中国に譲歩できる人は安倍さんしかいない
【東京 27日 AFP】安倍晋三新首相の内閣初閣議が26日、首相官邸で行われた。新首相は所信表明として、複雑化している近隣諸国との外交関係修復をあげ、中でも中国を「最も重要な」パートナーであると述べた。写真は同日、初閣議後に官邸を後にする安倍首相(中央)ら。(c)AFP/KAZUHIRO NOGI
安倍総理が誕生した。小泉時代と比べて、果たして日中の政府どうしの関係はどうなるだろうか。私は一言で言って、比較的安定するのではないかと感じている。その理由は以下のようなことだ。
小泉さんの時代に日中の政府間関係がなぜきしみを見せたのか。それは端的に言ってしまえば小泉さんは党内基盤が弱く、いわば「一匹狼」的な要素が強かったことが非常に大きく影響していると思う。
小泉さんは中国をどう思っていたかといえば、決して「反中」の人ではない。むしろご自身も「私は日中友好論者です」再三強調しているように、日本にとっての中国の重要性は非常によく理解していたと思う。実は中国の政府関係の人々にとっても小泉さんの評価は決して低くなく、「靖国さえなければ、小泉さんは最高なんですけどねぇ……」と語っていたのを何度も聞いている。
でも小泉さんは中国がどんなに抗議しても、靖国にこだわった。というより、対中国との関係でこだわったのは極論すれば靖国の問題だけだったと言ってもいい。
それはなぜか。
簡単にいえば、それは小泉さんの思想的なこだわりでも政治的信念でも何でもなく、要するに「靖国」の問題が政治焦点化してしまったため、ここで譲れば「変人政治家小泉純一郎」の求心力が瓦解してしまうと判断したからだろう。
「変人」で「頑固」
小泉さんの魅力は、よくも悪くも「変人」で「頑固」であるというところにある。政策が適切であろうがなかろうが、決めたらとにかく貫き通す。「貫き通す」こと自体に意味があるのであって、政策的効果は二の次、みたいな部分がこの人にはある。それがあの独特の風貌と相まって小泉さんの魅力になっていたと思う。かく言う私も個人的には小泉さんが決して嫌いではない。
しばしば指摘されているように、「靖国」自体は日中間の政治問題としては本質的にはさほど重要な問題ではない。あくまで形式的なことである。それをここまで政治的な焦点化してしまったのは中国側の失敗だったと私は思うが、それにしても中国側も小泉さんがここまでこの問題にこだわるとは想像しなかったのだろう。結局のところ最後は小泉さんが辞めるのを待つ以外、方法がなくなってしまった。
で、小泉さんのほうはといえば、確かに変人政治家の面目は保ったが、日中間の政治的懸案は何も解決できず、政治本来の機能であるはずの利害調整については成果はまったく上がらなかった。
対日関係で政治的成果が上がっていないのは胡錦濤政権にとっても同様で、日中両国とも大国なのだから、お互いに言い分や事情があるのは当然で、それを言い合っているだけでは埒があかない。そういう意識は両国の政府がともに持っている。
安倍さんは妥協ができる
だからお互いが何らかの譲歩をしなければならない。まあそのあたりでまさに今、いろんなやりとりが安倍さんと胡錦濤さんの間でなされているはずだが、安倍さんが小泉さんと違うのは、ある程度の妥協ができる立場にある点である。
前述したように小泉さんは一匹狼だから、自分の信念以外に頼るものがない。それは魅力である反面、政策が硬直化するのは必然だ。妥協すれば命取りになる。だが妥協しなければ政治にならない。結局何も現実的成果を出せずに時が過ぎる。その点で韓国の現政権にやや似ていると言えるかもしれない。
安倍さんはその点で党内基盤が強いし、もともと日本社会の本流に位置する人である。何のかんの言ってお祖父様の存在がやはり大きい。お祖父様は「日本の妖怪」と言われたぐらいの人だから、日本社会のウラもオモテも知り尽くしている。そう簡単に異を唱えられる筋の人ではない。安倍さんは穏やかそうな人だけれど、その点で暗黙のドスが効いている。
さらにいえば、お祖父様は旧満州国の高官だった人で、中国との因縁も浅からぬものがある。安倍さんには実は中国共産党や政府に通じるさまざまなルートがあって、すでに世間の予想をはるかに超える量と質の接触をしているようだ。
対中関係というのは、こういう筋の人でないとうまくいかない。安倍さんがどういう妥協をするのかわからないが、仮に安倍さんが中国に何らかの譲歩をしたとしても、安倍さんの自宅に火をつける人はいないだろう。
私が安倍さんの時代に日中の政治的関係が安定するのではないかと考える最大の理由はそこにある。
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登録日:2006年 09月 30日 13:48:59
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- プロフィール
- 田中 信彦
- (男)
- http://chinahr.way-nifty.com/
- 1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒。
毎日新聞社記者を経て、日本と上海の両方に活動拠点を持ち、企業の中国事業に対するコンサルティングに従事するほか、雑誌等への執筆、講演など多数。亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科で「日中人事・労務比較論」を講義している。
■主な著書
「中国で成功する人事 失敗する人事」(日本経済新聞社)・「人事・採用の基礎知識--中国編」(メディアファクトリー)・「ぼくの上海行商紀行」(文藝春秋)・「日本人の知らない中国人の私的事情」(講談社)
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