●大阪府の施設の見直し③:紀泉わいわい村
紀泉わいわい村は、里山体験をするための自然公園施設(里山自然学校)である。大阪府が二〇〇三年四月に金剛生駒紀泉国定公園(総面積一万五五三五ha)内に開設した。泉南市の市街地からは車で約一五分の静かな山間にある。現地には田畑、小川、雑木林に囲まれた茅葺き風屋根の宿泊棟が点在する。この施設は大阪府が所有する「府民の森ほりご園地」という敷地内にある。わいわい村の一帯は、大阪府の外郭団体である「財団法人大阪府みどり公社」が管理する。同財団が管理する地域は、わいわい村だけにとどまらない。周辺の散策路なども含まれる。「ほりご園地」の中で里山体験ができる部分が「紀泉わいわい村」と呼ばれている。
さて、わいわい村には現在、指定管理者制度が適用されている。だがそれ以前(二〇〇三年四月~二〇〇五年三月)には先ほどの「マリンロッジ海風館」と同様に、財団法人大阪府みどり公社を経由して財団法人大阪キリスト教青年会(大阪YMCA)に管理運営がゆだねられていた。
以下ではその成果を見ていく。
(1) 施設の概要
ここには昔の民家を復元した茅葺き風コテージの宿泊棟が六棟ある。近くのキャンプ場と合わせると、計二六四名の宿泊客を収容できる。宿泊棟には囲炉裏やかまど、五右衛門風呂などがあり、利用者は昔ながらの生活が体験できる。また、近くの山では、草刈り、間伐、炭焼きなどの里山保全活動が、また域内の田んぼや畑では農作業や収穫活動が体験できる。そしてもちろん、周辺の山林では山歩きや川遊びが楽しめる。
希望者には自然体験や里山生活体験などの環境教育プログラムも提供する。このプログラムは、青少年団体を中心に学校単位の移動教室、高校・大学のクラブやゼミ、サークルなどのセミナーや合宿、研修や企業の環境教育も含めた社員研修に利用されている。
施設は、大阪府が総事業費一八億二三〇〇万円をかけて建設した。そのうち半分を国が負担した。茅葺き風コテージは、一棟当たり建設費が三〇〇〇万円かかっている。
(2) 稼働と収支の状況
利用者は、二年目の二〇〇四年度の実績では、コテージの宿泊者が約五六〇〇名、キャンプ場が約九七〇名、合計六五〇〇名強である。この他、日帰りの利用者や一般来園者が二万六〇〇〇名で、とりあえずは順調なスタートをきった。
宿泊棟の宿泊料金(一泊二日)は、二〇〇四年度は大人(高校生以上)が四三〇〇円、小人(小・中学生)が三四〇〇円である。また、日帰り型は、一人当たり五三〇円となっている。
(3) 民間委託の内容
さて、わいわい村の委託の仕組みだが、まず大阪府が財団法人大阪府みどり公社に対して委託料として約三八五〇万円を出す(二〇〇三年度実績)。さらに同公社は、紀泉わいわい村の管理運営の大部分を、民間非営利の財団法人の大阪YMCAに委ねる。大阪YMCAは、宿泊棟部分の管理運営に加え、さまざまな環境教育プログラムの運営をする。また、専門指導者を養成し、自然観察教室やトレッキングなどを子どもたち向けに企画する。里山自然学校のスタッフである大阪YMCAの職員は、環境教育プログラムの企画から運営までわいわい村の企画・運営をまるごと管理している。
・毎年の努力で委託料が減少
大阪YMCAへの委託期間は、当面二〇〇三年四月から二〇〇六年三月までの三年間とされた(二〇〇六年度からは引き続き大阪YMCAが指定管理者となったので、実質的には延長された)。大阪YMCAへの委託料は、二〇〇三年度は約二五〇〇万円だった。それが二〇〇四年度は二〇〇〇万円に、また二〇〇五年度は一五〇〇万円へと減った。これは大阪YMCAの運営努力によるものだ。
みどり公社が大阪府から得る委託料と、同公社が大阪YMCAに委託する料金の差額は同公社の実質的な収入になる。同公社はこの差額でわいわい村管理の人材雇用や周辺散策路の整備をする。
さて、契約内容は次の通りだ。大阪YMCAは、同公社から得た委託料と事業収入(宿泊収入等)の範囲内で事業運営を行う。赤字になった場合は、大阪YMCAが負担する。黒字の時は、大阪府、同公社、大阪YMCAの三者で協議して、活用方法を決める。二〇〇三年度には六四万円の黒字が出た。このお金は利用者サービス向上のための備品の購入に使われた。二〇〇四年度は一万円の黒字だった。
(4) 民間委託の成果
委託の成果としては、次のようなことが挙げられる。
第一にみどり公社が自ら管理運営するよりも効率の良い運営ができた。
第二に大阪YMCAが持っている野外教育プログラムの企画運営ノウハウを導入できた。ノウハウの中味は利用促進からイベントの企画、そしてボランティアの活用まで多岐にわたる。例えば野外教育は季節変動が大きい仕事だ。夏休みをピークに、春から秋にかけ、子どもたちが集中的にやってくる。そのため、日頃から専門の指導者を養成し、安全にプログラムを運用する必要がある。こうしたノウハウは、行政では一朝一夕に確立できない。
・民間事業者の信用も寄与
第三に、大阪YMCAと組むことによるマーケティング上の効果がある。わが国におけるYMCAの知名度と信用は厚い。大阪YMCAは一八八二(明治一五)年に財団法人として設立され、長年、各種の野外教育や社会貢献活動を行ってきた。安心して子どもを預けられる機関として、社会的信用を得ている。もちろんわが国では行政に対する信頼も厚く、大阪府立の施設というだけで一定の信用は確立できる。しかし、府立とはいってもわいわい村は新興で知名度が低い。そんな中で大阪YMCAが一緒に運営を担ってくれるメリットは大きい。委託を受ける大阪YMCA側のメリットも大きい。まずこれだけの施設を自己資金で整備するのは難しい。今まで培ってきたプログラムとノウハウを実践して見せる格好の実践場所となる。また、環境関連事業で大阪府と提携するということは、大阪YMCAの信用をさらに増すことにつながる。総じて、このケースは双方にとってメリットの大きな事例だと言える。
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登録日:2008年 02月 20日 21:07:41
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- プロフィール
- 上山信一
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- 慶應義塾大学総合政策学部教授、改革コンサルタント。専門は大企業・行政・NPO等の経営刷新。近年は地域再生も手がける。大学では「経営戦略」「公共政策」等を教える。旧運輸省、マッキンゼー共同経営者等を経て現職。大阪市生まれ。50歳。中央省庁・自治体の各種委員、企業顧問等を兼務。京大法、米プリンストン大修士。趣味は登山、鉄道、料理。メール:ueyama@pm-forum.org
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