail:yamashita@fiction.gr.jp
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