紹介:関西の経済学者からの提言

以下は関西の経済学者たちの提言。示唆に富む内容だとおもう。

緊急提言 日本経済を支える強い関西を実現せよ
-海外流出を阻止して雇用確保と経済成長の持続を-

2011年4月

赤井伸郎(大阪大学) 取りまとめ代表     
上村敏之(関西学院大学) 取りまとめ副代表
亀田啓悟(関西学院大学)          
西村幸浩(大阪大学)               


現状把握

 東日本大震災、およびその後の原発問題の長期化は、一時的な経済的影響のみならず、将来に関わる産業構造にも影響を与えつつある。関東地域における電力不足は、今夏のみにとどまらず、長期化する気配である。

 2011年4月14日に公表されたロイター企業調査の報告<企業活動移転はすでに2割が実施・検討、空洞化加速も>によれば、移転先としては西日本や被災地以外の他県への振り替えにとどまらず、「国内・海外ともに製造拠点の分散化をさらに進める」「海外に移転する」との声が多く、従来の仕組みを根本的に見直す動きがあり、日本の空洞化加速が懸念される状況にあることが分かる。実際、韓国が、被災企業の工場移転を日本に打診していたという(時事通信 2011年4月18日)。

 「平成23年3月実施分の消費動向調査(全国)」1) においては、消費者マインド(消費者態度指数)は、前月の「ほぼ横ばいとなっている」から「弱い動きがみられる」に修正された。この消費者マインドの落ち込みは、関東での買い控え・計画停電等の大きな総需要・総供給の収縮が主因である(関東の落ち込みは5%水準で有意:内閣府2) )。また関東においては、夏場の電力不足など深刻な問題に未だに目途が立っていない。このまま大きな総需要の収縮が続けば、企業サイドの撤退や海外移転で雇用が喪失し、わが国の総生産・総支出に対して負のスパイラルが生じることを否定できない。

 一方、関東以外の消費者マインドは、その変化に有意な差は認められていない。総供給に関して経済規模の大きい関西においては、以下で述べるように、総需要を喚起する諸政策の余地が十分にある。それらが適切なビジネス機会を確保し、企業の労働需要を刺激することができれば、日本全体における空洞化や総需要の腰折れという事態が生じる前に、日本経済を支えることができよう。

 関西を見れば、震災等の影響を受け、本社機能の一部を移転する外資系企業などが増えているため、関西の賃貸オフィスの需要が伸びている。また、3月の近畿圏の輸出額は8.3%増加し、東日本の代替貿易拠点になりつつある。震災の被害がほとんどなかった近畿圏は、全国でも例外的に高水準の輸出入を維持している(日本経済新聞 2011年4月21日)。

 さらに、行政部門においても、ドイツとパナマが、大阪、神戸両市内の領事館にそれぞれ大使館業務を移転するほか、オーストリア、スイス、リトアニアなど多くの国が関西の領事館に業務を移行、または検討中であるという(読売新聞 2011年3月23日など)。

 関西は首都圏に次ぐ経済規模をもつ地域であり、海空ともに充実したインフラを整えている。すなわち関西は、経済面でも行政面でも首都圏の代替機能を担うことが十分に可能であることを再認識する必要がある。以上の現状認識をもとに、われわれは以下の4つの提言を行う。
(提言1 遊休資産活用戦略) 企業の海外流出と雇用喪失を阻止するため、正常に機能する関西の遊休資産を最大限に活かせ

 震災以後、被災地はもとより、関東地域における電力供給の制約は、日本での経済活動の不安を増幅させ、日本での事業展開を、海外へとシフトさせつつある。もしくは、海外移転を検討している企業は多いと考えられる。

 その一方で、被災地や関東以外の地域では、経済は正常に機能しているにもかかわらず、その情報が世界に正しく伝わっていない。

 もちろん関東と関西では、経済規模が違うために、経済活動の幅も異なってくるが、関東地域で制約があるいま、企業の視点が海外に向いていることが問題である。

 海外と比較した場合、関西地域は多くのメリットを持つ。言うまでもなく言語・法律・その他の諸側面から考えて、海外で新たに事業を行うよりも、日本国内の新たな土地で、従来の日本向けの事業を継続する方が容易である。関西には遊休土地・遊休ビルが数多くあり、企業用地・ビルを確保しやすい。適切なビジネス機会の確保で企業の労働需要を支えることで、雇用の機会を保つことも可能になる。

 企業が海外に移転してからでは遅い。早急に遊休土地や遊休ビルを、政府が借り上げるか補助するなどして、海外移転を考える企業を引き留める策を講じるべきである。これは、関西のためではなく、わが国内部にビジネスと貴重な雇用の機会を保つことで、日本経済全体の復興を支えることにつながるのである。

(提言2 物流機能活用戦略) 余裕ある関西のインフラ(空港や港湾)を最大限に活かして海外流出を阻止せよ

 阪神淡路大震災の際、被災した神戸港は、隣国の国際港湾の台頭を許してしまった。この関西の苦い経験は、いまや東日本に降りかかろうとしている。実際、震災直後には、コンテナ航路において、外航船社を中心に京浜港(東京・横浜港等)で、寄港の取りやめ、寄港拒否等が起こった(震災後(3/14~4/10)、北米・欧州・中国航路等で33隻の寄港取りやめがあった。国交省集計より)。

