ワハハとダノンの争いは「投資」に対する観念の違い
仏ダノンと中国Wahahaの企業間紛争、合弁のリスクを浮き彫りに
【6月17日 AFP】関連子会社の不正行為、秘匿された利益、法的手段に訴えるとの脅し、「悪行」や企業内の「暴政」だとの主張。
≫続きを読む…
(c)AFP/Dan Martin
仏食品ダノン(Danone)と中国での事業パートナーである民族系飲料メーカー「ワハハ」の間に持ち上がった対立は、そもそも「投資」というものに対する観念と理解の相違が出発点になっている。中国国内には庶民を中心に民族企業ワハハ擁護論もあるが、法的論争も含めて、大勢はダノン優位に展開しつつある。
.
ワハハは中国でも最もよく知られた国内企業のブランドのひとつである。創業者の宗慶后氏が、1987年、杭州市内の小学校に配属され、購買部に付属する小食品工場を任されたところから始まった。
子供の健康に役立つ安心な飲料というコンセプトが当たり、90年には売上高が1億元(1元は約16円)に成長した。94年の時点では内陸部などを含め、全国に40以上の工場を有する一大有力民族企業になっていた。
「投資」的には成功だった合弁企業
96年にダノンと合弁契約を結んだ時点で、ワハハには一定のブランド力と商品力はあったが、迅速な国内展開を進めるための資金力が不足していた。そこに目をつけたのがダノンである。実際、合弁設立後のワハハの急激な成長は、ダノンの資金力なしには考えられない。
ダノンにとっても、合弁設立後の10年で、合弁会社の価値は数倍に成長しており、十分に投資としては引き合っている。
つまりこの合弁は事業投資としてみれば、両社ともに大きな利益を得ている「ウィンウィン」の関係になっているのである。中国でのM&Aに詳しいあるコンサルタントによれば「事業投資として、中国でこんなに成功した合弁も珍しいのではないか」とすら話す。
しかし投資の成功の一方で、両社の関係は必ずしも順調ではなかった。というより、不協和音ばかりだったとと言っていい。それは一口でいえば、両社の「合弁」に対する期待にズレがあったからである。
「投資」か「事業」か
ワハハにしてみれば、ダノンは世界の食品業界をリードする巨大企業であり、さまざまなノウハウや経営力を持っている。それを活用し、互いに知恵を出し合い、汗を流して、中国でトップの食品企業をつくっていきたいという思いがある。
しかしダノンにしてみれば、グローバルな巨大企業として、ワハハに借りなければならないノウハウや知恵があるわけではない。「ダノン」ブランドの食品はスーパーやコンビニなどのチェーンを通じて販路は確保できるし、ワハハのブランドに頼らなければならない要素は薄い。つまりダノンにとってのワハハとは、単なる投資の対象としての意味合いが強かったのである。
これがワハハ側には不満だった。「合弁事業なのにダノン側は何の努力もしない。汗を流しているのはワハハ側だけだ。どうして利益だけ持っていくのか」。こうした不満が蓄積し、両社の関係は次第に悪化、そうした流れを背景に、ワハハ側は、ワハハブランドの製品をダノンとの合弁企業以外の会社でも使用して、競合製品を販売するようになった。
「ワハハ」商標の使用権が争点に
両社の対立は、「娃哈哈(ワハハ)」という商標の使用権がどこにあるかという問題に端を発して一気に噴出した。
ダノンとワハハは1996年の合弁会社設立時点で、両社は「娃哈哈(ワハハ)」という商標の使用権は合弁企業にある」とする内容の契約に合意している。この点はワハハ側のトップである宗慶后氏も認めている。
しかし、この間の経緯にもひとつのボタンのかけちがいがあった。それは両社のどちらがメジャーかという問題だ。もともと両社の合弁は、ダノンとワハハの2社ではなく、この両社の合弁を取り持った香港の証券会社を含めた3社の出資によるものだった。
この時、出資比率のトップはワハハで49%、ダノンが35%、香港の証券会社が16%という比率だった。詳しい経緯は省くが、この仲介役の証券会社が経営破綻し、この株がダノンに渡ったため、ダノンが51%、ワハハ49%という「ダノン主導」の合弁に転換してしまった。これはワハハ側にとっては思惑とは違う展開だった。
ワハハ側の一部には、「ダノンの策略にひっかかった」という思いもあるようだ。真相は不明だが、ワハハは合弁会社の主たる事業主体でありながら、出資比率ではマイナーな存在になってしまった。ごく端的にいえば、「ワハハ」というブランドの所有権はダノンの手中に収まってしまったのである。
前述したようにワハハ側はダノンとの合弁以外でも「ワハハ」の商標の使用を開始していたが、それに対してダノンは長い間、特段のクレームをつけていない。一種の黙認を与えていたフシがある。その意図も不明だが、合弁自体は儲かっているわけで、事を荒立てたくないとの思惑があったのかもしれない。
しかしワハハ側の設立した、ダノンとの合弁以外の企業が40数社にも達し、その影響力が無視できなくなってきたことから、ダノンはこれらワハハ系企業の一括買収を提案。しかし買収価格が低すぎるとしてこの提案はワハハ側は拒否。「ダノンによる敵対的買収だ」として従業員も反対するなど、問題が大きくなった。
その後も対立はこじれ、6月にはダノンが「合弁企業に使用権がある『ワハハ』の商標の無断使用だ」として、ワハハグループ企業の登記場所である米国などの裁判所に提訴。6月20日にはワハハ創業者の宗慶后氏が反発し、合弁企業の董事長を辞任する事態に発展した。
庶民はワハハ側、知識層はダノン側
