中国の履歴書をいかに読むか~その2

前回に続いて中国で履歴書を読む際のポイントについて書く。今回は中国での実情に即してより具体的にチェックすべき項目について説明してみたい

履歴書の「空白」


履歴書の問題点としてよく見受けられるのは、学歴や職歴の欄によくみると「空白」があるケースである。たとえば「01年A社入社、03年退社、同年B社に入社、現在に至る」といったようなものである。一見すると、03年にA社を退社した後、すぐにB社に移ったかのように見える。日本ではある会社を辞める場合、たいていは次の転職先が決まっていることが多い。会社を辞めたら比較的すぐに次の職場に移るケースが多いので、何となくそういうものだと思ってしまいがちだ。しかしこういう曖昧な記述になっている場合、具体的な事実を確認したほうがいい。

たとえば上記のケースの場合、03年1月にA社を退社し、同年12月にB社に入社していたとしたら、最大1年近い空白期間があることになる。別に他の会社に移る際に空白があってはいけないという法はないし、あっても構わないのだが、その空白をどんな考えで過ごし、どこで何をしていたかは聞いてみたい。場合によっては、A社を退社後、友人と商売を始めたがうまくいかず、半年でケンカ別れしていたといったケースもあるからである。そういう場合、えてして具体的な記述を書かないで曖昧にしておくことがある。転職の経験が相当数あるのは最近の中国では当たり前で、そのこと自体は問題とする必要はないが、その経緯と転職先の判断基準はやはり確認しておくことが必要である。

学歴についても同じようなことが言える。

たとえば、「○○年~○○年、A大学で経済学部で国際経済を専攻」みたいな書き方になっていることがある。ざっと読み流してしまえばA大学の経済学部を卒業したのだろうと思う。もちろんそういうケースが多いだろうが、中には「在学したけれども卒業はしていない」とか「卒業はしたけども学士の学位は取得していない」といったケースもなくはない。この場合、経歴の記述自体にウソはないわけで、卒業証明書や学位記などで確認するとともに、学校に記録を問い合わせるといった手続が必要になる。

学歴に関しては、1980年代以降に大学を出た人はまず大きな問題はないが、それ以前に教育を受けた人の場合、現在の大学教育制度とは大きな違いがあるので留意しておく必要がある。文化大革命(1966~76年)の期間中、まともな大学教育はほとんど停止状態にあったので、大学卒の人数自体が少なく、大卒のレベル自体がはなはだあてにならない。大卒でも全然使い物にならない人もいるし、学歴はなくても素晴らしく能力の高い人もいる。
この世代はすでに若くても50歳以上になっているので、中途採用をするケースは多くはないと思うが、最近のこの世代の企業経営者や幹部の中には自分で通信制の大学で学位を取ったり、改めて企業幹部向けの大学院(EMBA)などに通ったりしている人もいて、非常に能力のばらつきが大きい。

日本留学経験のチェックポイント

文部科学省の関連機関が主催する統一の「日本留学試験(EJU)」が2002年に導入され、日本留学はかなり規格化されたというか、制度的に整ってきた。現在では、日本への留学生はほとんどがこの「日本留学試験」を受け、日本の各大学はその結果プラス自校独自の試験も加味して留学生の合否を判定している。この日本留学試験は国外からも受験は可能で、大学によっては本人が来日することなく直接大学に入学を認めているケースもあるが、それは少数派で、ほとんどの大学では本人が来日しての試験を必要とする。

そのため留学希望者はいったん日本語学校に入学手続をして「就学ビザ」を取得、まず来日して、その後、日本国内でEJUと各大学の試験を受けて大学に入るというケースが普通である。大学から入学許可が出た段階で「就学ビザ」は「留学ビザ」に切り換えることになる。

