●「暴走する資本主義」(学生書評シリーズ①)
慶應SFC上山ゼミでは2050年の未来を考えるための古典講読をやる。きわめて実践的な企業分析と古典講読。この両極端の組み合わせが知性と感性を磨くために有効なのだ。古典講読は毎週1冊合計13冊のトライアスロンである。一学期をおえると各人それなりに独自の世界観に根ざした知性の軸が出来上がる。そして1957年製の僕を乗り越える若者特有の鋭い洞察が垣間見えてくる。まだまだ荒削りだが僕が誇りを持って嫉妬する若い俊才たちによる書評シリーズである。
第1夜 『暴走する資本主義』
第1回では、クリントン政権時代の労働長官を務めた経験をもつロバート・ライシュが行きすぎる資本主義へ警鐘をならしたとされる『暴走する資本主義』を取り上げたい。
現在の行きすぎた資本主義を「超資本主義」と規定した上で、資本主義から超資本主義への変遷を追い、その時代背景を解説する。また民主主義との関係、企業のあり方、資本主義社会に生きる我々の二面性まで描き出しているのが本書である。
特に我々が着目するのは、資本主義と民主主義の関係についてである。ライシュは本書の中で、次のように述べている。「資本主義の役割は経済のパイを拡大することである。どのようにパイを切り分けるのかということや、切り分けたパイをパソコンなどの消費財に充てるのか、クリーンな空気という公共財に充てるのかということは、社会全体が決めていくことである。そしてそれこそが、民主主義に課せられた役割なのである。」(本書、p.4-5より本文引用)
そもそも、資本主義や民主主義というのは、個人に選択の自由が任されているという点において親和性が高く、一色単に議論がされやすいが、資本主義は経済システムであり、民主主義は政治システムである。それが、ライシュも指摘するように、「政治・経済」の一体化という文脈の中で、正確な定義に即さないまま、誤用されていることを指摘しておきたい。
また、デービッド・イーストンは、政治システムとして、政治的要求というインプットがアウトプットとしての政策を生み出し、その生み出された政策が次なる政治的要求を生み出すというフィードバックをもたらすということを概念として提示することになった。そもそも同氏によれば、政治とは「社会の希少な資源をめぐる競合」であり、政策とは「社会の希少な資源の権威的配分決定」であるとする。これは、まさにライシュの冒頭の引用と重なるもので、「政治」が果たす役割も重要なのは言うまでもないことである。
ライシュが資本主義の暴走を防ぎ、市場の秩序を保つために民主主義に期待するのは、この政治システムに拠るところが大きいと考えている。
また、ライシュの超資本主義の概念は、ジャック・アタリが『21世紀の歴史』の中で述べた「超帝国」、「超民主主義」と重なる部分が多い。アタリは、ライシュよりも深刻に、市場が国家という枠組みさえも破壊してしまうのではないかとさえ主張している。
金子郁容は『ボランタリー経済の誕生』の中で、市場の権威とは、国家によるサンクションにより裏付けされていると指摘している。アタリが指摘する「超帝国」が実現するならば、21世紀の課題は、まさにこの市場を抑える権力装置を見出すことが必要になるとされよう。
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登録日:2010年 01月 12日 01:31:21
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- プロフィール
- 上山信一
- (男)
- 慶應大学総合政策学部教授。大阪市生まれ54歳。専門は企業・行政機関の経営戦略と組織改革。都市・地域再生も手がける。旧運輸省、マッキンゼー共同経営者等を経て現職。国交省政策評価会(座長)、大阪府と大阪市の特別顧問、新潟市都市政策研究所長、日本公共政策学会理事、各種企業・行政機関の顧問や委員等を兼務。府立豊中高、京大法、米プリンストン大学修士。著作等 ツイッター@ShinichiUeyama
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