前代未聞!中国経済誌が組んだ日本大特集
【北京/中国 10日 AFP】世界銀行(World Bank)によると、中国の2006年の目標経済成長率は9.2%に達成する。しかし、投資への過剰な依存、および国内需要の伸び悩みの克服が今後の重要課題となる。写真は、9日、北京(Beijing)市内の店舗で、商品を並べる店員。(c)AFP/Peter PARKS
中国の権威ある雑誌が日本の大臣のアップを表紙にしたのは前代未聞のことではないか。中国の知識層に最も信頼されている経済雑誌『財経』(隔週刊、中国証券市場研究設計中心発行)06年1月23日号が「解読日本改革」と題した大特集を組んだ。竹中平蔵・総務大臣(郵政民営化担当)の単独インタビューを目玉に、日本で数多くの経済人や研究者などを取材、小泉内閣が進めてきた改革を好意的に評価し、その成果として日本経済が完全に上昇基調に入ったと断言している。
中国政府直系の旧来型メディアやインターネットの論壇などで「反日」「反小泉」の怒声が渦巻く中、このように冷静な見方の特集記事が中国の主要な雑誌に掲載されたことの意味は非常に大きい。もちろん全文中国語なので、そのまま読める日本人は多くないかもしれないが、中国に関心のある方なら必読の内容だと思う。
「日本経済は完全に復活した」
『財経』は1998年創刊。現在も編集長の胡舒立氏(女性)が立ち上げた雑誌だ。同氏はもともと中華全国総工会の機関紙『工人日報』の記者を務め、その後、中国初の民営新聞『中華工商時報』国際部門で活躍。中国のジャーナリズム世界では有名な人で、中国の政界、経済界に深いネットワークを持つ。
今回は編集長みずから日本を訪れ、竹中大臣をはじめ、日本21世紀政策研究所理事長、田中直毅氏や千葉商科大学学長、加藤寛氏、松下電器産業顧問(前副社長)、少徳敬雄氏、三菱東京UFJ銀行副頭取、金成憲道氏などにインタビューをしている。全体で20ページ近い大特集である。
インタビューで竹中大臣は「日本のいまの経済情勢から見て、経済は完全に復活したと言っていい。復活の原動力は改革にある」と語り、「改革には2種類あって、ひとつは受動的改革(reactive reform)で、もうひとつは能動的改革(active reform)である。前者は不良債権の処理、後者は民営化など“小さな政府”の実現だ」としている。前者はほぼ完了し、後者は道筋がついた段階で、実行はこれからだと記事は評価する。
ちなみに胡編集長は米国留学経験があり、このインタビューも直接英語のやりとりで行われたという。
さらに90年代終盤から2000年代にかけての金融危機とその際の政府の対応を詳細に紹介し、日本政府が公的資金の注入などの手法でいかに銀行をコントロールし、不良債権処理を進めていったかを竹中大臣の発言を軸に明らかにしている。
また松下電器の少徳氏のインタビューでは、一時期業績不振に陥った松下が、中村社長のリーダーシップの下、いかに問題に取り組み、成果を挙げて業績の回復につなげていったかを、これも詳細に紹介している。
「日本式資本主義」は消滅した
興味深いのは第4部「日本式資本主義を定義する」の部分だ。
この部分で同誌取材班は「日本取材の前、中国や香港などの日本専門家に事前の取材を行った。その過程で“日本独特の資本主義”の存在を強調する人が多かった」と述べる。ところが日本でのインタビューでは「“日本式資本主義”の存在を肯定する声はほとんど聞かれなかった」とし、「日本は今回の改革を経て、“日本式資本主義”を脱却し、米国式に近いシステムに変貌しつつある」と観察している。日本国内でも「米国式」への過度の傾斜には賛否両論があるが、中国の取材班が日本の「米国式傾斜」を好意的に取り上げているのは面白い。
「靖国」には触れず
竹中大臣に対するインタビューはトータルで数ページに及ぶ長大なものだが、その中で懸案の日中の政治的関係に触れた発言は「政治的問題の解決には一定の時間を要するだろうが、私はこれらの問題が必ず解決できると信じている」という一文だけである。このあたりに企画の性格がにじみ出ている。
つまり今回の特集の言わんとするところ整理すれば、以下のようなことだろう。
日本は確かにバブル崩壊後、危機的状況に陥った。反動が大きかっただけにその対応に時間はかかったが、日本は何もしていなかったわけではない。小泉政権になって政府は断固たる姿勢で世論の反対を押し退けて改革を進め、成果を出した。民間企業もバブルの遺産に苦しみながらも必死の努力で事業の再構築を行い、ここにきてその成果が出てきた。明らかに日本は復活しつつある。
中国はこのままでいいのか
そして、ここから先は記事に文章として書いてあるわけではないのだが、本当に言いたいことを勝手に想像すればこういうことだろう。
「中国は確かに見た目の経済は成長しているが、外資の大量流入にどっぷり漬かった水ぶくれの成長であって、決して楽観できる状況ではない。政府は「やるべきことをやらず、やらなくてもいいことをやる」状態から抜け出せず、相変わらず経済にあれこれ指示を出して思いのままに動かそうとする。小さな政府の実現は中国にこそ必要な改革ではないのか。」
「企業は企業で、キャッシュフローの潤沢さにうつつを抜かし、将来に向けての必要な投資や痛みをともなう制度の改革を怠り、目先の利益だけを追う姿勢が直らない。こんな豊かで実力のある日本企業がこんなに必死の努力をして成果を出しているのに、あなた方はこのままでいいのですか」--と。
「反日」を叫ぶ極端な人々の声にばかり耳を傾けていると、中国を見誤る。中国にはこういう冷静な視線で日本を見ている人も少なからずいる。それも現政権の中枢に極めて近い人々の間に、である。
今回の特集記事の取材にもかかわった友人が言っていた言葉が印象に残る。
「日中の外交関係がこれだけギクシャクしている中でも、中国のちゃんとしたジャーナリストに日本のちゃんとした人物を取材してもらえば、やはりちゃんとした記事が出てくるのだということを確認できたことは、私にとって大きな収穫であり、将来の希望となりました」。
日中関係はさまざまな困難さを抱えながらも着実に成熟化している。そのことを決して忘れてはならないと思う。
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登録日:2006年 02月 13日 19:37:16
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- プロフィール
- 田中 信彦
- (男)
- http://chinahr.way-nifty.com/
- 1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒。
毎日新聞社記者を経て、日本と上海の両方に活動拠点を持ち、企業の中国事業に対するコンサルティングに従事するほか、雑誌等への執筆、講演など多数。亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科で「日中人事・労務比較論」を講義している。
■主な著書
「中国で成功する人事 失敗する人事」(日本経済新聞社)・「人事・採用の基礎知識--中国編」(メディアファクトリー)・「ぼくの上海行商紀行」(文藝春秋)・「日本人の知らない中国人の私的事情」(講談社)
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