「会社」と「個人」のどっちが信用できるのか

国営アミューズメント・パークで、ディズニー模倣 - 中国

【北京/中国 20日 AFP】「ディズニーランドは遠すぎる」をスローガンにする中国国営のアミューズメント・パークがある。
≫続きを読む…
(c)AFP/TEH ENG KOON

AFPBB News


「私、会社のためにではなくて、あなたのために働いているんです」。男性の管理職が女性の部下から突然こんなことを言われたら、どう思うだろうか。

.
もしこれが日本での話なら、まあ順当に考えて一種の「告白」に近いだろう。しかし中国ではこういう話は珍しくない。そこにあるのは別に男女間の云々ではなく、個人対個人の話だからである。このあたりの微妙な感覚に中国でのマネジメントのカギがある。

ある日本の大手物流関係企業の駐在員の話。この人物は30代そこそこだが、上海で事実上の現地トップとして事業を切り盛りし、軌道に乗せた。日本でも現場経験が長く、中国でも現地社員と一緒に汗を流すのが好きなタイプの人だった。時には部下の家に招かれて食事をしたりして、中国人社員にも非常に慕われている人物だった。

赴任3年ほどして、職場での雑談の折に「俺も来年あたりは帰国かなあ」といった話をした時に飛び出したのが冒頭の女性社員の発言である。

彼女いわく「私はあなたからいろんなことを教わった。とてもよくしてもらって楽しく仕事ができた。もしあなたが帰国するというなら、この会社にいても仕方がない」という趣旨の話をし、その場にいたほかの社員たちも「そうだそうだ」といった雰囲気だったという。

この駐在員は後日「あれにはグッときた。日本に家族を残していたから踏みとどまったが、もう少し若くて独り者だったら、会社を辞めてでも中国に残っていたかもしれない」と苦笑する。

「器」につくか、「人」につくか

中国の人々は、会社という「器」に属するという感覚は薄く、自分のボス「個人」を見て、この人に従っていくとどういうメリットがあるかという観点で仕事を選ぶ傾向が強い。それは日系企業で働く中国人も同じである。

  そのため日本人管理職が人間的な魅力のある、近くにいて学ぶことが多い人であると、その人物を慕って集まった中国人に求心力が働いて、集団として力を発揮する。

逆にどんな有名企業であっても、核になる日本人に個人的魅力がないと「給料さえもらえればいい」という中国人だけが残り、どんどん弱体化していく。

ボスが儲かれば、自分たちもトクをする

日系ではないが、ある中国人が経営する会社で、従業員の士気が非常に高い企業がある。小売業なのだが、特に厳しい規則や罰則を作らなくても従業員は始業時間にきちんと出社してきて店を掃除し、接客にもとても熱心である。創業4年目だが、売上高は倍々ペースで伸びている。

  この会社の従業員に「なぜそんなに熱心に働くのか?」と聞いてみた。その答えはシンプルで「ラオバン(経営者、ボス)がいい人だから」。その従業員の解説はこうである。

「我々は自分たちのラオバンがいい人であることを知っている。我々のことを信じ、常に配慮してくれている。そういう人のメンツを潰すわけにはいかないし、ラオバンが儲かれば自分たちもいい目が見られることが分かっている。だからラオバンのために働く」。

ちょっと意地悪く「でも結局、一番儲かるのはラオバンじゃないの?」と聞いてみると、「ラオバンが一番儲かるのは当たり前だろ? 我々にはそんな力はないから従業員をしているのだ」と言われてしまった。

  「○○が儲かれば、自分たちもいい目が見られる」。考えてみると、これは日本人がよく使う言い回しと同じである。違うのは○○の部分に日本では「会社」が入り、中国ではラオバン個人の名前が入ることだ。

  言い方を換えれば、日本では「会社」を担保に自分の将来を設計し、中国では、これはと見込んだ「個人」を担保に自分の将来を考えるということだ。突き詰めると「会社」と「個人」のどっちが信用できるのかという話になる。

組織で勝負するか、個人で勝負するか

冒頭の日本人駐在員の経験は、こういう観点で見ると合点がいく。この人物は個人として中国人からラオバンとして見込まれたから、士気の高い中国人が彼の下に集まり、その現法もうまくいった。だがそれはあくまで海外駐在員という「一夜の夢」であって、結局はこの人物も組織の人に帰っていったという構図になる。

  組織で勝負するか、個人として勝負するか。これは難しい選択で、どちらがいいとか悪いとか、一概には言えない。個人力で勝負する中国型は決断が速く、集中力は強いが、継続性や再現性が低く、組織として大型化しにくいという難点がある。

  想像だが、恐らく日本人の多くは組織力で勝負する道を選んだ方が、高い価値が出る可能性は高いだろう。ただ個人で勝負するタイプの人の方が中国人には分かりやすく、結果が出やすい。

  そういう日本人の働き方と、中国人の個人志向をどのようにリンクさせるかが、中国に赴任する日本人マネジメントのテーマであり、現地法人がうまく機能するかどうかのカギを握っている。

カテゴリー[ 日系企業 ], コメント[4], トラックバック[0]
登録日:2007年 04月 20日 23:58:35

コメント

私も少し上海で働いた経験があります、確かに中国の個人主義は
日本の個人主義とは少し違いますね。かなり明快なビジネス的行動主義かな?

kk @ 2007年 04月 21日 10:35:45

最近の大多数の日系企業様ではこのようなことは学習済みと判断しています。
その上でどう対応するかが今日的課題です。

上海 @ 2007年 04月 30日 22:03:38

なんか三国志の劉備玄徳のように人徳で集まる感じがします。
私はそんな人が少しうらやましいです。

のり @ 2007年 05月 17日 23:50:50

勉強になりました。このような考え方が中国人にあるとは知りませんでした。だとすると私は中国人的なのかなと感じています。「ラオバンが一番儲かるのは当たり前だろ? 我々にはそんな力はないから従業員をしているのだ」・・・この気持ちは良く判るので・・・・・。
どうもDNAに中国と深い関係が有りそうです。
徐福あたりのところが曖昧なので何とも言えませんが・・・。

nagata @ 2007年 06月 12日 20:04:38

コメントを追加

Trackback

この記事に対するトラックバックURL:

カレンダー
< 2007年 04月 >
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30




プロフィール
田中 信彦
(男)
http://chinahr.way-nifty.com/
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒。
毎日新聞社記者を経て、日本と上海の両方に活動拠点を持ち、企業の中国事業に対するコンサルティングに従事するほか、雑誌等への執筆、講演など多数。亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科で「日中人事・労務比較論」を講義している。
■主な著書
「中国で成功する人事 失敗する人事」(日本経済新聞社)・「人事・採用の基礎知識--中国編」(メディアファクトリー)・「ぼくの上海行商紀行」(文藝春秋)・「日本人の知らない中国人の私的事情」(講談社)
最近のトラックバック
検索