「変わる」ということについて
「劇が変わっていくこと」について、少し。
劇が日によって変わる、場所によって変わるというと、まだどうも、何ていうか珍しいものとしてというか「原則的には変わるものではない」という足場に立っ
て、それを聞く人が多い。だけど、映画やテレビドラマと違い、劇は生(なま)で、生きてる人間がやるもので、生きてる人間というのは、自身が意識してなくとも日々変わるから(髪の毛がのびたり抜けたり、太ったりやせたり、前の日にはなかった痛みがあったりなかったり)、仮に劇のセリフや段取りが寸分違わない状況だとしても、生きてる人間がやるかぎり、劇は変わる。
のだから、その生きてるということを逆手に取って、セリフや、劇のポイントを、飽きると平気で変えるぼくらとなると、そのことは避けがたいことで、昼飯にカレーを食べたかサンドウイッチを食べたかでも、極端なことをいうと、劇は変わる。
ただ、こういう書き方で「変わる」と書くと、どんどん「無駄」がとれて「洗練」されていくというイメージをどうしても持たれてしまうけど、それは違う。ぼくの書こうとしている「変わる」は、あくまでも「変わる」であって、そこにはそれ以上の意味はない。
どうして「無駄」がなくなっていったり「洗練」されていくということではないのかというと、何ていうか、書き方がとてもむつかしいのだけど、ぼくらが変えようとしていく態度の中には「良くしよう」というのではない、もっと複雑な「何か」があるからなのである。
だいたい「良くしよう」なんていうのは、あまりにも胡散臭すぎる。そこには、ものごとは「良く」なれば、果たしてほんとうに「良いのか」という、何ていうか、「良くなる」ということに対しての疑いっていうか、問いっていうかが、ない。出て来はじめたときは異様で怪奇で薄汚れてて独特だった俳優が「洗練」されて「あか抜け」てって「きれい」になってつまらなくなっていくように(それにひきかえ黒澤映画の三船敏郎はいつまでも異様で怪奇で独特で見る度に感心する)、何だって「良く」なれば「良い」というものではない。
何しか、とにかく、変わっていくのである。だから、劇の最初と最後を見て、どちらが良かったかなんてことは、それはもう見た人それぞれの「あれ」で、正直、ぼくらはそこにあまり興味がない。ぼくらにとって大事なのは、そのときどきの、そのときだけの劇で、そこに全てがあって、それは他の回と比べられるものではない。
もちろんまあ、毎日続けていれば「出来不出来」というはどうしてもある。何に対しての「出来不出来」かはともかくとして。だから演劇の人たちはよく「今日の出来は良かった。悪かった」とか「今日は2日落ち(初日は緊張感があってあれだけど2日目になると緊張感が落ちて良くなくなるという意味)だねえ」とかいういい方をよくするのだけど、でも劇って「そんな日によっての「出来不出来」程度のことで左右されるものなのか」という思いがぼくには劇団をはじめた当初からあって、だから日によって出来にばらつきがあっても、別に気にしない。2日目など、あえて「2日落ちしよう」とそれを目指す。とかいうと「その態度は観客に対して無礼だ」と怒る人がいる。でもそういう「無礼」だとかいう言葉を使った「いかにも」な観客に対する態度(「お客さんはお金を払って見に来てくれているのだから」とか)が、結局、観客という人びとを差別しているのだということがわからない奴にいくら叱られても屁とも思わない。
ま、ま、だから。不遜な書き方を?あえてするならば?ぼくらの劇はどの回も、いいということなのですよ。
わははー
今、うちには古いパソコンと新しいパソコンが少し離して置かれてあって、それはもうあきらかに新しいパソコンの方が性能はいいし、早いのだけど、だけどそのことを古いパソコンの前では口にしないようにしている。口にするときは小声でする。バカみたいだと思うけど、そうしてしまう。これまで叩かれたりしながら長い間働いて来てくれたのだもの、それくらいの気遣いは、あいつ(だから古いパソコン)だって、されていい。
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登録日:2008年 09月 22日 18:38:06
コメント
ウチのパソコンも相当古いので
考える時間が長い。
パソコンの専門家は言う。
「一所懸命なんですよ。気長に待ってあげて下さいね。」
そう言われると待ってあげてもいいかと思えてきて
なんだかかわいくて優しくなったりする。
yuko @ 2008年 09月 22日 23:51:55
ではコメントの大波にのります。どんぶらこ。
