昨日今日
進めなければならないものが進まず、気分を変えようと、近くのドトールで、ぼんやり帳面を開いて座ってたら、ものすごく通る大きな声が、突然耳に飛び込んできた。見ると、しわくちゃの白いワイシャツを着た、残り少な
い、ほんとうに残り少ない頭髪を伸ばして油でかためた初老の男で、男の前には茶髪に黒いスーツの若い女が座っていて、何やら書類をいくつも広げて女が男に説明していて、それは仕事で、女はどうやら男の手下で、男は女の仕事の手際が気に入らないらしく、女の説明にいちいちダメ出しをしはじめて、挙げ句に、男は女に「人として」の説教をはじめた。男はそれがお気に入りのフレーズなのか、何度も「それじゃあお前は二流なんだよ」を繰り返した。基本は「二流」で話を進めていたのだけど、少しテンションが上がると「それだとお前は三流なんだよ」に変化したりした。
ぼくはとにかく書きものに集中しようと、耳栓をして、男の声を頭の中へ通さないようがんばっていたのだけど、耳栓なんか軽々と突破してくるぐらい男の声は大きいし、それに何だか、聞く気はないけど聞いてたらだんだん腹が立ってきた。大体、人を、ドトールで、大声で、二流三流呼ばわりするその男は一体、じゃあ何流だというのか。ていうか、そんな、ドトールで、大声で、二流三流呼ばわりされて黙っているその女は、そもそも一流になりたい女なのか。ていうか一流二流って何なのか。二流や三流より一流の方がえらいのか。ていうか、えらいって何なのか。
すると、けたたましくテレビの『情熱大陸』の、あのよく聞くテーマ曲(バイオリンの)が鳴り響いた。チャッチャッチャッチャチャー、チャッチャチャラッチャッチャッチャー。それは男の携帯で、男は大きな声で「はいもしもーし」と携帯に出た。そのときはじめて店内にいた人らが一斉に男を見た。男はしばらく電話にしゃべって、電話を切ると、大きくため息をついて、女をしばらく見つめて「まっ」と大きくいい(ぼくには「んまっ」と聞こえた)、長目の間を取って「そゆこと」と、席を立った。女は、さっと立ち上がり深々と「ありがとうございました」とお辞儀して、男を店の外まで見送り、ゆっくり戻ってきて、灰皿や飲みかけのコップやストローの袋やらはそのままに、小さくゲップをして出て行った。
もちろん何も書けなかった。
店を出て、近くの本屋で新書で『黒澤明に聞いたこと』というのが出ていたので買って帰って読んだ。いろいろと映画作りの裏側が書かれていて興味深く読んだけど、はじめて知るようなことは書かれてなかった。ただ、著者が黒澤夫人に「黒澤明を絶対に恐れるな」といわれるところと、遺作となった『まあだだよ』を撮ったあと、「もういいよ」と題された批評を読んだ黒澤明が、笑いながら「ひどいこと書くよなあ」と、ゆっくり2階にある自室に戻っていくのを著者が見ていたというところはおもしろかった。
夢で、8割5分はいけているのではないかと書き上げた作品を上演して、多くの人に「おもしろかったよ」といわれるのだけど、何人かの近しい人間たちの様子が何だかひっかかり、1人に「正直どう?」と確認するのだけど、ただ「おもしろかったよ」としかいわず、それでもやっぱり何かが引っかかるから「ほんとのところどう?」と何度も尋ねると、観念したのか、しばらくだまって、意を決したようにぼくの顔を見て「正直いうとー、ああ、あのおなじみのいつもの感じね、ていう感じ?ま、おもしろかったけど」といわれて目が覚めた。
昔から、いろいろと強く考えはじめると熱が出るのだけど、ここ何日か熱が出ている。もちろんいろいろというのは、劇のことや、それにまつわるいくつかのことであって、来月どうやって暮していこうかとか、この先どうやって生計をたてていけばいいのかとか、老後の心配などでは、残念ながら、ない。もちろん新型インフルエンザでも、残念ながら、ない。
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登録日:2009年 05月 01日 20:36:34
コメント
おはよー(笑)。
最初の喫茶店のくだり、、、そのまま芝居にしちゃえばいいじゃん。
そうやって、山下君が街を眺めてて気になったシーンを全部そのまま芝居にして、脈絡のないオムニバス、なんだか面白そう。んー、でもそれを実行するのは勇気いるなー。
がぶん@@ @ 2009年 05月 02日 14:02:13
あーー
FICITON自称若手の『素のもの』は昨年やり遂げました☆
