●関西・大阪の「創造都市ビジョン」 update4/26

 僕は大阪で生まれ育った。成人後は東京とアメリカで暮らしてきた。最近、久しぶりに毎週大阪に通う。ほぼ20年ぶりの関西復帰だ。驚いたことにいまだに「関西復権」や「関西再生」が唄われている。僕の少年時代とまったく変わらない。30年以上、「復権」と「再生」を唱え続けても事態はいっこうに好転しない。

 そもそも課題設定自体が間違っているのではないか。

 「再生」はまだしも、「復権」という言葉には全く戦略性が感じられない。
東京への対抗意識は否定しないがいかにも知恵がない。東京は特殊な「上げ底都市」である。世界的な金余りの中、内外のアブク銭が入ってくる。地方都市が弱体化する中で、資金や人材の待避所としてぎわいを呈している。
 長期的都市経営の観点からは、私は関西より東京の方がリスキーと見ている。東京は地方の若者を受け入れ、彼らの労働力と消費に依存してきた。若者が減少すれば一気に逆サイクルに陥る。空き家が急増し、商業も損益分岐点を一気に下回る。ヒトの一生にたとえれば、若い頃の不摂生がたたり中年になっていきなり大病発症、という感じか。
 これに比べれば、関西は「一病息災」。いつも具合が悪いとぶつぶつ言うけれど、しぶとい。まるでヨーロッパ!関西の失業率や中小企業の不振は確かに問題だが、これは西欧や米国の産業都市が70年代から80年代にかけて経験したこと
だ。ヨーロッパではリバプールやグラスゴー、ビルバオなど、米国ではクリーブランドやバルティモアなどかつての「煙の都」は軒並み、衰退を経験した。 
 だがリバプールはビートルズを生み出し、グラスゴーは北欧の人たちにのベニスと呼ばれる観光地になった。ビルバオはニューヨークのグッゲンハイム美術館を誘致し、文化都市への転換を果たした。

 これからの日本の大都市は産業の繁栄期に蓄えたアセットを使って、したたかに成熟していく。いわば「豊かなる衰退」のあり方が問われている。なかでも京都、大阪、神戸の3都は、日本の大都市のなかでもその流れの先端に位置する。
 
 なのに、なぜ「復権」や「再生」といった古臭いスローガンにしがみつくのか?
 なぜ、バイオだのロボットだの空虚な新産業待望論に走るのか?

 関西の各地を実際に歩いてみる。すると若者たちが各地で実験を始めている。鍵となるのは「文化」と「地域力」の掘り起こしだ。阪市内では平野地区の街ぐるみ博物館をつくった人たちや町家再生に取り組む人たちがいる。
 関西、特に大阪は「雑木林」経済の街。ごちゃごちゃといろんなものがあって、サービス業を中心に経済が回ってきた。都市経営でも「大木」的な新産業の育成を夢見たり、公共事業を頼りに食いつなぐという発想は捨てる。
 肝心なのは地域で活躍する「人材」、そして地域を越えた彼ら同士のネットワークの広がりだ。いきなりグランドデザインとか都市計画ではない。各地の具体事例の集積が地域力を掘り起こすヒントになる。
 プロジェクトも分かりやすいものがいい。要らなくなった小学校を改造してクラフトスタジオにするとか、ビルの空室、空いた土地など遊休資産を活かす。改革の原点は固定観を覆すことにある。勇気を出して全く無名の活動家、若い人材、女性、外国人に任せてみる。

 80年代以降、西欧社会は経済の成熟、都市の衰退に直面した。しかし大胆な発想転換をやってのけた。ソ連の解体やユーロの誕生はその典型だが、地域レベルでも過去との訣別が進んだ。例えば印象派コレクションで有名なパリのオルセー美術館は、駅舎を転用した。駅はかつて上流階級がバカンスに出掛ける拠点だった。印象派の画家たちを支援したのも彼らだった。時代が変わり、主役も替わる。かつての上流階級のシンボルだった鉄道駅で、いまや世界中の観光客、地元の市民たちが絵を楽しむ。おかげでパリのホテル、飲食、ブティックなど雑木林産業は隆盛を保っている。産業として衰退した鉄道を捨て、その遺産を文化産業のエンジンに変えた。

 関西は過去の栄華と訣別する。実体のないプライドや東京への対抗心は忘れよう。また東京のメディアが強調するコテコテの大阪のイメージとも訣別する。記号化された「関西」に安易に安住しない。関西文化はそんなに浅はかなものではない。むしろ手塚治虫、梅棹忠夫、司馬遼太郎、会田雄二そして谷崎潤一郎らが体現していたヨーロッパ的な落ち着いた市民文化、そして江戸時代以来の船場上方文化
を再構築する。あれこそが関西の豊かさの象徴ではないか。

 世界的にスローライフが注目を集めている。人々は目先の収入よりも生活の豊かさと日々のゆとりを求め始めた。こんな時代こそ関西にふさわしい。江戸、明治以来の膨大な文化の蓄積をもう一度掘り起こすべきだ。それをきちんと再構築し、世界に発信していく。成長・復権ではなく、成熟・バージョンアップをめざす。東京のことは意識しない。むしろ地域、現場のリーダーを大事にする。それができれば、関西は21世紀のルネサンスの担い手になれるはずだ。

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登録日:2006年 04月 26日 01:13:09

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プロフィール
上山信一
(男)
慶應大学総合政策学部教授。大阪市生まれ54歳。専門は企業・行政機関の経営戦略と組織改革。都市・地域再生も手がける。旧運輸省、マッキンゼー共同経営者等を経て現職。国交省政策評価会(座長)、大阪府と大阪市の特別顧問、新潟市都市政策研究所長、日本公共政策学会理事、各種企業・行政機関の顧問や委員等を兼務。府立豊中高、京大法、米プリンストン大学修士。著作等 ツイッター@ShinichiUeyama
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