 東京一極集中の影で、日本全体および世界には余り知られていないが、関西は神戸港・大阪港等からなる数多くの港や24時間利用可能な関西国際空港など、海空ともに充実したインフラを整えている。余裕あるインフラを最大限活かせば、相当程度、震災影響地域の物流をカバーし、被災地復興までの日本経済を支えることができるはずである。ここは関西の経済界や行政が一丸となって、海空を総合した包括的な物流機能活用戦略を練り、東日本や関東の港を抜港する船を早急に誘致し、日本の国際物流機能を維持すべきである。

(提言3 広域行政活用戦略) 日本経済を支える関西の司令塔として関西広域連合を積極的に活用せよ

 関西広域連合は、このたびの震災の被災地支援で大きな成果を上げている。日本初の府県レベルの広域連合となった関西広域連合は、関西地域という広域の視点から経済を俯瞰できる唯一の行政組織である。日本経済を支える関西の司令塔として、関西広域連合を積極的に活用すべきである。

 関西広域連合は20日、「関西産業ビジョン(仮称)策定委員会」において広域的な産業振興策づくりに着手しているが、最終案が出るのは来年2月の予定であり、長期的な視点でしか議論がなされていない。関東で産業構造変化の危機にあるいま、早急な対応策が望まれる。

 具体的には、関西広域連合の広域産業振興局において、被災した企業や海外移転を検討している国内外企業へのアピール、関西への企業誘致を積極的に行うべきである。その際、広域産業振興局に企業誘致の窓口を一元化し、移転を検討している国内外企業の相談を受け付けるべきである。

 また、関西広域連合は、関西地方で企業誘致や従業員の住宅提供に積極的な地方自治体をリストアップし、具体的な物件情報のみならず、地方自治体による税や補助金などの優遇措置についても一元的に情報提供を行う必要がある。興味を示した企業に対しては、移転から開業までのサポートを行うことも重要である。

 さらに、関西広域連合に「広報分野局」を早急に立ち上げ、関西地域は首都圏に次ぐ経済規模をもつ地域であり、成長著しいアジアに近く、国際港湾と国際空港をもつこと、電力不足の問題も生じていないこと、観光地は正常であることを、特に海外に対して積極的にアピールすべきである。

 これらの関西広域連合の機能強化に合わせ、関西広域連合の予算規模の拡大と人員の拡充を早急に行うべきである。
(提言4 官庁機能拡充戦略) 一極集中のリスクを改善するために関西の官庁機能を拡充せよ

 これまでにも、1990年代~2000年代に首都機能移転や多極分散型国土形成促進法で、国の行政機能を都心から分散する話が盛り上がったが、その後は関東において、地震など大きな自然災害のリスクが発生してこなかったこともあり、一極集中のメリットが重視された。しかし、このたびの震災のように、国家危機が懸念される事態が生じたときには、一極集中のデメリットが生じている。関西には各国の総領事館も多く、また現状認識で紹介したように、現状は大使館業務の移行まで進んでいる。従って、内政・外交ともに、関西は首都圏の代替機能を担うことが可能である。

 国家の政治や行政が滞ることなく、的確な政策の指揮を取ることが必要である。いま日本は、首都圏への一極集中にはリスクが伴うことを、身をもって体験している。国家的見地から、政治や行政の一極集中を、メリット・デメリットを考慮しながら、いかに改善してゆくかが求められている3) 。

 確かに官庁機能の分散は、通常時にはコスト効率面や移動時間面でのデメリットも伴う。分散する際にも、それぞれの分散場所には規模が必要であろう。その意味でも、首都圏の官庁機能の一部を第二の経済規模をもつ関西に充実させる4) など、規模の経済とリスク分散の両面からの在り方を考えるべきである。
脚注
1)http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/2010/1003shouhi.html
2)http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/1103sinsai.pdf
3)東京、大阪、愛知の首長が、首都機能の分散の必要性を述べるとともに、東京、大阪、愛知の3大都市圏が、共同で3大都市圏ビジョンを構築するべきとの動きもある(毎日新聞 2011年4月23日、産経新聞 2011年4月23日)。また財界からも、「関西を首都機能の一部移転や分散化の受け皿化など、関西が経済を支える重要性」についての発言も見られる(産経新聞 2011年4月22日)。
4)関西と関東の移動のデメリットは、中央リニア新幹線が開通すれば大幅に軽減されるであろう。

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登録日:2011年 05月 06日 18:14:23

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プロフィール
上山信一
(男)
慶應大学総合政策学部教授。大阪市生まれ54歳。専門は企業・行政機関の経営戦略と組織改革。都市・地域再生も手がける。旧運輸省、マッキンゼー共同経営者等を経て現職。国交省政策評価会(座長)、大阪府と大阪市の特別顧問、新潟市都市政策研究所長、日本公共政策学会理事、各種企業・行政機関の顧問や委員等を兼務。府立豊中高、京大法、米プリンストン大学修士。著作等 ツイッター@ShinichiUeyama
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