それはみごとに。
強くつかんだら壊れてしまいそうな感じだったけれど、とてもそれぞれの身近な出来事であり、それは特別なことでもない淡々としたもので、でもちゃんと劇として構成されていて、自分と違う世界の話でも、人間の微妙な空気のおかしさは、起承転結のついた作為的な世界とは違う人間くささそのものでした。
で、それは、素のもの世界、であり、FICITONファンをも裏切らないおもしろさでした。
山下澄人がどうかかってくるのか、今年の夏公演も更に楽しみ。
これからは、楽しみばっかりだーー。
山下さん、アイスとちゃう、でオーバーヒートしないようにね。
*アイスとちゃう…『石のうら』での山下じいさんのアイスノン表現。急に思い出した(笑)
kiki @ 2009年 05月 02日 17:47:48
ジャック・タチの映画がまさにそんなので、ぼくは大好きです。『ぼくの伯父さんの休暇』とか。
アイスとちゃう。アイスとちゃう。あらためて口にすると、我ながらおもしろい。
山下 @ 2009年 05月 02日 19:08:34
「うぅ、、あぁ、、、あぁ、、」
「だからきみ、それはエアロスミスやないか」
がぶん@@ @ 2009年 05月 02日 21:06:35
若手による老人漫才(笑) ヨボヨボの相手役が、うぅ、とか、あぁ、しかうならないのに、ちゃんと成り立っているのがすごくおかしくて、ちょっと感動すらする。
なんでエアロスミスなんだろう、って思うけど(笑) それが出てくるのを待ってしまう。
しゃべる人の声で、いとし・こいし、を思い出すのは、年寄りの証拠か(笑)
kiki @ 2009年 05月 03日 01:40:39
今日、山下君も知っている離人症のH君からこんなメールがきました。
.....................
がぶんさん、こんばんは。
質問があります。
家の猫が死んでそろそろ七ヶ月になるんです。
僕自身、自分でそう考えているわけでは無いし、そういう考えは好きじゃないのですが、
猫は結局僕の代わりに死んだという事になると頭に出て来るんですよね。
がぶんさん、どう思います?
僕は出来るなら僕も猫も普通に暮らせるればと思っているので、代わりにとか言う考えは納得行かないです。
去年の十月は五千円位しかお金が無くて、自分の部屋の電球が切れても新しいのを買うお金が無かったので、
夜は豆電球とパソコンのディスプレイの明かりだけで何日も過ごしていたんだっけか?とか思い出したりしたのですが。
..............................................
以下、僕の返信。。
>猫は結局僕の代わりに死んだ、、、、、
、、となると、がぶんの代わりにこれまで30匹くらいの猫が死んだことになります(笑)。じゃ、代わりがなきゃオレは30回も死んでるのか!、、って。
あまりにもマンガチックな考え方にはただ笑うのみですね。
僕は僕の生を生きるしかないし僕の死を死ぬしかないんです!
人の死は人生に意味を与えるためにある、、というような言い方もよくされますけど、僕はそうも思わない。もともと生も死も意味なんてないんです。宇宙空間に散らばっていた元素が集まり収斂して、一時的に人という形になり、やがて再び様々な元素になって環境に散らばって行く。それだけでしょ。物質の構造と形態が変るだけでそこには生も死もないでしょ。すべての生命はネゲントロピーからエントロピーへと移行する熱力学の法則に従っているだけ。たまたま人類が他の生物よりちょっと頭が働くものだから、生きている意味なんてことで悩むようになっただけ。悩みの元がそもそもないんだから答えなんか出るはずないのにね。他の動物を見習えっていいたいです。
貧乏自慢はホームレス中学生のほうがすごいし面白い。
部屋があること自体が恵まれてるでしょ(笑)。
がぶん@@ @ 2009年 05月 08日 03:12:29
でた。H君。
もう何度目かのギックリ腰に襲いかかられて、秒速2センチで動く日々。痛みのリアルに掴みかかられているいま、どこの何につながるのかはともかく、ぼくは誰かの身代わりに腰を痛めているわけではなく、ぼくはぼくで猫は猫で、きちんとそれぞれ1人で1匹で世界に対峙しているのだタコ、と強く思う。いたいつらいいたいつらい。
きちんと椅子に座れるようになったら更新しまーす。
山下 @ 2009年 05月 08日 03:36:18
あーかわいそう山下君!
