中国の戸籍制度改革、基本は「カナダへの投資移民」と同じ発想

第2四半期に予想を上回る11.3%の経済成長率を達成 - 中国

【于田/中国 19日 AFP】当局が発表したデータによると、過去十年間で最大の経済発展を遂げている中国では、今年第2四半期に予想を上回る11.3%の経済成長率を達成した。新たな成長抑止策を必要とするレベルに到達した可能性がある。写真は18日、北京の東100キロメートルにある河北省(Hebei province)の都市于田(Yutian)で、厚い汚染物質の煙の中を自転車で通過する人々。(c)AFP/Peter PARKS

AFPBB News


前回に続いて中国の戸籍の話を書く。今回は中国の戸籍がどのように変わろうとしているのかという視点の話である。全体的には戸籍制度はゆるやかに有名無実化していく方向で動いている。そのことは間違いないが、問題はそのやり方とスピードである。

前回のブログで中国の戸籍制度とは、中国の国内に「農村国」と「沿海国」があって、戸籍による区別とは先進国の国籍の区別のようなものだという表現をした。国際的な国と国の間では、ある国の国民が他の国で合法的に労働しようと思えば、まずその国の労働ビザを取得することになる。

そして、もし一時的な労働ではなくて、その国の永住権もしくは市民権(国籍)を取ろうと思えば、その国がぜひとも必要とするような特別な技能や知識を持っているとか、一定額以上の投資をするとか、その国の人の結婚して一定期間をその国で暮らすとか、そういった手続きが必要になる。

中国国内の農村戸籍と非農村戸籍(都市戸籍)の間の関係にもほとんど同じような関係が成立する。

超大都市周辺の地方都市をバッファーに

中国の戸籍の問題とは、農村戸籍を持つ人が都市には合法的に居住できず、就労もできないという問題である。しかしながら現在のところ、北京や上海など超大都会では農村からの人口移入を積極的には進めていない。その都市でどうしても必要な人材、主に技術者とか大卒以上の一定の要件を満たした人材を少しずつ受け入れているだけである。それはただでさえ人口の流入圧力が激しく、都市機能が膨張しているため、これ以上の人口増は許容しにくいからである。

したがって現在、農村戸籍の人々を受け入れる主な舞台となっているのは北京や上海といった超大都会以外の周辺に存在する地方の都市群である。北京や上海などの超大都会でいきなり農村の人口を受け入れてしまうと、都市の負担能力を超えてスラム化が起きる可能性がある。そのため農村部と超大都会の間に広がる地方都市群をバッファーとして利用し、徐々に農村の余剰労働力を吸収し、人口集中に伴う圧力を軽減しようという作戦である。

では具体的にどのような制度にしようとしているのか。ここでは江蘇省南京市の例を簡単に紹介しておこう。南京は中華民国時代の中国の首都でもあり、南京大学をはじめとする有名大学も少なくない文化都市である。江蘇省の省都で人口も700万人近い。その点では大都会なのだが、近年の経済発展からはやや後れを取り、上海や北京とは大差がついた感じがする。

どんなやり方をしているのかというと、これまで厳しく管理してきた農村からの戸籍移動の数量規制を廃止し、一定の条件を満たせば誰でも原則許可する姿勢に転じたことである。つまりこれまでの総量規制から条件による資格管理へと移行したわけだ。その条件とは市内に合法的な住居を持つこと(賃貸でも可)と安定した職業収入があること。この2つである。収入の下限に具体的ないまのところ規定はないが、「同市の最低賃金規定を下回らないこと」となっている。これらを証明できれば法律的には南京市の戸籍を取ることができる。

「カナダへの投資移民」と概念は同じ

不動産を買うということになれば、南京市でもそれなりのまとまったお金は必要になるし、賃貸で借りるにしても、ある程度の収入を証明できないとまともな家は貸してもらえない。であるから一定のスクリーニング機能は持っているが、単に条件としてみればさほど高いハードルではない。従来から見れば大きな政策転換であることは言うまでもない。

ほかにも方法がある。南京市街地に60平米以上の住宅を買ってそこに生活すれば、本人と配偶者、未婚の子供1人の計3人の戸籍取得ができる。市街地の60平米のマンションの場合、日本円で400万~500万円ぐらいと思っていいだろう。購入面積が20平米増えるごとに直系親族の戸籍取得可能人数を1人増やせるという規定があって、投資促進を狙ったものだろう。いかにも市場経済の中国らしい。

また会社や工場設立など個人で南京市内に100万元(約1400万円)の投資をし、市内に合法的な住所がある場合も夫婦と子供1人の戸籍取得が可能になるなど、その他いくつかの戸籍取得可能な条件が定められている。

よくカナダとかオーストラリアなどに一定額以上の投資を行って、その国の永住権を取得して投資移民するといった話があるが、それと形式的にはまったく同じことである。お金のある農民なら、農村から南京市に投資移民することができるわけである。

これは言い方を変えれば、これまで法律で決められた一種の「身分」のようなものであった農村戸籍と非農村戸籍(都市戸籍)の区別が、お金で解決できる問題になったことを意味する。もちろん誰でもその恩恵にあずかれるわけではないが、その変化は大きい。

まだこの政策は一部で試行が始まったところであり、今後の様子を見てどのように進んでいくかは予断を許さない。しかし社会主義的な流動性の少ない社会から中国が大きく「普通の国」に向けて動き出していることは間違いない。

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登録日:2006年 07月 23日 20:35:26

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プロフィール
田中 信彦
(男)
http://chinahr.way-nifty.com/
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒。
毎日新聞社記者を経て、日本と上海の両方に活動拠点を持ち、企業の中国事業に対するコンサルティングに従事するほか、雑誌等への執筆、講演など多数。亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科で「日中人事・労務比較論」を講義している。
■主な著書
「中国で成功する人事 失敗する人事」(日本経済新聞社)・「人事・採用の基礎知識--中国編」(メディアファクトリー)・「ぼくの上海行商紀行」(文藝春秋)・「日本人の知らない中国人の私的事情」(講談社)
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