●中央発の道州制論議に異論あり!
道州制の論議が盛んだ。どういう機能を国から道州に移すか、地域割りはどうする
といった議論も始まった。筆者も道州制には賛成だ。だが、政府、自民党、財界が用意する論点と方法論には異論がある。あれでは実現しても都道府県合併に終わるだろう。今回は関西を題材に「正しい道州制問題の解き方」を考えたい。
・関西EU説--大阪はドイツ、京都はフランス、神戸は英国?
道州制を最も切実に必要する地域は東京でも北海道でもない。関西である。関西は豊かな資産・文化・人材を抱えながら急速に衰退しつつある。筆者は大阪出身だ。地域の自立意識の強い土地柄で幼い頃から「僕らは大阪人。百歩譲って関西人。一番最後に日本人」と刷り込まれた。成人後は東京・ワシントンなどで暮らし世界88カ国を旅した。その体験に基づき、筆者は最近「関西EU説」を唱える。関西道の議論は国の道州制論(あれは中央の統治機構を分権化する発想でしかない)に従って考えるべきではない。関西(地域)が国の議論に合わせるのではない。関西(地域)の都合にあわせて国に道州制を認めさせるのである。
具体的には、(1)関西の各地域は今後は単独ではもちろん個々に国に依存していてはやってはいけないという事実から出発し(現実直視)、(2)これまでの国に対して各県が個々に陳情するという卑屈な姿勢を捨て域内で相互連携し(地域に根ざし“人民解放戦線”の構築!)、(3)その上で国に対して権限委譲を迫る(地域独立運動!)べきである。要は道州制は地域側からの独立運動として組織化する。
これまで関西はまとまりがなかった。特に大阪・京都・神戸はそれぞれ独自の文化を誇り、自己主張が強い。各政令市と各府県も仲が悪い。要はばらばらだ。多様性を活かした上で連携して観光集客や大学・企業誘致をすればいいのにお互い張り合う。サミット誘致でも大阪と京都が対立して譲らず、住民の失笑を買っている。だが今こそ関西はEU統合に見習うべきだ。
考えてみれば関西はEUに似ている。経済の中心大阪はドイツにあたる。文化の町京都はフランス。あか抜けた海洋都市、神戸はイギリス。和歌山はイベリア半島(スペイン)。三重はイタリアで伊勢はバチカンだ。商才に長けた滋賀(近江)はベルギー、海のない奈良はスイスだ。そして勤勉で女性の社会参加が進む福井はスカンジナビアだ。こうしてみると関西は実にEUに似ている。
EU統合のきっかけはいうまでもなく仏独のトップ主導による歴史的融和だ。そして東西ドイツの統一。最近の大阪では東西ドイツの融和に近い現象が起きている。ソ連並みの強固な体制を誇った大阪市の労使そして議会首長の蜜月関係が崩壊した。大阪市では情報公開(グラスノスチ)や大改革(ペレストロイカ)、そして事業の各種民営化が進む。それに伴い大阪府と大阪市の連携も進みだした(冷戦終焉)。次の課題は大阪・京都の「二府融和」だ。これはEU形成における独仏の融和に相当する。双方の知事と財界トップの指導力次第で実現可能なはずだ。州都選定は対立の火種だがこれは早い段階で大阪・京都・神戸の3都以外に置くと決めればよい。例えば大津あたりでどうか(EU本部もパリに近いブリュッセルだ)。
こうして大阪・京都連合を基軸に関西の府県・政令市の権限を一手に吸い上げた道州政府のイメージを作ればよい。中心課題は企業誘致、観光・集客戦略(創造都市戦略)、大学・研究機関の再編、環境政策(琵琶湖・淀川・大阪湾の統一的管理)、交通政策(鉄道・高速道路網の整備)、そして防災対策・代替首都機能あたりだろう。
・地域の必要性から積み上げた議論が必須
EU統合までの道のりは長かった。大昔はローマ帝国で一体だった。その記憶もあって欧州連邦の議論は17世紀頃からあった。20世紀初頭にかなり議論されたがナチス台頭で中座。戦後は英国のリーダーたちが「ばらばらのままでは欧州は衰退する」と問題提起する。当時のフランス外相ロベール・シューマンとコンサルタント、ジャン・モネの尽力でやがて1957年に6カ国間で石炭・鉄鋼の連携を決めたローマ条約が締結。それが拡大発展し、今日のEUにつながった。
今日の日本の道州制論を見ていて危ういのは、各地域において現場の実態の分析に根ざした地域間連携への具体提案や住民運動が少ないことだ。あっても地域経営の発想の薄い「道政府のあり方」論や行政機能の再編論が多い。中央のいわゆる識者の議論の多くは無責任な東京人の机上の空論だ。例えば「市町村合併したから次は都道府県合併」「多様な地域を擁する米国の連邦制に学ぶべき」「分権化=連邦国家制」「道州政府への分割が霞ヶ関解体への近道」といった善意に満ちた、しかし地方から見るとまるで浅はかな思いつきばかりだ。もうノー・サンキューである。
もちろん識者の意見にはそれぞれ一理ある。だが道州制は地域の人々の悩みや希望に根ざしたものであるべきだ。九州、関西などそれぞれ地域ごとに道州政府の中身も権限も形も違ってよい。それが一国多制度であり、道州制の本質である。東京で、中央で「道州制」の標準を決めるという発想ほど道州制を馬鹿にしたものはない。「中央官僚」「中央のマスコミ」「中央財界人」「東京人」に道州制を語る資格はない。地域から湧き上がる将来への不安や東京一極集中への不満、それを熟知する地域リーダーがまず地域の中で自分たちの道州制の議論をする。そして地域ごとに「道州の日本国からの一部独立案」を練り上げる。それから「中央」の権力を奪取すべくけんか腰で交渉に臨むべきだ。その際には薩長連合のような道を越えた連携の動きもあるはずだ。これまでの10年に改革派首長が作ってきた流れを活かす。道州制とは実は平成の「討幕運動」である。総務省主催の“ナントカ審議会”で議論できる代物ではない。総理直轄で地方の有志を集めて喧々諤々の議論をする。それで決別したら関西が、そして九州が世界に向けて独立宣言をする…。それくらい切羽詰まって、そして深く考え抜くべきテーマなのだ。
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登録日:2007年 02月 22日 22:20:26
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- プロフィール
- 上山信一
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- http://www.pm-forum.org/ueyama/
- 慶應義塾大学総合政策学部教授、改革コンサルタント。専門は大企業・行政・NPO等の経営刷新。近年は地域再生も手がける。大学では「経営戦略」「公共政策」等を教える。旧運輸省、マッキンゼー共同経営者等を経て現職。大阪市生まれ。50歳。中央省庁・自治体の各種委員、企業顧問等を兼務。京大法、米プリンストン大修士。趣味は登山、鉄道、料理。メール:ueyama@pm-forum.org
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