「異質への不寛容」が日系企業のマネジメント最大の問題

消費水準が大幅に上昇 - 中国

【北京/中国 13日 AFP】公式のデータによれば、中国の8月の小売売上高は前年同月比で13.8%増加した。小売業の動向は個人消費水準の主要な指標となる。写真は北京で12日、新たに開店する店舗の広告の前を通り過ぎる男性。(c)AFP/Peter PARKS


AFPBB News


すこし前の話になるが、ある企業の人事部長から、近く中国現法の総経理として赴任する人を紹介された。その人事部長氏いわく、「彼は当社のプロパー(生え抜き)ではないんですが、入社20年近いですし、米国駐在の経験もある、海外事業畑では期待の星なんですよ」。
 入社20年経っても、その会社に新卒で入社したのではないことが人物紹介の枕詞になるというこの感覚、これはすごいと思った。失礼ながらそれこそが海外でのマネジメントがうまくいかない根本要因だと思うのだが、どうもそういうことには気がついていないようだった。

ご存じのように中国に進出したものの、現地でのマネジメントに苦慮している日系企業は多い。「中国でのマネジメントをどのようにしたらいいか」という質問や相談は筆者のような者のところにも数多くある。

しかしこの問題の根本的な原因は、単に「中国人の扱い方」というところにあるのではない。もし「中国特殊的な要因」で日系企業のマネジメントがうまくいっていないのであれば、「中国特殊的」な解決策が最も有効であることになる。しかし事はそのような単純な話ではない。

「女性の活用」と根っこは同じ

例えば、日本国内では女性をいかに戦力として活用するかが企業にとっての大きなテーマであり続けている。この問題は昔から何度も何度も議論されているが、一部の新興企業などを除いて常に掛け声倒れに終わり、なかなか顕著な効果が出ないというのが正直なところだろう。

なぜか。

それは女性の活用というテーマを「女性領域の問題」と認識してしまっているからだ。

「女性が能力を発揮できないのは、女性が働きにくい組織だからだ。女性が働きやすい制度にしなければ」ということで、すぐに産休の問題とか、託児所はどうしようとかいう話になる。

しかしながら「女性の活用」の問題は実は「女性問題」ではない。そのことは日本の伝統的な大組織で冷遇されている女性以外の人々のことを考えてみればわかる。日本の大組織で生きにくいのはなにも女性ばかりではない。

大卒でない人、中途入社の人、外国人、正社員でない人、高齢者など、とにかく企業の“正規軍”たる「大卒・男子・正社員」以外の人々はどうも居心地が悪いというのが日本の組織にほぼ共通する現実なのである。

事の本質は「異質なものの不寛容」にある

日本の大組織の主流は「大卒・男子・正社員」という、極めて均質性の高い人々で占められている。そこで女性が活躍しにくいのは女性だからではなくて、「異質な」人間に対する許容度が低いからだ。だから女性以外の「異質な」人々も働きにくい。それが本質的な原因であって、そこに見ずに単に「女性の問題」として解決しようとしても、それは無理なのである。

冒頭に紹介した「20年経っても中途は中途」みたいな感覚は、まさにこの「異質に不寛容」な体質が顔をのぞかせた典型的な例である。同じ時期に一緒に入った同期入社の人間という極めて均質性の高い人々の群れがいて、そこに含まれない人はいつまで経ってもその「異質性」を払拭できない。同胞に対してすらかくも不寛容なのだから、外国人に対してなど推して知るべしである。

多くの日本人ビジネスマンにとって中国人の扱い方が難しいのは事実だろう。でもだからといって「中国人はこういう人々だから、こうすればいい」という発想で成果が出るとは思えない。問題の本質は「中国人のマネジメント方法を知らない」という点にあるのではなく、多くの日本の組織に共通する「異質への不寛容」にあるのだからである。

均質性の高さが効率を生んできた

もちろん短期的に見れば、均質性の高い集団が一気呵成に仕事をこなしてしまったほうが、バラバラな発想を持つ集団が「ああでもない、こうでもない」と議論しつつ仕事を進めるより効率が高いのは事実である。日本の製造業はそうやって高い効率と安定した品質を出し、世界市場での競争に勝ってきた。

日本の企業人はそういうやり方に慣れているから、理屈ではわかっていても現場でイライラが募るのも無理はない。その点については充分に理解できるし、この日本企業の強みを捨ててしまっては、あまりにもったいないと思う。

私事だが、筆者の妻は中国人なのであるが、通常の男性が結婚した時に感じるであろうところの「もともと他人だった人間が同じ家に住んでいる」「しかもそれが女性である」という「異質性」に加え、「おまけに外国人である」という点が加わるので、議論に疲労感を感じることは少なくない(誤解のないように付け加えておくが、関係が悪いわけではない)。

「風呂、メシ、寝る」という夫婦関係とは対局にある、かなり口数の多い夫婦である。「異質を許容」といっても一筋縄ではいかないことは身をもって理解しているつもりだ。だがより重要なことは、一方でそれをはるかに上回る価値を「異質」との暮らしから得ているし、素直にそれを楽しんでいることである。手前味噌ではあるが、まったく違う発想が組み合わさって効果が出た時の楽しさはなかなか味わい深いものがある。

異質なものを許容し、一見非効率に見える日常的な摩擦の中から、より高い価値を持つものを生み出すのだという覚悟を決めない限り、日系企業のマネジメントの問題は前に進まないだろう。実際、そういう点を意識して、現実のマネジメント手法や研修プログラムの中などに取り入れている企業も増えている。

まずは「異質なものと一緒に生きていくのだ」としっかり認識すること、そして「異質なものとコミュニケーションして価値を出すのだ」と決意して、しつこいぐらいのコミュニケーションをすること。これ以外に方法論はない。

それともうひとつ、日系製造業に関して言えば、企業の意志決定部分とその実行部分とに発想を分けて、意志決定部分には異質性、多様性を充分に生かし、その実行部分では均質性を重視するような方向で考えるべきだろう。現状ではどうも実行部分の強みが経営の意思決定を引きずり回しているような感じがある。

「異質を受け入れ、それを自分の力に変える」。それができるかどうかが日本国とか日本人、日本企業が今後、世界でもう一段飛躍できるかどうかの分かれ目になると思う。

カテゴリー[ 日系企業 ], コメント[1], トラックバック[0]
登録日:2006年 09月 23日 06:46:38

コメント

「異質への不寛容」は日本人の国民性の一つであり、簡単に変えようにしても変えられないでしょう。欧米企業に対してこれは日系のメリットでありますが、デメリットでもあります。最近、脚光を浴びているアメリカのグーグルはまさにこの「異質」をうまく生かして、いろんなアイディアを出して飛躍的成長を成し遂げてきた代表的な企業の一つだといえます。

サイ @ 2006年 09月 24日 23:19:08

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プロフィール
田中 信彦
(男)
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1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒。
毎日新聞社記者を経て、日本と上海の両方に活動拠点を持ち、企業の中国事業に対するコンサルティングに従事するほか、雑誌等への執筆、講演など多数。亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科で「日中人事・労務比較論」を講義している。
■主な著書
「中国で成功する人事 失敗する人事」(日本経済新聞社)・「人事・採用の基礎知識--中国編」(メディアファクトリー)・「ぼくの上海行商紀行」(文藝春秋)・「日本人の知らない中国人の私的事情」(講談社)
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