●関改革から橋下改革へ:過去3年の大阪の改革を総括する

 1100億円の予算の大幅削減、伊丹空港の廃止、大阪南港への府庁移転、そして大阪市との水道事業の統合・・08年2月の知事就任以来、橋下知事は次々に新しい戦略を繰り出す。知事が目指すのは「大阪維新」――単なる府庁の改革や財政再建ではなく、大阪全体の再生である。筆者は大阪府の特別顧問、そして最近まで大阪市役所の市政改革推進会議委員長(06年~08年)を務めた。最近、変化の著しい大阪の改革の現状を報告する。
● 大阪問題
 大阪は問題の多い町である。第1に経済の停滞である。重化学や卸、流通など古い産業が多く勢いがない。近年は大企業本社の首都圏流出が続く。第2に治安の悪化、生活保護受給の増加など民生の不安である。第3に財政赤字だ。10年ほど前から府も市も税収が大きく落ち込み公債を発行し続けてきた。今では大阪市と大阪府はそれぞれ約5兆円の負債を抱える。
 ところが住民の危機感は薄い。目先の利を求める風土で政治や都市の将来ビジョンへの興味も薄い。おまけに二重行政である。狭い大阪府の中心に全国でも有数の政令指定都市、大阪市が陣取る。経済的には東京の3分の1の規模なのに府と市が何事につけ張り合う。近年では大阪は中央から「難治の土地」といわれ見放されつつあった。
 ● 大阪市の職員厚遇問題と改革の始まり
 だが2004年の冬、転機が訪れた。大阪市役所の職員厚遇問題である。カラ残業、ヤミ年金に加え、公金で背広まで支給する職員への厚遇が発覚した。市民の怒りが爆発し「大阪市役所は大阪から出て行け」という街頭インタビューが全国にテレビ放映された。

当時の関市長と大平助役(弁護士出身)は徹底解明と再発防止のために市政改革本部を設置する。そこに私を含む民間人が多数参加する。我々の使命は外部の視点にたった問題の掘り下げ、情報公開、そして是正策の提案だった。その後の約3年間、外部委員と市政改革本部は市役所の主要制度(福利厚生、情報公開、人事など)と67の主要事業の経営分析を行った。結果は逐一、記者会見で発表され情報公開が進んだ。

当初は「身の丈改革」とよばれる予算・人員の削減が中心だった。だが07年春以後は経営形態の見直しや府市の連携、事業統合の検討に発展した(例えば地下鉄の民営化、水道や大学の府市統合など)。そこで関市長は07年11月の市長選挙で地下鉄民営化をマニフェストに掲げた。だが、労組と民主党の支援を受けた新顔、平松氏に敗れた。これで大阪の改革はいったん頓挫したかにみえた。だが08年2月に大阪府知事に橋下氏が当選。今度は府庁が大改革に乗りだした。

●大阪府の超緊縮予算の意味
 破綻企業に就任した新社長はまず目先の出血を止める。そして借金返済のための新たな借金を止める。知事は就任直後にこの原則を打ち出した。ほぼ固まっていた08年度予算案をひっくりかえし、新たに1100億円を削減する超緊縮予算案を作り直すと宣言した。事業費と人件費の支出削減に加え、財産売却などで収入を増やし合計で1100億円を削減するという案である。庁内と府下市町村は反発する。全国メディアも含めての大騒ぎとなる。だが紆余曲折の末、7月に予算案は議決された。

今回の「1100億円削減」の意義は主に3つある。

①止血効果

 府の財政は借金が自己増殖する状態に陥っていた。そこでまず減債基金の取り崩しと借換債の増発をやめた。当初計画で2011年度までに2800億円の借換債の増発を見込んでいたのをゼロにすることにした。今回の「1100億円削減」は5兆円の債務全体に照らすと焼け石に水だ。しかし毎年の税収で約3000億円ずつ返していけば負債は着実に減る。

②目覚まし時計効果

 財政危機に対する府民の問題意識は薄かった。しかし今回の大騒動で多くの府民が目覚めた。

③虫干し効果

今回の予算削減では私学補助金、医療補助、障がい者や同和関連、医師会・オーケストラなどへの団体補助、警察予算など従来の聖域が見直し対象とされた。一部はあとで復活したが実態は白日のもとにさらされた。今後もずっと見直しの対象とされるうえ自浄作用も期待できる。

