●地域再生戦略を問い直す(4/5)
つづき
4. 「地方」のビジネスモデルとその破綻
(1)従来モデル
・農林水産品と人材の見返りに自治体へ資金還流(交付税、補助金、公共事業)
地方経済はかなり都市に依存する。 従来のモデルは、農林水産品と若い人材を地方で育てて都会に提供した。見返りとして都市は自治体に地方交付税や補助金や公共事業を出してきた。これは「形を変えた仕送り」である。公共事業が批判されながらも続いてきた本当理由はこれである。「米と人材をやったじゃないか、何かよこせ」と。これはこれで説得力のある主張だった
(2)近年の破綻
しかし今やこのモデルが破綻した。政府は財政危機で金がない。企業はアジアに投資を向ける。そして農産物の価格は下がる。輸入に代わるというより、輸入ものがあまりにも安くて国内品価格まで下落する。出荷はしても単価が下がり売上が減少する。
地場産業のサービス業にも全国プレーヤーが参入する。駅前の旅館がある日、大手全国チェーンに買収されてしまう。飲食業もファストフードに変わる。売上は全部本社のある東京にいってしまう。地方ではある種の植民地経済化が起きている。最近の地方は、一方的に食糧と人材を出すばかりで得るものがない。かつての「仕送り論」も政治家や官僚が田舎出身でなくなると通らなくなってきた。
5. これからの地方のビジネスモデル
これからの地域経営のビジネスモデルはブロックとエリアの2つの単位で考える。
(1)「ブロック経営」 :国際競争を視野に
例えば関西道戦略ブロック。道州くらいの大きさだがこれは国家の再生戦略づくりに近い。大きく稼ぐ話、地域競争はこういうサイズで考える。
(2)「エリア経営」:地域の持続可能性を追求。
一方、暮らしの基本の持続可能性や行政サービスなどはもっと小さな単位、エリアで考える。これは米の取れない地域が先進的。米がとれる地域は頑張らない。
たとえば熊本の黒川温泉。小さな旅館が集積したところで温泉地のランキングでいつもトップクラス。大規模旅館がなくて家族サービスで、露天風呂をはしごして回る。全体の街並みが江戸時代の旅籠屋のような雰囲気で、家族でゆっくりくつろげる。ハイタッチな雰囲気で楽しめる。葛巻は岩手の山奥でやはり米がとれない。牛乳、乳製品など。大分の大山。ここも米がとれなくて、ハーブだとか果物。馬路村は有名な高知の山奥でゆずの加工品で頑張っている。徳島の上勝町は添えもの。料亭などで使うきれいな葉っぱを年寄りが作る。おじいさん、おばあさんも納税する。綾町は宮崎で有機農法でうまくいっている。
要は全部米がとれない地区。米がとれると国からの補助金がもらえるし、米の農業は楽なので兼業農家になってしまう。米がとれない地域でがんばっている例を見るとこれからのあるべき姿が見える。
さて、こうした地域がどこから売上を上げているのか。三大都市圏の富裕層の個人の財布からである。黒川温泉には全国のお金持ちが個人で旅行をする、団体旅行は少ない。ブランド野菜も料亭や有機野菜の好きな富裕層向け。単価が高くて、こだわり系の消費者にピンポイントして売上を上げていく。全国の地方の全てがこうしたものだけで食えるわけはないが先端的、本質的な現象がここに出てきている。
・国内資産:政府=▲1000兆円、企業=海外投資志向、家計=1400兆円
都市圏の富裕層がなぜ重要か。政府は赤字で企業は儲かっている企業の多くが海外投資志向。一方、家計は1,400兆円のプラスで半分以上が都会の個人。特に中高年の富裕層。その人たちの関心事は安全な食べ物、学習機会、観光、医療・健康といった分野。そういった分野にうまくマッチする野菜、温泉、牛乳などをストーリー性をつくって出していく。
人口5,000人とかその程度のまちなら都会の富裕層向けに売上20億円ぐらいのビジネスができれば、地域全体が持続可能になっていく。その程度のものを各地域で少しずつ作ればいい。
・食、観光、医療などで個人需要で付加価値、ストーリー性の高いもの
どこの地域にも何らかの地域資源がある。たとえばブランド野菜。おじいさん、おばあさんが作ってたまに給食に出したりしているけれども、東京には出していないような伝統野菜がある。あとは美術館、博物館、お寺、神社、そして産業遺産だったり。ヨーロッパを見るとそういうものを掘り起こして地場産業にしている。食べ物と文化的なものというのが多いですが、突き詰めると観光と農業の2つ。そこにつなげてちょっとしたビジネスを作っていく。
大企業の工場があったほうがGDPは増える。米も大事だ。だが問題は持続可能性。従来の米や公共事業などの落ち込みを補うプラスアルファと考えるべきだ。
・地域中核都市の消費需要は意外に大きい(例、地方牛乳)
もう一つ忘れていけないのが、地域中核都市の消費者需要。たとえば岩手県にとって盛岡というのは非常に大きな存在で、盛岡でモノが売れれば、農家も安定してやっていける。 いきなり東京や全国向けではなく熊本県における熊本、岡山県における岡山、そういった中核都市に対してうまくモノが売れる環境をつくる。中核都市には東京との「貿易」を中心に考えて、周辺地域と一緒に栄える発想があまりない。周辺を含めてトータルで持ち上げていく発想が必要だ。中核地域都市の再生戦略の役割は非常に大きい。そこがしっかりすれば周辺地域はけっこうやっていける。
6. 「再生の秘訣」とは?
(1)20-80の法則(例:産直と農協、個人と団体、爺婆と夫婦)
「会社の大事な仕事は2割の社員がしていて8割は遊んでいる」というのは、よく言われる話である。あるいは、「大事な話は2割で、残りの8割は聞かなくてもいい程度の話だ」とか。地域再生にも20-80の法則がある。従来のビジネスモデル、米や公共事業が80。農協から出して売る仕事や米作は否定しない。大企業の工場の仕事も否定するわけではない。しかし、そちらのは8割ぐらいにとどめる。残りの2割の部分を産直野菜、富裕層個人向けのビジネスでやっていく。旅館も団体旅行で8割を維持して2割を個人にシフトしていけばいい。
家計で言うと若い夫婦で8割稼ぐ。しかしおじいさん、おばあさんも年金だけじゃなくて、残りの2割部分を自分で野菜を作って道の駅に出して稼ぐ。これをやるだけで持続可能になってくる。世の中には過激な人がいて「農協を廃止して全部有機農業、産直にせよ」などという意見もあるがそれは現実的ではない。2割ぐらいはそういう世界、8割ぐらいは従来型でいい。(つづく)
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登録日:2008年 07月 19日 05:57:11
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- プロフィール
- 上山信一
- (男)
- http://www.pm-forum.org/ueyama/
- 慶應義塾大学総合政策学部教授、改革コンサルタント。専門は大企業・行政・NPO等の経営刷新。近年は地域再生も手がける。大学では「経営戦略」「公共政策」等を教える。旧運輸省、マッキンゼー共同経営者等を経て現職。大阪市生まれ。50歳。中央省庁・自治体の各種委員、企業顧問等を兼務。京大法、米プリンストン大修士。趣味は登山、鉄道、料理。メール:ueyama@pm-forum.org
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