ぼくも十年にいっぺんくらい鳥人間(背をかがめて五センチづつ移動みたいな)になることがあるのでよく分かります。
だから立ってる時のくしゃみなんかは、ちゃんと腰を入れて!するようにしてます。
しかし、、ワークショップどころじゃないねぇ、それじゃ。
がぶん@@ @ 2009年 05月 08日 05:24:15
そうか!!
ビーグル38ごっこできるじゃん!
シラサコが舞台の真ん中に立ってて、そこにヤマシタがのそのそのそ、、、。
シラサコ「きみ、もう少し早く歩けんか?」
ヤマシタ「う、うぅ、うぅ、、、」
シラサコ「ん?、、ブログページ更新のプロトコルが、、、きみ、そんなこと今ここで言わんでもよかろうが!」
がぶん@@ @ 2009年 05月 08日 12:00:42
山下さん、大丈夫ですか?ワークショップも始まるし早くよくなってくださいね。お大事に。
猫が自分の身代わりなんて嫌だ。今うちの白い片目の猫がだんだん元気がなくなってきているから、毎日毎日「いつかくる日」を意識してしまうのだけど、どんなにかわいそうでも「代わってやろうか?」と聞けば「大きなお世話だ」と言われそうだし、「代わって」と言えば「やだ」ときっぱり言われそうだ。
何気ない日常を淡々と描いたというのは、真夜中に掲載された山下さんの最新のエッセイ「ピザ」もそうで、書けそうで書けないのだと保阪さんも言っておられる。こうしてみると世の中すべての人や事柄がおもしろく見えて退屈なんてしないのだろう。
桜がようやく咲いたと思えば昨日は北海道各地で28度から30度の真夏日で、もうびっくり。なんかバラバラのコメントだけど(笑)
なな @ 2009年 05月 08日 16:05:36
寝返りをうつたびに痛くて目がさめるから、面倒くさくなって起きたらこんな時間で、こんな時間に起きることがほとんどないから、朝が気持ちいい。
痛みは日に日に沈静化しつつあるような気はするけど、痛い?と聞かれたら「すごく」とまだこたえるぐらいの痛さで、だけど驚くことに、去年の2回目のワークショップのときは実はこれくらい腰が痛くて、それでもやってたので、来週も、ま、大丈夫でしょ、となめた態度ですごしています。
バラバラのコメントでいいじゃないですか。そもそも、本文がバラバラなのですから。
山下 @ 2009年 05月 09日 07:36:48
腰、大変やん。少しでも楽になることを祈る事しか出来ませんが...日頃の運動お勧めします。では、また〜
まゆ @ 2009年 05月 13日 02:27:46
まったく突然ですが、、世の中面白いよね、、。
「総括!!」といっては仲間をリンチで12人も殺したあの連合赤軍事件。
その後、浅間山荘に立てこもったうちの一人、当時未成年だった加藤倫教。
加藤三兄弟の次男。ちなみに長兄はその総括にあって殺されている。三男は一緒に浅間山荘に立てこもった、やはり当時未成年だった加藤元久。
あんな大きな事件でも、結局4年刑務所に入っただけで出所。
そして現在「日本野鳥の会愛知支部」の副支部長!!
ほぅぅぅぅ!!!
で、全国野鳥密猟対策連絡会という組織でも重責をつとめているのですが、、
その役職名が「総括」、、、えぇぇぇぇ!!
がぶん@@ @ 2009年 05月 13日 05:55:08
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