「新・労働契約法の持つ意味」~第1回

米ウォルマート、共産党支部結成を許可、22店舗に労組設置 - 中国

【北京/中国 25日 AFP】米国資本主義の象徴ともいえる小売業大手ウォルマート(Wal-Mart)の中国店で24日、共産党支部が結成された。ウォルマートは、中国共産党の指導下にある労働組合の全国統一組織「中華全国総工会(All China Confederation of Trade Unions、ACFTU)」から、各店舗に労組を設置するよう2年間にわたり強力な要請を受けており、7月末にも国内22店舗に労組設置を認めたばかり。写真は、開店前に朝の体操を行うウォルマートの従業員ら。(c)AFP


AFPBB News


中国で今、新たな「労働契約法」の審議が進んでいる。この法律は名称こそ地味だが、中身は今後の中国経済の動向を占う重要なメッセージを含んでおり、「労働契約法」という名称を超えた政治的な大きな意味が込められている。
 それは何かといえば、つまりこの法律には、改革開放25年の経済成長を支えてきた「労働力安売り戦略」の転換という政策的意図が込められいてるのである。より端的に言えば「労働力という看板商品の値上げ通告」と言って差し支えないだろう。

 その背景には「外資を中心とする“資本家”は儲けすぎだ。中国の労働者は不当に安く使われている」という政権の認識がある。中国でも華南一帯などで「労働力不足」が叫ばれ始めた折、中国政府が労働力価格の引き上げに動き始めたことは日系をはじめ進出企業の経営にも大きな影響を及ぼさずにはおかない。

11年ぶりの本格的な労働関係法規

労働契約法は05年1月、労働保障省から草案が国務院(内閣)に提出され、同年10月に常務委員会を通過、今年3月20日から1カ月間行われた社会各層からの意見公募では19万件あまりの意見が寄せられた。年内は引き続き審議し、07年中にも公布、施行の予定とされる。

この法律は95年施行の現行労働法に続く11年ぶりの本格的な労働関係法規で、草案は7章65条からなる。現行労働法は計画経済から市場経済への移行初期の制定で既に時代に合わず、具体的な施行規則も曖昧なため各地方で解釈、運用が異なるなどの問題があった。

そうした点の是正と補完がこの新法の表立っての目的ではある。しかし見落としてはならないのは冒頭に述べた「労働力の値上げ」という政治的意図である。

「労働力」は最大の戦略商品

中国にとって労働力は最大の戦略商品だ。あまたの深刻な問題を抱えながらも中国が急速な経済成長を実現してきた源泉は、労働市場での国際競争力にあった。いわば「トラの子」である労働力の価格に中国政府は強い関心を持ってきたし、それはいまも変わらない。

それがいま労働者の待遇向上を狙う背景には、需給関係が労働者有利に傾斜し始めた潮目をとらえ、“資本家”からより高い分配を勝ちとろうとするもくろみである。政府のこの思惑は今回の草案の随所に滲みでている。

代表例が労務派遣(日本の人材派遣)の事実上の廃止である。

中国の製造業では、正規従業員のほかに労務派遣と呼ばれる派遣形式の人員が数多く活用されている。直接雇用に比べ労務コストを大幅に節減できるうえ、季節変動にも対応しやすい。しかし派遣会社が必要な契約を労働者と結ばない、法定の社会保険に加入しないなどの問題が指摘されており、当局は労務派遣を「低賃金労働の温床」と見なしている。

今回の草案では、労務派遣を業とする会社は最低登録資本金50 万元以上とし、なおかつ派遣労働者1人あたり5000元(約7万5000円)を供託する義務を規定。また派遣後満1年を経過し、受入企業側が継続を希望した場合、正社員化する義務を課すと定めている。

日系企業でも従業員1万人のうち7000人が労務派遣などという例もあり、派遣1 人に付き5000元の供託などとても現実的でない。またようやく仕事に慣れた2年目には正社員化が求められるのでは派遣のメリットは薄い。現地では事実上労務派遣の禁止と受け止められており、このまま実施されれば大幅なコストアップ要因となる。

労働組合(工会)の権限強化も

また労働組合(工会)の権限強化も今回の草案の特徴だ。従業員を解雇する場合、組合に事前に通告し、意見を聞く義務が盛り込まれた。解雇が一度に50人以上の場合、組合の同意なしには実施できない。さらに就業規則の変更について、従業員に不利益になる可能性がある場合、組合との協議が義務づけられた。これも施行となれば経営の自由度が大幅に下がることは免れない。

 従業員の退社に際して企業が支払う「経済補償金」の規定も労働者有利になる。従来は契約期間満了退社の場合、金銭の支払いは不要とされてきたが、草案では契約期間満了でも補償金の支払いを規定。これは事実上、退職金の支払いが義務化されることを意味する。加えて従来は最高で賃金12カ月分としていた上限規定も撤廃された。

 このように今回の草案は労働者に極めて有利で、企業側に重い負担を求める姿勢が際立つ。従来の雇用拡大一辺倒、徹底した外資優遇の流れとはかなり趣が異なる。

 なぜ中国政府は舵を切り替えるに至ったのか。それを次回に解説したいと思う。

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登録日:2006年 08月 26日 16:01:35

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プロフィール
田中 信彦
(男)
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1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒。
毎日新聞社記者を経て、日本と上海の両方に活動拠点を持ち、企業の中国事業に対するコンサルティングに従事するほか、雑誌等への執筆、講演など多数。亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科で「日中人事・労務比較論」を講義している。
■主な著書
「中国で成功する人事 失敗する人事」(日本経済新聞社)・「人事・採用の基礎知識--中国編」(メディアファクトリー)・「ぼくの上海行商紀行」(文藝春秋)・「日本人の知らない中国人の私的事情」(講談社)
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