● 構造改革への3点セット
 破産企業は、社内の無駄を削り、余計な資産を売ったら次は他社との合従連衡を考える。つまり事業提携やM&Aだ。大阪府の場合は、第一に大阪市との事業の統合、あるいは資産の共同利用が課題となる。その上で府下の市町村との連携、あるいは権限委譲だ。加えて国・他府県との連携と道州制への準備である。具体的に知事が掲げたテーマは、①水道事業の府市統合、②大阪市が建てたWTC(ワールド・トレード・センター)への府庁の移転、③伊丹空港の廃止の3つである。

①水道事業
 水道事業は上工程(取水・浄水)と下工程(給水)に分かれる。大阪市域は全て大阪市が担う。それ以外では前者を大阪府、後者を市町村が担う。府と市は水も設備も余剰だった。そこで3年前から、府が設備更新をやめて大阪市から水を買うという案が出ていた。その協議が平松―橋下両氏の連携で急に動き出した。
②WTC(ワールド・トレード・センター)への府庁移転
 82年前にできた府庁本館は老朽化が著しい。約150億円で耐震補強する計画があったが知事は長期的に中途半端と判断、WTCへの移転案を打ち出した。WTCは大阪市が建設したが入居者が集まらずいったん経営破たんした。現在は、大阪市関係の事務所が入居するが2次破綻の懸念がある。府が買えば市は助かる。府も百数十億で買えるなら安上がりだ。現庁舎の跡地の売却益も見込める。

③伊丹空港の廃止
 関西には関西新空港(関空)、伊丹、神戸の3空港がある。当初は関空ができたら伊丹を廃止する計画だった。また新空港は泉南沖か神戸のどちらかに作る計画だった。だが2つとも作ったうえに伊丹も残る結果になった。その結果、関空会社は経営難である。国内線の多くが伊丹と神戸に下りる。そのため「国内国際一体かつ24時間稼動」という強みが活かせない。1兆円を超える負債もなかなか減らない。そこで知事は伊丹廃止を言い出した。唐突だが原点回帰の提案である。このままでは3つとも共倒れの恐れがある。関空と神戸は借金で倒れ、伊丹も騒音対策費をつぎ込み続けるので効率がよくない。伊丹の跡地の売却益は5千億円~1兆円超と見込まれる。これで関空の負債を圧縮できる。伊丹の跡地再開発、騒音解消による宅地価値の上昇も見込める。

● 行政改革から地域戦略、さらに道州制へ――橋下改革の戦略性 
以上3つの案件は、実は底流でつながる。水道とWTCの2件は大阪市の余剰設備を府が安く使い、市はその対価で赤字を減らすWIN-WIN関係である。伊丹廃止による関空てこ入れと府庁のWTC移転は「関西新空港―WTC-神戸空港」という大阪湾岸ベイエリアの発展を促進する。大阪湾は最近「パネルベイ」と呼ばれ、液晶パネル関係の企業や倉庫などが立地する。すでに高速網と鉄道が神戸―大阪―和歌山を短時間でつなぐ。これに計画中の淀川左岸線の高速道路がドッキングすれば京都―滋賀とも直接つながる。大阪南港を関西州の中核にという構想も夢ではなくなる。
 知事が打ち出す“夏の3点セット”はこの意味で極めて戦略的なテーマだといえる。この戦略の真骨頂は、今までの懸念案件(関空の借金、WTC破綻懸念など)を他の案件と抱き合わせで一気に解決し、さらに地域浮揚策につなげてしまう大胆さにある。橋下知事の戦略は大阪における府と市の長年の対立を乗り越え、さらに一気に関西道の時代に向けたうねりを生み出す力強さを秘める。長年、掛け声に終わってきた関西再生、大阪再生がついに実現するかもしれない。いやおうなしに高揚感が高まる熱い大阪の夏である。* 本稿は、あくまで筆者の個人的見解であり、府あるいは特別顧問としての公式の見解ではない。

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登録日:2008年 09月 14日 13:43:17

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プロフィール
上山信一
(男)
http://www.pm-forum.org/ueyama/
慶應義塾大学総合政策学部教授、改革コンサルタント。専門は大企業・行政・NPO等の経営刷新。近年は地域再生も手がける。大学では「経営戦略」「公共政策」等を教える。旧運輸省、マッキンゼー共同経営者等を経て現職。大阪市生まれ。50歳。中央省庁・自治体の各種委員、企業顧問等を兼務。京大法、米プリンストン大修士。趣味は登山、鉄道、料理。メール:ueyama@pm-forum.org
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