●自治体の企業誘致を巡る報道への疑問

 尼崎の松下、堺のシャープなど関西への投資が進む。結構なことだ。だがこれをあたかも地元自治体の誘致努力の成果と単純化する一連の報道はおかしい。 大規模投資は社運を左右する。会社側は地盤や水や道路、労働力、そして地価などを総合判断して決める。「自治体の補助金」「市長や知事の熱意」「熱心な働きかけ」などを決め手に経営判断はしない。地主が役所の場合は別だが、民有地や工場跡地の再開発で自治体が「誘致」したと果たしていえるのか。
 企業もずるい。自治体間競争を煽って補助金をとろうとする。あたかも「補助金が決め手」だといわんばかりに記者を煽る。
 期せずして首長と企業の利害が一致して税金が大量に流れる。公共事業に流れていたカネが企業への補助金に変わり、結局、企業経由でゼネコンに払う工事費に化け、政治献金になって還流する。政治とカネの新しい「ビジネスモデル」も散見される。
 誘致のための「補助金」は「役所と首長の手柄」を演出するために現実の必要性と関係なしに出される場合がある。あるベンチャー経営者は役所嫌いで有名だが、地方に工場を建設する際に「とにかく補助金をもらってくれ。選挙も近いし」と村長に迫られたそうだ。こうした企業と役所・首長の相互依存の構図があるとすれば、まさにそれを暴くことこそが報道機関の使命ではないか?ところが最近は、マスコミが自治体間の補助金競争の煽り役になってしまっている。
 なぜ、経営戦略面からの分析を書かないのか?なぜ土地を売る側の判断の背景を書かないのか?最近の記者は自ら現場を歩かない。役所の記者クラブで大本営発表をじっと待っている・・。だから役所にだまされていいかげんな「誘致成功物語」「首長お手柄礼賛論」を書かされる。
 今の日本では大企業だけが好景気の恩恵をこうむり収益を積み増ししている。成長の配当を政府(財政)にも社員(家計)にも分配しようとしない。そんななか、好決算に沸く大企業がさらに工場を作る。そこへ自治体が補助金を出す。本来は住民投票にゆだねるべき判断だ。財政破綻している自治体が福祉を切り、教育費を抑え、借金をしてまで超優良企業に大金を渡す。まるで背任行為ではないか?政策の成否の判断は人によって違うしケースバイケースだ。雇用創出やマクロ経済効果もあるだろう。だが、補助金がなければ本当に立地しないものなのか?
 報道機関の使命は政府の行動をチェックすることのはずだ。だから特権を与えられ、プレスクラブを構える。ならば、なぜ「誘致活動と立地の因果関係」「立地判断に当たっての補助金の必要性」を厳しくチェックしないのか? この種のニュースに限らず地域で起きるいいことはなんでも役所の手柄だとする感覚は、実は、悪いことを何でも役所のせいにする「お任せ民主主義」の裏返しでもある。困ったものだ。

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登録日:2007年 08月 03日 11:39:45

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プロフィール
上山信一
(男)
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慶應義塾大学総合政策学部教授、改革コンサルタント。専門は大企業・行政・NPO等の経営刷新。近年は地域再生も手がける。大学では「経営戦略」「公共政策」等を教える。旧運輸省、マッキンゼー共同経営者等を経て現職。大阪市生まれ。50歳。中央省庁・自治体の各種委員、企業顧問等を兼務。京大法、米プリンストン大修士。趣味は登山、鉄道、料理。メール:ueyama@pm-forum.org
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