「中国的独立自尊の自営業者」と携帯電話

サムスン、中国で携帯電話新シリーズ販売開始 - 中国

【北京/中国 7日 AFP】韓国の半導体大手サムスン電子(Samsung Electronics)は6日、北京で携帯電話の新シリーズの販売を開始した。2006年の携帯電話端末の販売数は前年比40%増の1億2000万台に達したことから、中国は世界最大の携帯電話機市場となった。2007年には、さらに25%増え1億5000万台となる見通し。写真は同日、新シリーズの携帯電話を披露するサムスン電子の従業員ら。(c)AFP

AFPBB News


中国情報産業省の発表によると、中国の携帯電話利用者が07年末までに5億2000万件に達する見込みだという。なぜそんなに売れるのか。もちろん社会が豊かになったことが大前提だが、中国社会には日本と違う、もともと携帯電話が売れやすい土壌があるように思う。

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同省の発表では、07年1月末時点での中国の携帯電話契約者数は4億6700万件。07年1月1カ月間で630万件以上増加しているという。1日本では1社あたりの1ヵ月の純増数が10万件台だから、中国のマーケットの大きさには唖然とするほかない。

中国の電話と言えば、1980年代半ばですら、同じ北京市内に電話がつながらず、「直接行ったほうが速い」と真面目に言っていた。上海から北京に電話しようと思えば、長距離電話局に申し込んで半日は待つのが常識だった。それを思うと、20年間でよくもここまでと感慨すら覚える。

  上海は全国でも携帯電話の普及率が最も高い都市の1つだと思うが、当地の感覚で言えば、まともに働いている成年男女で携帯電話を持っていない人はもはや珍しいと言っていい。

  なぜこんなに売れるのか。もちろん携帯電話は便利だからで、携帯が売れているのは中国ばかりではないが、中国社会には携帯電話が売れやすい、というか中国人が携帯電話を買わなければならない背景があると思う。それは中国社会の人々の行動様式のことである。

個人が持つ商権や情報を携帯電話に「蓄積」

  中国で暮らしてみると分かるが、中国の人々の行動はあくまで個人がベースになっている。もちろん会社や役所などの組織に属している人は多いが、そうだとしても、仕事の進め方はあくまで個人が単位である。感覚としては一人ひとりの社員が個人商店みたいなもので、会社の看板を借りて軒先で商売をしているようなイメージになる。

  当然、仕事を通じて得た人脈は自分のものだし、商売のノウハウも自分個人のものである。意識のうえでは「会社から給料をもらう」というより、「自分の稼いだカネの中から会社に管理費を抜かれている」という感覚に近いと言ってもいいかもしれない。だから「この会社はショバ代が高い。割が合わない」と思えば、すぐに別の会社の軒先に移る。当然その個人が持っている商権や情報も一緒に移っていくことになる。

  こういう行動様式の個人にとって、自分の行動範囲の人々と自分をつなぐ通信手段は死活的な重要性を持つ。もし会社の固定電話しか連絡方法がなければ、行動の自由は一定の制約を受けざるを得ない。だが携帯電話さえあれば、どの会社に移ろうと、どこに引っ越そうと、自分が蓄積してきた無形資産は消えることがない。,つまりネットワークのポータビリティ(持ち運び自由性)が非常に重要なのである。

  これが誰もが経済的に多少の無理をしてでも携帯電話を持つ大きな理由である。中国人のメールのやりとりをしていると、会社のメールアドレスを使う人の比率が日本人より低く、Hotmail などのウェブメールを使っている人が多い。それも同様の背景があるのだろうと想像している。

「独立自尊の自営業者の教示を表す」

これは「便利だから」などという生易しいものではない。やや冗談めかして言えば、携帯電話こそ「13億総独立自尊の自営業者」たる中国人の矜持を表す象徴的な通信ツールなのである。

  何らかのきっかけで出会った中国人同士が、「こいつ、面白そうだな」と思えば、まず交換するのは携帯電話の番号である。勤務先など、どうせいずれ辞める可能性が高いから、さほどの意味はもたない。そして翌日、さっそく電話して一緒にご飯を食べる。そこでもウマが合えば、その次の日にはもうどちらかの家に遊びに行っている。

  こうやって自分の仕事や商売、生活のために有利になる情報をお互いに交換する。友人を紹介し合う。そういう信頼できる人間が多ければ多いほど、世の中は生きやすくなる。そのカギを握るのが携帯電話である。 最近では、地方から都会に出稼ぎにくる女子工員さんたちでも携帯電話をもっているのがほぼ常識になりつつある。最低限の衣食住の次は携帯電話の費用という感じだ。最終的には8億台ぐらいまでいくのではないかとの予想もある。

世界最大の時価総額を持つ通信会社がチャイナモバイルであるというのもうなづける。
  

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登録日:2007年 03月 21日 12:24:50

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プロフィール
田中 信彦
(男)
http://chinahr.way-nifty.com/
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒。
毎日新聞社記者を経て、日本と上海の両方に活動拠点を持ち、企業の中国事業に対するコンサルティングに従事するほか、雑誌等への執筆、講演など多数。亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科で「日中人事・労務比較論」を講義している。
■主な著書
「中国で成功する人事 失敗する人事」(日本経済新聞社)・「人事・採用の基礎知識--中国編」(メディアファクトリー)・「ぼくの上海行商紀行」(文藝春秋)・「日本人の知らない中国人の私的事情」(講談社)
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