●行政ストックの生産性

私は、経団連の21世紀政策研究所で「行政の生産性」問題の研究主管をつとめている。なぜ、今行政の生産性問題なのか以下に整理してみた。
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 官製談合、年金問題に象徴される行政の非効率に国民の批判が集まる。加えて750兆円を超える巨額の公的債務の問題がある。行政改革は決して目新しくないテーマだ。だが重要かつ深刻な国家の経営課題のひとつである。
 行政改革はこれまで何度も行われてきた。20年前には国鉄改革が、そして10年前には官邸機能の強化や省庁再編などの進展があった。現在も経済財政諮問会議や規制改革会議の力を得て、官邸主導の改革が行われている。だが進捗は思わしくない。それどころか役所の不祥事がますます新聞紙面を賑わせる。さらに今後は高齢化に伴って社会保障の出費が増大する。これは公共事業と違い個人向けの給付なので削減は難しい。今、のうちに抜本的な行政改革に取り組まないとわが国は10年以内にたいへんな事態に陥るだろう。
・企業の構造改革に学ぶ
 91年のバブル崩壊以後民間企業はかなりの構造改革をやってきた。まずはコストダウンによる「生産性」の改善だ。次は戦略の「イノベーション」である。そして今はディスクロージャーやコンプライアンスの充実などガバナンス改革に取り組む企業が多い。企業と政府はもちろん役割が違う。企業改革の手法がそのまま使えるわけではない。だが「生産性」「イノベーション」「ガバナンス」の3つはこれからの行政改革を進める上でたいへん有効な攻め口だ。
 そこで経団連の21世紀政策研究所ではまず「生産性」の観点から行政のあり方を見直すプロジェクトを立ち上げた。健保制度の見直しなどの政策のイノベーションはもちろん必要だ。また官邸主導による財政規律の強化などのガバナンス改革も重要だ。だがこれらは政治の力で古い制度と組織を刷新していくしかない。その過程では価値観や政治的信条がぶつかり合うだろう。改革のインパクトは大きいが実行は容易ではない。
 これらに比べると生産性の向上は比較的取り組みやすく、また成果が早めに出やすい。しかも合意形成しやすいテーマだ。データをもとに分野別かつ部門別に課題を分析する。現状を過去と他国とあるいはものによっては民間企業と比較して改善点と選択肢をあぶり出す。わかりやすい数字や事例を使って実態と問題のありかを情報公開する。それをきっかけに世論形成もしやすい。それから後は国民の良識と政治の判断にゆだねればよい。「生産性」の改善を突破口として政策のイノベーションやガバナンスの問題に発展深化させていくとよい。
・ストックの生産性に注目
さて行政の生産性というと毎日の公務員の作業能率や毎年の予算の無駄遣いといったフローの生産性に目が行きがちだ。しかし財政事情が厳しくヒトもカネも投入が抑制されている。自ずとフローの生産性は上がっていくだろう。今後の課題はむしろストック、つまり政府が持つ人材や資産の「回転率」をいかに向上させるかである。政府は土地、建物、機材、特許、資金などありとあらゆる資産を保有している。だが必ずしも有効に使われていない。港湾、空港、道路、公園、あるいは公営住宅や学校跡地などのインフラが典型だ。老朽化したまま放置され、あるいは時代遅れの法制度のために用途転用や廃止ができない。不要な国公有資産は売却、証券化あるいは民間譲渡すべきである。あるいは用途を抜本的に見直す。政府に残すとしても経営形態を抜本的に見直す。ひいてはそれが実は民間経済を活性化させ、ひいてはGDP拡大と税収増をもたらす。例えば営団地下鉄が最近、民営化した。新線建設が終われば今後はサービスと効率の改善が経営課題になる。そのための民営化だった。同様の変革がおそらく空港、港湾、公営住宅など他の分野でもこれから起こるだろう。
 ヒト、つまり公務員の生産性にも課題が多い。例えば国でも地方でも多くの公務員が議会対策に膨大な時間と労力を費す。果たしてそれだけの価値を生んでいるのだろうか。あるいは公務員の人手不足のために許認可に時間がかかり企業活動が阻害されている。これらの分野では“権力行政”の名のもとに単なる事務処理が官業のまま温存されている。手続きの簡素化はもとより、許認可の法体系を思い切って転換し民間に委ねる方法を考えるべきだ。
 行革は古くからあるテーマだが時代の流れとともに課題も変わる。成熟化社会においては毎年のフローの投入の抑制や削減よりもむしろ既存の資産と人員というストックの有効活用策が課題となるはずだ。21世紀政策研究所ではこのような行政の生産性に関する種々の課題に取り組む。調査研究の結果を実際の改革につなげていくために当初から省庁の局や部に相当する具体的な分野(部門)を対象に調査し、現実的な提案をしていく予定である。皆様のご支援をお願いしたい。

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登録日:2007年 06月 23日 03:33:21

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プロフィール
上山信一
(男)
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慶應義塾大学総合政策学部教授、改革コンサルタント。専門は大企業・行政・NPO等の経営刷新。近年は地域再生も手がける。大学では「経営戦略」「公共政策」等を教える。旧運輸省、マッキンゼー共同経営者等を経て現職。大阪市生まれ。50歳。中央省庁・自治体の各種委員、企業顧問等を兼務。京大法、米プリンストン大修士。趣味は登山、鉄道、料理。メール:ueyama@pm-forum.org
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