中国で進む戸籍制度改革~「都市国」と「農村国」の格差解消目指す
【8月30日 AFP】中国政府は29日、新たな外貨運用機関による運用資金を調達するため、6000億円元(約9兆2000億円)の特別国債を発行した。これは、今後予定されている総額1兆5500億元(約24兆円)の特別国債発行計画の第1弾。国営中国証券報(China Securities Journal)が伝えた。
国債発行の収益は、中国の巨額の外貨準備の一部を運用する目的で新設される外貨運用機関で運用される。
国債の満期は10年で、金利は4.3%となっているという。(c)AFP
中国には事実上、国内に「沿海国」と「農村国」の2国があって、住民はそれぞれ別のパスポートを持っているようなものである。そう言っても過言でないくらい中国の戸籍制度は厳格に運用され、国民生活を規制してきた。
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近年の中国経済の発展は、ある意味で農村の犠牲の上に成り立ってきたものだ。いわば都市が農村を広大な植民地として、そこから利益を吸い上げる構造である。これが中国の農村と都市の格差を構造化してきた基本的なスキームであったと言っていい。
「都市が先に豊かになる」割り切った政策
現在の戸籍制度の基本となる「戸籍(中国語では「戸口」)管理条例」が制定されたのは1958年。社会主義中国の誕生から10年を経過、革命後の過渡的な時代から、いよいよ本格的な社会主義計画経済の時代へと突入しようかという段階だった。
この制度は国民を農村戸籍と非農村戸籍に分け、農村に生まれついた人間は大学入学などごく一部の例外を除いて一生農村で暮らすことを強制するものだ。当時は生産力が乏しく、モノやサービスは極端な供給不足。都市機能も貧弱だったため、人口の自由な移動を許すと国の基盤が崩壊しかねないとの判断が根底にあった。
ある意味で言えば「農村はとりあえず放置して、都市を先に豊かにする」ということで、当時の止むを得ない選択とはいえ、後のトウ小平の政策ばりの非常に割り切ったやり方であると言えないこともない。
その後、文化大革命という極左の時代を経て、78年に改革開放政策がスタート。国民生活や経済活動を管理してきた様々な規制が徐々に取り払われてきたが、戸籍制度は運用面で一定の緩和はあったものの、基本的には現在でも厳格に機能している。
しかしここ15年ほどの中国沿海部の経済成長は目覚ましく、50年も前の計画経済的な制度はさすがに維持が困難になってきた。最も大きな弊害は都市と農村の格差があまりにも大きくなってしまったことである。
中国の戸籍は国籍のようなもの
「戸籍」というと、日本にもなまじ同じ名称の制度があるだけに、かえって理解を誤らせている気がする。
中国の戸籍制度とは、日本の感覚で言えば国籍のような存在に近い。つまり中国の「農村国」の人間は原則的に一生農村以外で生活することはできず、都市で働くには「都市国」に申請し、「労働ビザ」を取得して期限付きで就労しなくてはならない。在留期限が切れたり、無許可で働くと見つかれば不法就労で摘発されてしまう。
つまり、中国において農村部の人が都市で仕事を得るということは、日本人がアメリカで就労ビザを取得して働くのと同じようなものである。取得したいが、誰でもできるものではない。合法的に取得できなければヤミで働くしかない。米国でヤミで働いて賃金を得ている日本人は今でもたくさんいる。
ちょっと話は違うが、日本政府がちょっと前まで観光ビザの発給を認めていたのは、中国国民といっても上海市や北京市、江蘇省、浙江省、広東省など中国の沿海部の住民に対してだけだった。その他の地域の人々は門前払いだったのである。これも中国の国内間格差が「国」のようなものだという1つの証左と言えるだろう。
もちろん中国でもお金があれば中国国民とて国内旅行は自由だし、戸籍が「国籍」のようなものだというのは例え話だが、同じ国内なのに都市部への転居の自由がなく、働くのにその地域の就労許可がいるというのは日本ではちょっと想像がしにくいだろう。
少ない正規の労働力移動、地域の賃金格差も拡大
その結果、同じ国民であるにもかかわらず、都市住民が農村住民を「二等国民」視する傾向が強まった。いわば農村部が都市部によって植民地化されているような構造がある。近年、農村部での暴動の発生などが伝えられるが、その背景にはこうした都市住民の農村蔑視に対する反感もある。
経済学的に見ても、経済発展に伴う人口移動がスムーズになされないので、人的資源の有効活用の大きな障害になっている。例えば、同じ単純作業のワーカーの賃金でも、農村からの労働力移入が比較的容易な華南一帯では1カ月600~800元程度だが、地元民の雇用が中心の上海周辺では1000~1300元ぐらいはする。賃金の地域格差が大きいのも中国の1つの特徴である。
こうした弊害を除去しようと、中国政府は戸籍制度の廃止に本格的に着手した。具体的な取り組みについては稿を改めるが、いずれにせよそれが可能になったのは、中国社会が以前より格段に豊かになり、社会の供給余力が高まったこと、都市部の経済力に余裕が生まれ、段階的な開放であれば人口圧力をある程度は受容できるとの判断があるからだ。
実際、上海で暮らしていると、農村部からの域外労働力の存在なしでは生活は1日たりとて成り立たないことは実感できる。生まれついた土地に否応なく縛りつけられてきた7億とも8億とも言われる人々が50年ぶりに解き放たれることは、まさに壮大な実験というしかなく、その成否は今後の中国社会に大きな影響をもたらす。
このブログでも再三取り上げている今回の労働契約法も、やや大きな視点で見れば、こうした農村から都市部への労働力移動をスムーズかつ、合法的に行うためのひとつの重要な戦略的布石という意味がある。
カテゴリー[ 中国社会 ], コメント[2], トラックバック[0]
登録日:2007年 08月 30日 10:57:36
コメント
o
p @ 2007年 11月 30日 10:40:16
小日本
小日本 @ 2008年 04月 04日 01:04:26
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- プロフィール
- 田中 信彦
- (男)
- http://chinahr.way-nifty.com/
- 1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒。
毎日新聞社記者を経て、日本と上海の両方に活動拠点を持ち、企業の中国事業に対するコンサルティングに従事するほか、雑誌等への執筆、講演など多数。亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科で「日中人事・労務比較論」を講義している。
■主な著書
「中国で成功する人事 失敗する人事」(日本経済新聞社)・「人事・採用の基礎知識--中国編」(メディアファクトリー)・「ぼくの上海行商紀行」(文藝春秋)・「日本人の知らない中国人の私的事情」(講談社)
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