Jリーグサッカーの審判と在中国日系企業の競争力

広がる貧富の格差 増加する軽犯罪 - 中国

【重慶/中国 25日 AFP】中国では、貧富の差が広がるにつれ軽犯罪が増加し、国民の治安に対する意識は過去3年間にわたって低下している。中国南西部重慶(Chongqing)の警察では、ダフ屋撲滅のために、逮捕されたダフ屋を見せしめに立たせている。写真は24日、見せしめのダフ屋を見ようと集まった人々。(c)AFP

AFPBB News


多少の反則ぐらいで倒れていてはいけない。負けずに戦えということか。日本サッカー協会は審判を巻き込んで「たくましい選手づくり」に乗り出したのだそうだ。

 日本では審判の進め方について反則があったかどうかの「判定の正しさ」が重視され、どうしても反則された側に甘くなりがち。国際試合などでは日本選手が倒れても相手の反則を取ってもらえず、そのまま置き去りにされるケースも少なくない。そういう事態を避けるために「反則にあっても倒れない強さ」を養おうというのが今回の取り組みの狙いだという。

2006年02月20日付朝日新聞ネット版によると、

「海外に比べて身体能力や体格が劣る日本は、これまでもわずかな接触プレーですぐに倒れる選手が目立っていた。相手をふりほどいてプレーを続けようとする選手は少なく、主審に反則を訴えるシーンばかり」

「国際試合では実際に、倒れた日本選手が反則を取ってもらえずに置き去りにされる場面も多い。技術委員会を中心に「世界と戦っていくためには、反則にあっても倒れない強さが必要」という声が高まっていた」

で、

「日本は反則があったかどうかの判定の正しさが重視され、反則された側に甘くなりがち。そこで、程度の小さい反則を取らず、アドバンテージを見る時間や対象を広げるなどの方針を両委員会で確認した。試合中、選手に対してプレーを続けるように求める働きかけも強める」

のだそうだ。

 この話を読んでいて、中国の日系企業や日系企業で働く日本人にも同じような傾向があるなあと思った。

確かに日本国内は法律もちゃんとしているし、治安もよく、人々の遵法意識も高い。そういう所で働くことに慣れているから、何かちょっとルールに合わないことがあると、ことさら大きく騒ぎ立て、相手の責任を追及する。だがそれでいい結果が出るとは限らない。それは相手のホームグラウンドでは、日本と同じように不正な行為だと思われているとは限らないからだ。

 キチンとしているが乱戦に弱い。組織戦には強いが一騎討ちに弱い。中国の日系企業を見ていると、どうもこういう感じがある。

ルールがよくわからない社会

実際、中国で仕事をしていると、肝心のルールがよくわからないことが多い。私が領域にしている人事制度関連の分野でも、たとえば従業員の社会保険(養老保険、失業保険、医療保険、住宅積立金)を企業と個人が、本人の給与に応じて一定の比率で負担することになっている。しかし現実には全然負担していない企業があったり、個人負担分を企業が肩代わりしていたり、地方によって扱いが全然違っていたりする。

 また例えば、中国の企業には「工会」と呼ばれる従業員の組織の設立が原則的に義務づけられており、日本では「労働組合」と訳されたりしている。しかしこの「工会」の役割とか意味とかいうものは現実にはどうもよくわからず、企業は工会費として全従業員の給与の2%を拠出することが法律で決められてはいるのだか、その使い道がまたよくわからなかったりする。

 例を挙げればキリがないが、中華の天地はことほど左様に複雑怪奇なことが多いのである。

コンプライアンスとは言うけれど……

 最近、日本企業の間では「コンプライアンス」という言葉が流行っている。日本語で言えば「法令遵守」ということだろうが、この波は中国の日系企業にも押し寄せていて、「我が社はコンプライアンス重視です」という言葉を聞くことが多くなった。

 それはそれで大いに結構なことではあるが、そこで問題になるのはルール自体がよくわからない時である。結局のところ誰に聞いたってわからないのだから、要は現場の判断で、腹を括って臨機応変に対応するしかない。時には間違えることもあるかもしれないが、そうした現場の判断を現地での上司やそのまた上司である日本の本社は信頼して支援する。そうやってひとつひとつクリアしていくしか方法がない。

 現に中国の現法で成果を出している日本人は例外なく、そうやってみずからの皮膚感覚で現場の状況を判断し、みずからのリスクで仕事を進めていっている。「相手の反則だ」と主張して現場に倒れている余裕はないのである。

 そういう現場の日本人たちが例外なく怨嗟の声をあげているのが、日本の本社の官僚たちの空理空論である。

 「コンプライアンス重視だ、というから慎重に法律を調べて、怪しげな手段は一切取らないようにやっているのに、それで仕事が取れなかったりすると、今度はなぜウチにはできないのだと怒られる。事情を知らない奴ほど勝手なことを言う」

 こんな悩みを聞くことは少なくない。「法律ではこうなっているはずだ。なぜそうならないのか」「どうしてこんな当たり前のことができないのか。お前が知らないだけではないのか」。なぜか日本のホンシャノヒトタチというのは、身内の言うことを信用せず、外部の人の言うことを素直に聞くという習性がある。これは私のようなコンサルタントにとっては時にありがたいことではあるが、出先の人々は本当に可哀相だと思う。

背中から鉄砲を撃つな

 日本の社会は実に「きちんと」しているから、こっちでAというボタンを押せば、はるか遠くのあっちでBという結果になる、ということがほぼ確実に読める。ところが中国のような未成熟な社会では、その因果関係が甚だ不確実である。日本のような確実性の高い社会で高効率を上げていた人が、こういう不確実性の高い社会で成果を出せるとは限らない。むしろ逆である場合が多いような気がする。要はいかに理路整然としているかではなく、いかに現場で結果を出せるかにある。

 とはいえ、中国ではルール違反など気にするな、と声高に避けぶわけにもいかず、現実の対応はなかなか難しいが、あまりに潔癖では戦いにならないことは間違いない。Jリーグとて反則を是認するわけではないだろう。しかしあまりにも正直にルールに頼った戦いは困難なのが中国を含む海外での現実であって、それはどこかで誰かが飲み込むしかないし、現実には誰かがそうしている。

 私はサッカーのことはまるでわからないが、その意味でJリーグの今回の対応は支持したい。得意の型にはまれば見事に勝つが、そうでないと見事玉砕という、すがすがしい日本的戦法では、なかなか海外では勝ちにくいだろう。海外現法を管理するホンシャノミナサンも、杓子定規に後ろから鉄砲を撃つようなことはしないで、どうか現場の判断を信頼して、しっかり支えてほしいと思う。

カテゴリー[ 日系企業 ], コメント[0], トラックバック[0]
登録日:2006年 02月 26日 17:53:08

コメントを追加

Trackback

この記事に対するトラックバックURL:

カレンダー
< 2006年 02月 >



1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28



プロフィール
田中 信彦
(男)
http://chinahr.way-nifty.com/
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒。
毎日新聞社記者を経て、日本と上海の両方に活動拠点を持ち、企業の中国事業に対するコンサルティングに従事するほか、雑誌等への執筆、講演など多数。亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科で「日中人事・労務比較論」を講義している。
■主な著書
「中国で成功する人事 失敗する人事」(日本経済新聞社)・「人事・採用の基礎知識--中国編」(メディアファクトリー)・「ぼくの上海行商紀行」(文藝春秋)・「日本人の知らない中国人の私的事情」(講談社)
最近のトラックバック
検索