なので厳密には「留学生」といった場合、この「留学ビザ」を取って日本の大学(もしくはそれに準ずる学校)で勉強した人のことを言う。ただ中には大学に入ることを目的とせず、純粋に日本語の学習だけを目的に「就学ビザ」で日本語学校に入学し、通常は2年間、日本語だけを学んで帰国する学生もいる。「留学」「就学」という区別はあくまで行政上の専門用語であって、「日本語学校で真面目に日本語を2年間学んで帰国する外国人」は普通の日本語では「留学生」と呼んで少しもおかしくない。ビザの呼称が「就学」であるからと言って、この種の学生を「就学生」と呼ばねばならないという理屈はないと思う。

ただ日本語学校は事実上無試験で、一定の基準をクリアして学費を納入すればほとんど誰でも入学が可能であり、正式の日本語学校に入学すれば日本の「就学ビザ」が取れることから、「就学」を隠れ蓑に事実上の労働目的で入国する人が現在でもいるし、かつてはもっと多かった。そのため「就学生」という存在のイメージが非常に悪くなってしまったのは残念なことであるが、大半の学生はアルバイトをこなすかたわら真面目に日本語を勉強している。

留学経験の質を問うべき

話がそれたが、日本への留学経験者を採用する場合、まずどんな種類の留学であったのか、きちんと確認することが必要である。「就学生」として日本語を勉強してきたならそれはそれで貴重な経験だし、何も大学を出ていないからといって人材として質が低いことにはならない。要は何を学んできたかである。

ただ問題なのは、「就学生」として日本に行きながら、ロクな勉強もせず、アルバイトでも必死にやっていればまだ見込みがあるが、最近では中国も豊かになって親の仕送りを受けて遊んでいるばかりの「就学生」もいるから、それには留意が必要である。

大学への留学をした人の場合、先に述べたようにきちんと卒業しているかは確認する必要がある。また数のうえで現実にどの程度あるのかは判然としないが、日本の大学の卒業証明書が偽造されるケースも報道などを見る限り少数ではないようだ。ただ筆者の周辺で実際に偽造の卒業証明書で被害に遭ったという話は聞いたことがないので、どの程度蔓延しているのかはよくわからない。

また大学院留学の場合、「研究生」という形で正式の入学の準備をして、その後、それだけで帰国してしまうケースもある。履歴書には「A大学大学院○○研究科で○○学を研究」などと書いてあると、なんとなく大学院修了と思ってしまうケースもあるが、ここも確認が必要になる。

パスポートの紛失は要確認

全体的によくあるケースだが、卒業証明書や当時のパスポートの提出を求めた場合、「引っ越しの時になくしてしまいました」とかいった理由で提出されないことがある。仮に日本での不法滞在の経歴があると、パスポートに証拠が残るからである。もちろんそれだけで決めつけることはできないが、一般的に考えてこうした大事な書類をそう簡単に紛失するものではないだろう。紛失などの理由で書類の提出ができない場合、学校に直接問い合わせるとか、別の方法で確認をしたほうがよいだろう。

ある日系商社で採用した日本留学帰りの人材が、非常に勤務成績が優秀なので、入社数年後、日本の研修に出そうとした。ところがビザ申請の段になって本人から「実は日本で不法残留をしたことがある」との申し出があった。この人物を採用する際には、当時のパスポートを紛失したという理由で確認をしていなかった。

会社としては惜しい人材なので日本領事館とも掛け合ったが、領事館側は「不法残留は犯罪ですよ。犯罪者を入国させるわけにはいかない」と冷たく告げられたという。この会社は結局、日本研修どころではなく、入社時の虚偽申告ということでこの人を解雇せざるをえなかった。こういう事態はお互いの不幸である。やはり事前のチェックが欠かせない。

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登録日:2006年 06月 24日 05:27:41

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プロフィール
田中 信彦
(男)
http://chinahr.way-nifty.com/
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒。
毎日新聞社記者を経て、日本と上海の両方に活動拠点を持ち、企業の中国事業に対するコンサルティングに従事するほか、雑誌等への執筆、講演など多数。亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科で「日中人事・労務比較論」を講義している。
■主な著書
「中国で成功する人事 失敗する人事」(日本経済新聞社)・「人事・採用の基礎知識--中国編」(メディアファクトリー)・「ぼくの上海行商紀行」(文藝春秋)・「日本人の知らない中国人の私的事情」(講談社)
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