●オーケストラの公共性③
(続き)
・今後の方針
文化や芸術にスポットを当てた都市再生論や創造都市論のような政策が各地で散見される。大阪市では2007年3月に「大阪市創造都市戦略Ver.1.0」を策定し、「ソフト施策」を重視し「アーツとビジネスが融合する都市」を目指すとしている。また仙台市の「楽都仙台」や川崎市の「音楽のまち・かわさき」のように、都市ビジョンの中で音楽に注目したキャッチコピーを掲げて施策に取り組んでいる自治体もおおい。オーケストラが行政から支援を得るにあ環境は以前よりも追い風の中にある。また、「のだめカンタービレ」のブレークや「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(熱狂の日)」(フランス・ナント発祥のクラシック音楽祭。一流の演奏を低料金で提供し2007年は106万人の来場者数を記録)の成功などで聴衆の裾野は広がりつつある。総じて見れば、わが国のクラシック音楽業界とオーケストラは明るい経営環境にある。
・潜在するリスク
以上、データをもとにわが国主要オーケストラの運営形態や収支構造、行政からの支援を概観した。総合すると一般に言われる「公的助成が少ない」「オーケストラは恵まれていない」といった意見は必ずしも当てはまらず、団員の給与水準も極端に低いわけではないことがわかった。しかし、現代日本のオーケストラが持つ2つのリスクに着目したい。ひとつはオ補助金や寄付の減少、各方面からの活動の場の提供など金銭面以外のものも含んだ支援の減少のリスクである。前者の原因は行政の財政難である。自治体の予算規模は現在縮小傾向にある。今後数年で急激に財政状況が好転することは考えにくい。現在は、オーケストラに対する支援が横ばい傾向にあるが今後もこのままのペースで推移することはきわめて不確実である。ましてや文化予算の規模を増やすことは、財政状況上非常に難しい。すなわち、文化行政の意義とは関係なく削減の対象となる恐れがある。
実際に千葉県にあるニューフィルハーモニーオーケストラ千葉では補助金の突然のカットによって2006年に楽団員のボーナス全額カット、2007年には給与が35%削減されるという事態が発生している。補助金が減少したまま運営を続けようと思えば、しわ寄せは人件費に来る。
二つ目のリスクの最大要因は地方企業の疲弊である。特に地方のオーケストラにとっては、企業からの支援は財政面を超えた意味をもつ。例えば、企業が運営する演奏会用のホールの存在は大きな支えとなる。しかし近時、地方企業の倒産件数は増加傾向にあり決して楽観視できない。例えば大阪に本社を置く石原産業株式会社は「イシハラホール」を運営していた。しかし明るみに出た不適切な不法投棄の後処理に多額の費用がかかるという理由で2008年1月にホールの休館を発表した。CSR(企業の社会的責任)やメセナへの関心が高まり、文化に対する支援も注目されてはいる。だが、本業で安定した経営ができない限り、支援は期待しにくい。地方企業の疲弊はオーケストラ経営における第2のリスク要因としてとらえられる。(つづく)
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登録日:2008年 05月 05日 07:50:57
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- プロフィール
- 上山信一
- (男)
- http://www.pm-forum.org/ueyama/
- 慶應義塾大学総合政策学部教授、改革コンサルタント。専門は大企業・行政・NPO等の経営刷新。近年は地域再生も手がける。大学では「経営戦略」「公共政策」等を教える。旧運輸省、マッキンゼー共同経営者等を経て現職。大阪市生まれ。50歳。中央省庁・自治体の各種委員、企業顧問等を兼務。京大法、米プリンストン大修士。趣味は登山、鉄道、料理。メール:ueyama@pm-forum.org
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