●進化する日本のポピュリズム政治
進化する日本のポピュリズム政治――「混迷」ではなく「成熟」と見るべき
景気の先行きが不透明なこともあって日本の未来を悲観する論調が支配的だ。有識
者は軒並み、日銀総裁人事問題などを例にとり「政治が機能しない。日本は世界から
遅れて存在感も薄れつつある」と嘆く。だが、本当に日本は停滞しているのか。筆者
はそう思わない。むしろ社会も政治も熟成の域に達し始めたと思う。
■西日本から始まるオトナの政治意識
日本人の政治意識は着実に進化している。象徴的な出来事が昨年の滋賀県の新幹線
新駅問題、東国原知事の活躍、そして今年の大阪府の橋下改革である。従来なら「ば
ら撒き」をしてくれる知事が支持された。ところが今は財政再建を掲げる知事に人気
が集まる。明治維新も西から始まった。大きな構造変化の予兆と見てよいのではない
か。
一方、中央政界はまるでぱっとしない。政権交代も政界再編も、そして道州制も議
論ばかりで盛り上がらない。しかし政争の争点の質は向上した。特に最近の民主党が
繰り出す争点は筋がよい。小泉政権以後、最近の日銀総裁問題まではまだまだ揚げ足
取りのテーマが多かった。しかし、(1)インド洋給油問題、(2)年金記録問題、(3)ガ
ソリン税問題などはいずれもわかりやすいテーマであり、かつ国民に政治の役割を考
えさせる格好の題材だった。それぞれが、(1)日米安保体制と自主外交、(2)老後の保
障と国家の役割、(3)公共事業のあり方と税負担、を考える格好の教材となった。
■バッシングから政策ポピュリズムへ
最近のわが国の政治は「ポピュリズム政治」だとしばしば批判される。確かに人気
取りの政策は多い。だが従来のポピュリズム政治では「官僚」「族議員」「守旧派」
「既得権益勢力」「悪徳事業者」などヒトのバッシングが多かった。マスコミと政治
家が一緒になって仮想敵を設定する。そして「彼らが悪い。だから改革だ」と主張し
た。国民も改革者を水戸黄門的存在と捉え、彼(彼女)が悪代官を征伐するのを期待
した。省庁再編、道路、郵政はいずれもこの構図だった。
だが最近はヒトのバッシングよりも政策がポピュリズムの対象に変わりつつある。
ガソリン税問題が典型である。多くの人がスタンドのガソリン価格の変動に政治の息
吹を感じた。政治のあり方が個人の財布に直結するとみんな学習した。
ガソリン税問題だけでない。後期高齢者医療保険や年金問題など個人の生活に直結
するお金を巡る政策論争が起きている。最近の政策ポピュリズムは国民の財布の中に
入ってきたといってよい。背景には財政危機が政治を進化させたという事情がある。
金がなければバラ撒き合戦はできない。むしろ政策の優先順位をめぐる論争になる。
ついにわが国でも政策の選択がポピュリズムの対象になりつつある。結構なことでは
ないか。
進化といえば二院制の「ねじれ」もそうだ。あれは政権交代のある国ではいつでも
起こりうる現象であり、原理的にも不思議ではない。だが今までの日本にはなかっ
た。「ねじれ」は明らかに政権交代の予兆である。そして国民の政治意識が成熟した
証拠である。日本は外から見れば混迷度を高めているように見える。だが内面では成熟の度合いを高めている。動いていないようでいて実は日本は動いている。だが成熟の姿が捉えにくいだけなのだ。
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登録日:2008年 07月 11日 07:08:11
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- プロフィール
- 上山信一
- (男)
- http://www.pm-forum.org/ueyama/
- 慶應義塾大学総合政策学部教授、改革コンサルタント。専門は大企業・行政・NPO等の経営刷新。近年は地域再生も手がける。大学では「経営戦略」「公共政策」等を教える。旧運輸省、マッキンゼー共同経営者等を経て現職。大阪市生まれ。50歳。中央省庁・自治体の各種委員、企業顧問等を兼務。京大法、米プリンストン大修士。趣味は登山、鉄道、料理。メール:ueyama@pm-forum.org
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