ワタシも何度か見て、劇が「変わる」ことについて「変わる」と書くことで、それはまるで削がれて洗練されていくように書きました。まるで、というか、たぶん直接そう書きました。そうして「作品」ができていくかのように書きました。ある角度で「違い」はしないのでしょうが。んにゃ。ここなのですね。このように書かれて、そのように思う。「変わる」に向かった態度の違い。そういう「変わる」も指しての、まるごとや瞬間が作品。ある到達ポイント(良いとされるとこ)があって、そこに向かっていて、そこにいけば上出来で、それ以外が不出来っていうそれこその観客差別は、当然のようにFICTIONには皆無で。じゃなきゃあ、何度も足を運ぶみなさんがこんなにいて、何度も見て全回が1番いいなんてありえなーい。すね。
その古いパソコン、山下家にいって、叩かれたりして、ほんとによかったね。
やー、kikiさん、おめでとうございます。ほんとにすげー。
ハタノ @ 2008年 09月 23日 02:11:43
本当に皆さんのコメントが素晴らしく凄すぎー!ここに登場するのにだんだん勇気がいるようになってしまいます。私の脳は、山下さんちの古いパソコンさながら「いっぱいいっぱい」なので、フリーズしながらゆっくりコメントを読ませていただいてます。
「しんせかい」の公演、フォログ、他のブログそしてそれらのコメントを含めて、私の感想はただただ「すべて楽し」につきるのです。「楽しい」「面白い」という人間のもつ感情の曖昧さ、「ゆらぎ」の部分を人にわかりやすく説明したり表現したりすることが私にはできなくて、だからただ見て、楽しみ、そういう私みたいな人のためにいろんなコメントはとても貴重で、ふむふむと肯いたり、フリーズしたりしながら多少がたついてきた脳をいたわっています。
「変わる」ことについて。「そんなもん当たり前」と思ってみていると思います。あらためて聞かれたから答えるというくらいに。生身の人間が目の前でやっていることに「不変」なんて。。。
だから、そういうことではなくて筋とか演出とか云々、それも全然「あり」でしょうと思っていて、それらすべて丸ごと見ることが劇を見るとうということだと思っています。劇に限らずクラシックコンサートや歌舞伎や能もです。だから私は「変わるもの」に注目してみているわけではありません。一回、一回何度も見たいのが、二回しか見られなかった負け惜しみではなく(残念ではありましたが)
お金を払っている観客に失礼だからなんてのは、なにやら謙虚にひびきますが、私はそんのふうに思って一度も見たことも聞いたこともないので、そんないやらしい演技を見たくないし、山下さんが書かれていたように「別にええんちゃう」と、屁とも思いません。目の前で行われる生身の人間の姿を、生身の人間がまた「好きなように」みているわけですから。
演じている人と見ている人が共有できる「何ものか」は確かに存在するのだろうけど、本当に空気のように漂っていたりして、目を凝らしてみたり、肌で感じたり、吸い込んだりした「何もの」かがじわじわと体に沁みこんでいき血肉になるのが「芸術」にふれて豊かになることなのか…なんちゃって、やめよう難しい話は苦手だ。
いろいろな方のコメントやサイトに飛んでいって、わたしの「しんせかい」はとても広がりつつあり、とどまることなく転がっていく楽しさを味わっています。保坂さんは前からファンでしたが、中でも、がぶんさんが大好きになりました。
FICTION、それからここに登場される皆様、ありがとうございますです。
nana @ 2008年 09月 23日 15:20:15
劇は生(なま)、ついでに。
見ている方も生(なま)ものですから、
劇の出来不出来もさることながら、
見てる方の出来不出来(ここでは体調とか精神状態とかの意で)
もあるし、
生(なま)もの同士の相乗効果的なもんもあったりもするから、
ずーっと見てるFICTIONだけど、
毎回、クジ引くときの気分で見てたりします、あたし。
古いパソコンへの気遣い、ついでに。
学生の頃、課題提出のために、
眠ることなくずーっと働きっぱなしのMacが、
途中、何度も何度も、ブチ切れて電源が落ちたとき、
「だいじょうぶだよぉ、だいじょうぶだよぉ、君は出来る子だよぉ」
って話しかけるときは、必ず再起動してくれてました。
パソコンも生(なま)もの?
みうらゆうこ @ 2008年 09月 23日 20:45:40
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- 山下澄人
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- FICTION構成員の日々
- 「FICTION 」主宰。映像、ラジオドラマのシナリオも手がけ、2005年には初監督作品「ON THE ROCK」を発表。
E-mail:yamashita@fiction.gr.jp
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