●大阪府の施設の見直し②臨海スポーツセンター
一昨年に大阪市大大学院(創造都市研究科)チームが大阪府の施設研究を行った(私は同大学院の特任教授を兼務)のシリーズその2。府立臨海スポーツセンターについて調査したことを紹介する。
(1)施設の概要
「大阪府立臨海スポーツセンター」は、大阪府の南部の高石市、南海電鉄高師浜線の高師浜駅下車すぐの湾岸に面したところにある。この施設は堺・泉北臨海工業地帯の建設と同時期の一九七二年に造られた。周辺の工業地帯で働く人たちにスポーツを楽しむ場所を提供する目的で造られた。敷地は約二・五七万㎡で地上二階地下一階の鉄筋鉄骨コンクリートの建物(延床面積約一・二四万㎡)である。建物内には二つの体育室と四九五の観客席を持った大型のスケートリンク一つがある。一階と二階は吹き抜けで、二階の一部は食堂やスポーツショップになっている。体育室の一つには四五〇人分の観客席があり、バスケットボール、バレーボール、テニス、バトミントン、卓球などの試合が行われる。
(2) 稼働と収支の状況
府は当初この施設を「財団法人大阪府スポーツ・教育振興財団」に管理委託していた。ところが一九九七年度に年間一億五〇〇〇万円の赤字(年間収入七〇〇〇万円に対し、支出が二億二〇〇〇万円)を出し、議会でも問題視された。さらに一九九八年の一二月には天井にアスベストが使われていることが発覚した。そこでいったん休館し、改めてリニューアルオープンした。その後二〇〇〇年一二月二五日からは、同財団がさらに南海電気鉄道株式会社に運営委託を始めた。その後、二〇〇六年度からこの施設には指定管理者制度が適用され、同社が引き続き運営している。以下ではそれ以前の民間委託の期間について委託契約の背景と内容、成果を見ていきたい。
(3) 民間委託の内容
委託関係は次の通りである。財団法人大阪府スポーツ・教育振興財団が、まず大阪府からこの施設の管理を受託する。その上で、同財団が管理監督部分を除く管理運営業務を南海電鉄に再委託する。契約期間は、二〇〇〇年一二月二五日から〇六年三月三一日までの五年強である。
・経営努力へのインセンティブを付与
委託契約の内容は次の通りだ。南海電鉄は管理運営を行うかわりに毎年の利用料収入を全額自分のものにできる。加えて同財団から毎年二八七七万四〇〇〇円の委託料を得る(ただし、二〇〇二年に関しては二七五三万六〇〇〇円)。南海電鉄は、実収入額が当初見込額を上回ったときは、その八割を財団側に支払わなければならない。一方、下回った場合は、南海電鉄が負担する。
この契約では施設の性格に照らし、毎年の収支を黒字化するほどの収益改善をもともと期待しない。しかし南海電鉄は自らの経営努力によってコストダウンや集客等による増収策を講じることができる。一定のリスクはあるが経営努力次第で収益が増えるというインセンティブが与えられた(ただし、実際には委託期間中には当初見込額を上回ることはなかった)。
(4) 民間委託の成果
・大幅な収支改善
さて成果は何か。第一は税金でまかなう経費の大幅な節減である。大阪府は従来、年間約一億五〇〇〇万円の赤字を計上していた。それが民間委託後は二九〇〇万円弱の委託料を南海電鉄に払うだけで済んでいる。差し引き一億二一〇〇万円の収支改善だ。
第二は利用客にとってのサービス改善である。例えば、アイススケートリンクについては、開館時間を延長し、早朝と深夜の営業を行うようになった。また、南海電鉄が、自社の電車の車内中吊り広告を利用してスポーツセンターを広告宣伝し、集客増を図った。
さらにこれまで、財団が実施してきた各種のスポーツ教室もすべて南海電鉄に任された。そこで南海電鉄は、バトミントンや卓球などのスクールを南海電鉄自身の自主事業として開講した。年会費は約三〇〇〇円で受講料も一回九〇分の授業を四回受けて四〇〇〇円と、比較的リーズナブルである。これも利用者にとってはサービス改善の一つということができる。
(5) 事業者にとってのメリット
南海電鉄がこの事業を請け負うメリットはあるのか。第一に収支面では、黒字になれば利益の大半は財団に渡すものの一部が手元に残る。赤字が出れば南海電鉄の負担になるものの、経営努力が報われる内容と言える。
第二に南海電鉄高師浜線の高師浜駅の利用者の維持と拡大につながる。もともと南海電鉄にとってこの施設は沿線にある重要な娯楽施設である。その施設のテコ入れを自らやれることの意義は大きい。
第三に、南海電鉄はもともとスケートリンク運営のノウハウを持っていた。それが転用できた。南海電鉄は大阪市内のターミナル難波駅の近くにスケートリンクを持っていた。だが、同地区の再開発事業(現「なんばパークス」)のためにそれを閉鎖した。そこにちょうどこの施設の受託の話がきた。従業員の新しい職場としても本件は好案件だった。(つづく)
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登録日:2008年 02月 19日 07:37:56
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- プロフィール
- 上山信一
- (男)
- 慶應大学総合政策学部教授。大阪市生まれ54歳。専門は企業・行政機関の経営戦略と組織改革。都市・地域再生も手がける。旧運輸省、マッキンゼー共同経営者等を経て現職。国交省政策評価会(座長)、大阪府と大阪市の特別顧問、新潟市都市政策研究所長、日本公共政策学会理事、各種企業・行政機関の顧問や委員等を兼務。府立豊中高、京大法、米プリンストン大学修士。著作等 ツイッター@ShinichiUeyama
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