●地域再生戦略を問い直す(1/5)

私の講演録から、5回シリーズで紹介。
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 私はもともと経営コンサルタントで地域や自治体とはお付き合いがなかった。しかし10年くらい前から企業改革の手法を自治体改革にも使いたいという要望が出て各地の改革をお手伝いした。仕事ではなく委員や顧問などボランティアでの参加です。自治体改革は非常に大事です。しかし、企業のリストラで管理部門の経費節減より、本業で稼ぐほうが大事なのと同様に、役所の財政赤字を減らすよりも地域のGDPを増やす方が重要です。アメリカの財政赤字もクリントン時代にほぼ解消されたのですが、行政改革だけでなく、IT革命でGDPを増やして解消しました。財政再建への正攻法は地域の再生です。私の活動も自治体改革から地域再生に間口が広がりました。
1. なぜ「地方再生」が話題なのか?
(1)経済的背景
わが国の現在の経済状況を見ますと、中小企業と地方経済が景気回復の恩恵を享受できていない。トリックルダウンという言葉があります。雫がポツポツと落ちて、上のほうの水が下に及んでいくことをいいます。景気がよくなった大企業、輸出関連企業がまず潤う。その雫が従来ならばすぐに中小企業や地方経済にも波及しました。今回はあまり波及していない。そうこうしているうちに原料高になって、中小企業は景気回復がほとんどないままにまた不況になっている。地方経済は地場産業に依存していますので、回復を感じないまま。地方を十把ひとからげでは議論はできませんが、だいたいそんな感じです。
 もう一つ資金循環の観点からすると財政危機の問題があります。各種補助金と交付税が減少し、公共事業が減りました。したがって建設業を中心に売上も減少しています。
(2)「シャッター通り」と「休耕田」
政治的にはシャッター通りと休耕田が問題の2つ。確かに店は栄えていないし、田圃は耕作していない。ところが、この問題は複雑です。本当に困っている例と困った振りをしている例がある。例えば夜逃げをしてシャッターがしまった家の隣。そこの場合はシャッターを開けると、中にBMWが停まっていたという事例。老夫婦が年金生活に入り、息子も農協に就職をして、奥さんは中学校の先生。全部足すと大変な収入なのでお店は辞めた・・という事例もあります。休耕田もそうです。兼業で余裕があるから田んぼをやめたという農家もある。東京では田舎の悲劇と一様にいうふうに捉えられている。全体としては当たっているが、個別にはそうでもない。マスコミ経由の情報で真実を捉えるのはなかなかに難しい。

(3)反小泉改革:絶対的貧困の拡大、地域格差キャンペーン
 政治的には小泉改革への反動で格差キャンペーンが出てきた。しかし、地域格差は昔からどこの国にもある。むしろ問題の本質は個人間格差です。絶対的貧困が増えてきている。データを見るとたしかに格差は拡大しています。生活保護の受給世帯数が大きく増えた、あるいは貯蓄なし世帯が1割増えた、非正規社員が増えた、ホームレスや自己破産、犯罪、児童虐待、いろいろなものが増えていて、基本的に社会は悪くなっている。絶対的貧困層、それから恵まれないと思っている人たちが増えている。これは現実だと思います。
 地域別のGDP実質成長率をみると東京が突出しています。滋賀、三重もよい。三重は亀山モデルで有名なシャープの工場があり、滋賀は大阪から多くの工場が進出しています。千葉、愛知、茨城、神奈川なども大体調子がいい。低いのは高知、青森、秋田、和歌山、長崎、島根、石川、岩手といったところ。陸地の比較的端のほうにあって、厳しい条件にあるところです。全体を見て例外的なのは、鹿児島の調子の良さと、岐阜の調子の悪さ。ちなみにわがふるさとの大阪もかつてより低い。
 「県別GDP 2005-2010/生産年齢人口伸び率」も大事なデータ。沖縄以外は生産年齢人口が減少している。しかしその度合いには違いがある。大きく減少しているのが先ほど厳しいと名前があがった県です。
 さて東京と高知を比べても意味がない。議論すべきは、鹿児島と岐阜のような現象。あるいは滋賀と大阪の差。きめ細かいメッシュで地域間格差は議論する必要があります。
 本題に戻りますが、いわゆる地方の疲弊という一般論は、それだけを捉えてみると昔からそうだった。しかし、今後拡大するリスクが高い。それが問題でしょう。
 ところで霞ヶ関は、「公共事業」に代わる新しい事業が「地方再生」だと捉えています。かつては各省庁ともIT、環境、国際と言えば予算が取れました。今は地方再生です。これは政治の原理とも整合している。議員の先生方も各省庁も地元に何かしらの利益誘導をするのに都合がいい。地方再生は単なる流行の言葉ではなくて、今や日本の政治制度システムの一部になっている(続く)

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登録日:2008年 06月 09日 07:20:43

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プロフィール
上山信一
(男)
http://www.pm-forum.org/ueyama/
慶應義塾大学総合政策学部教授、改革コンサルタント。専門は大企業・行政・NPO等の経営刷新。近年は地域再生も手がける。大学では「経営戦略」「公共政策」等を教える。旧運輸省、マッキンゼー共同経営者等を経て現職。大阪市生まれ。50歳。中央省庁・自治体の各種委員、企業顧問等を兼務。京大法、米プリンストン大修士。趣味は登山、鉄道、料理。メール:ueyama@pm-forum.org
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