こうした動きに対し、中国のマスメディアは当初、「民族企業を守れ」的な論調が目立ち、掲示板などの意見もワハハに同情的なものが多かった。宗慶后氏の人気は大きなものがあり、ワハハという民族系企業の星が外資に不当な扱いを受けているとのイメージが先行したきらいがある。
一部では、ワハハグループが広告出稿などを道具にメディアの論調をコントロールしようとしているとの噂もある。
しかし、前述したように、ダノンとワハハの関係は、すでに事業投資としてみれば、両社が巨大な利益を得ており、ともに成功した関係である。「ダノンは汗も流さずに……」という創業者、宗慶后氏の気持ちも理解はできるが、資金不足のところに投資を受け入れたのだから、基本的には仕方がない。
もちろんダノンが本当に善意の投資家であったか、誠実に合弁企業の成長のために精一杯の努力をしたかという点については、大いに疑問の余地がある。しかしそれは法的問題という性質のものではない。法的には「ワハハ」の商標の使用権はダノンとの合弁企業にあり、合弁のメジャーはダノンなのだ。
「外資にうまくやられた」。中国の庶民がそういう気持ちを持つであろう背景は理解できる。ただ、相手は百戦錬磨のグローバル巨大企業であり、煮ても焼いても食えない老獪な集団であることは、いわば自明のことである。
この問題がどう決着するのか、行く先はわからないが、基本的にはワハハ側に理はない。「感情」に押されて無理を通そうとして、それが「民族感情」などというものと結合すると、中国にとって厄介な問題になる可能性がある。適当なところで矛を収めないと、また中国が非常識な国といわれる。
カテゴリー[ 中国社会 ], コメント[4], トラックバック[0]
登録日:2007年 06月 28日 15:48:42
コメント
要は自分の会社が人に渡るのが嫌なのよね。
純粋なんだなワハハの経営者は・・・
栄城 @ 2007年 12月 13日 10:27:30
テレビをみてこの紛争がどんな内容なのかいまいち分からなかったのですがこのブログをみてようやく合点がいきました。参考になりましたー
ハッチ @ 2007年 12月 28日 02:07:03
今さっきワハハとダノンの争いをNHKで見ました。
どうもNHKはワハハ寄りの番組構成なので素直に見れませんでしたが、
投資家の立場からすればダノンの方が正論だと感じます。
企業を乗っ取られるという危機感の中国人の気持ちもわかりますが・・・
雷神 @ 2007年 12月 28日 02:17:44
この文章はかなりダノン側有利に書いていると思いますね。
投資云々よりも、ライバル企業の複数の取締役にダノン側の役員が二重で登録されていたことなど問題になっていたはずです。通常、トヨタと日産の役員が同じなら怪しむでしょう。
Yasu @ 2008年 02月 05日 01:25:49
コメントを追加
Trackback
この記事に対するトラックバックURL:
- プロフィール
- 田中 信彦
- (男)
- http://chinahr.way-nifty.com/
- 1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒。
毎日新聞社記者を経て、日本と上海の両方に活動拠点を持ち、企業の中国事業に対するコンサルティングに従事するほか、雑誌等への執筆、講演など多数。亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科で「日中人事・労務比較論」を講義している。
■主な著書
「中国で成功する人事 失敗する人事」(日本経済新聞社)・「人事・採用の基礎知識--中国編」(メディアファクトリー)・「ぼくの上海行商紀行」(文藝春秋)・「日本人の知らない中国人の私的事情」(講談社)
- 最近のエントリー
- [09/27] 豊かになる個人、溶解する社会
- [09/19] 中国の「普通の人々」に感謝されるには
- [09/15] 「友好」にみる中国社会の変化
- [09/11] タクシーは何台やってくるのか~中国のサービスについての基本的問題
- [08/30] 中国で進む戸籍制度改革~「都市国」と「農村国」の格差解消目指す
- [08/23] 露店営業を容認し始めた上海市政府
- [08/18] 中国への土産は難しい
- [08/10] 中国でも「代表なくして課税なし」の時代に
- [07/30] 「社区」が中国社会を変える!?
- [07/24] 「中国化?」する日本の放置自転車対策
- 最近のコメント
- [07/02] 豊かになる個人、溶解する社会 ビー!ビー!ビー!
- [07/02] 中国の労働力コストは高いのか安いのか ビー!ビー!ビー!
- [07/02] 「首を切れない現地ワーカー」 検証 日中合弁とは何だったのか(1) ビー!ビー!ビー!
- [07/02] 「googleが英語以外の名前を持ったのは世界で中国だけである」 ビー!ビー!ビー!
- [07/02] 中国政府はちゃんと正面から政権党と話し合え ビー!ビー!ビー!
- [07/02] テレビを見る「トラの子」 ビー!ビー!ビー!
- [07/02] 9割が将来を楽観する中国人 ビー!ビー!ビー!
- [07/02] 「和諧社会」で変わる税制 ビー!ビー!ビー!
- [07/02] 中国のお年玉はいくらぐらい? ビー!ビー!ビー!
- [07/02] 波紋広がるグーグル中国のデータベース盗用事件 ビー!ビー!ビー!
- 最近のトラックバック
- 検索