中国での人事制度の基本は「自分の土俵で相撲を取る」こと~その3

民間企業の8割 従業員と雇用契約結ばず - 中国

【西安/中国 26日 AFP】中国の民間企業の多くは、労働者の基本的な権利を侵害している。80%以上の会社が、従業員と正式な契約を結んでいない。契約していたとしても、雇用者側の権利を保護するだけで、被雇用者側については単に義務を箇条書きにし、労災については何の補償も与えていない。写真は25日、陝西省西安(Xian)で、抗議のためタワーから飛び降りようとする労働者を地上に降ろそうとするレスキュー隊。(c)Getty Images/AFP

AFPBB News


中国では人材の定着性が低いことが日系企業にほぼ共通する悩みであり続けている。その対応策は2つの方向に分かれる。ひとつは中国社会の流動性の高さを前提に、むしろそれを経営に生かすシステムの構築を考える方向(「郷に入れば……型」)であり、もうひとつは、そうした社会的な傾向はあるものの、さまざまな工夫によって可能な限り定着性を高め、得意の長期安定雇用を実現しようと努力するアプローチ(「勝ちパターン型」)である。

たとえば中国各地で電子部品の製造販売を手がける、ある大手電気部品メーカーは90年代前半から中国での生産を本格化、主要拠点はほぼ10年以上の歴史がある、中国とのコミットが最も深い企業のひとつである。業績も好調に推移している。

 なかでも95年に設立され、昨年創業10周年を迎えた無錫の生産拠点はこの会社のグループ内でも有数の意欲的な人事制度の構築に取り組んでいる。
「定着性の低さ」を改善しない限り未来はない

この会社は95年のスタート時から新卒の技術者の採用を開始。中国トップ15の名門校出身者を含む毎年20~60人の新卒採用を続けてきた。しかし社員の定着率は低く、01~02年の段階で、毎年平均で30人程度が退社するという状態が続いていた。

 改めて言うまでもないが、多くの日系製造業に共通の強みとされる製品の作り込みや「すり合わせ型」技術の高さといったものは、従業員の長期安定雇用と切り離せない関係にある。中国進出日系企業の悩みも、その多くが元をたどれば人材の定着性の低さに行き着く。

 この企業の人事担当責任者は「この状態を改善しない限り、目指すべき企業像の実現は不可能だ」と判断し、優秀な人材の定着性の向上に取り組んだ。

「2年目までは何が何でも残す」

 まず過去の大卒技術者のデータをくまなく調べ、その入社後のキャリアを分析してみた。すると入社2年目までの退職率が圧倒的に高く、3年目以降になるとその比率は減少していくことがわかった。そこで同社の経営陣は「2年目までは何が何でも残す。そのために多少のコストは覚悟する。本格的な選抜は3年目以降」と決意する。

 実行したのは賃金カーブの変更である。

それまで若い時は賃金の上昇カーブが緩やかで、資格の上昇とともにカーブの上昇率が高くなる、いわば日本的な賃金カーブを取っていた。それを入社2年目までは本人の成績にかかわらずほぼ一律に昇格を実施、それに伴って賃金も上昇する形に変えた。

これによって新入社員は入社以降、自分の成長が会社に認知されたとの実感を持つことができる。同時に特に優秀な人材には、半年単位で全体を上回る速度で昇格する仕組みも取り入れている。

劇的に現れた効果

 この施策の効果は劇的だった。

それまで入社後2年で新入社員の6割以上が退職していたが、制度改革後、退職者は2割以下に激減。こうして豊富に残った人材の中から、3年目以降、誰を選抜、育成していくか、経営サイドの視点で選べるようになった。

また3年目以降の社員に対しては、優秀者から順に半年~2年程度の日本研修に送り出すことを明示しており、これが引き続きモチベーションを意地する大きな要因になっている。同社の人事責任者は「以前は社員に会社が選ばれている状況で、こちらとして打つ手がなかった。なんとか自分の土俵で相撲が取れるようにしたかった」と話す。

しかし、この戦略を実施すると、若手社員の人件費が増えてしまう。その点を同社はどう考えているのだろうか?

(この続きはまた次回に書きます)

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登録日:2006年 04月 03日 23:19:32

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プロフィール
田中 信彦
(男)
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1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒。
毎日新聞社記者を経て、日本と上海の両方に活動拠点を持ち、企業の中国事業に対するコンサルティングに従事するほか、雑誌等への執筆、講演など多数。亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科で「日中人事・労務比較論」を講義している。
■主な著書
「中国で成功する人事 失敗する人事」(日本経済新聞社)・「人事・採用の基礎知識--中国編」(メディアファクトリー)・「ぼくの上海行商紀行」(文藝春秋)・「日本人の知らない中国人の私的事情」(講談社)
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