カテゴリー [書評]

●書評:宗教、そしてお金について知るための本

1.宗教について:今回のお勧めは次の3冊。
 阿刀田高「旧約聖書を知っていますか」「新約聖書を知っていますか」(新潮文 庫)、井筒俊彦「イスラーム文化」(岩波文庫)
 日本人の多くは宗教については無頓着である。私もそうだ。だが宗教は世界の歴史のかなりを動かしてきた。またキリスト教がなければ資本主義も民主主義も生まれなかっただろう。宗教への理解は世界の歴史、また絵画やオペラなどを理解するうえでも不可欠だ。この3冊はいずれも信者ではない日本人が冷静な視点で宗教の歴史と教義を解説する。
2.お金と経済について:次の2冊
 本多静六「私の財産告白」(実業之日本社)、ピーター・ドラッカー「新訳・経営者の条件」(ダイヤモンド社)
 お金はなさ過ぎてもありすぎても困る。本多静六は100年前の農林経済学者。株や山林の投資で財をなし晩年には大半を寄付した。金銭や利殖は秘め事とされそのコツを語る人は少ない。だが同氏は自らの失敗・成功事例と金銭哲学を余すところなく明かす。お金をうまく使い、逆にお金に自分が使われない方法を巡る賢人の知恵には時代を超えた説得力がある。金銭と同様に悩み多いのが「マネジメント」の課題だ。ドラッカーは世界でもっとも敬愛され、読まれる経営学者だ。名著「経営者の条件」は「どうやって人を動かすか」「どうやって成果を挙げるか」というシンプルな問いに答えつつ等身大の視点から経営の原則をわかりやすく解き明かす。

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登録日:2007年 10月 07日 14:34:01

●大国と世界の歴史について良く知るための本

・トクヴィル「アメリカの民主政治(上・中・下)」(講談社学術文庫)、石原莞爾「最終戦総論」(中公文庫)
 1831~32年、フランス人貴族A・トクヴィルが米国を旅した。それを元に書いた著書「アメリカの民主政治」の中で彼は「20世紀には米国とロシアが大国に発展し世界を制覇する。そして両者は戦う」と予言した。本書はもともとは旅行記だが米国がどのようなOSを持つのか、またそこからどうやって新聞や政党などのAS(アプリケーション・ソフト)が生まれるのかを見聞に沿って生き生きと解説する。トクヴィルは「アメリカ以上のものをアメリカで見た」という。よしあしは別として米国標準が世界標準になる時代だ。どの分野のプロを目指すにしても本書が語る米国のDNAの構造を知っておくと役に立つだろう。石原莞爾は戦前の日本陸軍の参謀だ。1930年代に著書の「最終戦総論」で「まもなく国家壊滅型の最終戦争が起こる」「一発あたると何万人もがペチャンコにやられる・(中略)・大威力のもの」「その後に絶対平和が到来する」と太平洋戦争、原爆投下、さらに戦後の国際秩序をも見通していた。人は歴史の洞察でここまで先を見通せるものかと戦慄すら覚えさせる一書である。

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登録日:2007年 10月 07日 14:28:31

●隠れた名著の書評:「定刻発車」」(三戸祐子)

「定刻発車」(三戸祐子)。この本は鉄道が機械・設備と人の連携で運営される巨大かつ複雑なシステムであることを教える。その運営と維持には、組織能力、歴史・文化、気候・地形、さらに国民性などあらゆるに様々な要素が絡む。鉄道に興味のない人にもお勧め。 ちなみに鉄道とオペラ・歌舞伎と自動車産業は似ている。オペラ・歌舞伎は芸術のなかでも総合芸術。歌、楽器、ストーリー、舞台装置、衣装などを総動員するからだ。オペラや歌舞伎ができない国には鉄道は運営できないだろう。自動車産業もそうだ。材料から加工、デザインまですべてが必要。自動車が作れて歌舞伎ができてオペラもやって、新幹線を定刻発車させるわが国の技術はアポロを月に送る技術とは別の意味で人類最先端である。
 この本はその本質を語るという意味で優れた文明論だ。筆者は女性。男は私も含めて鉄道に恋をしやすい(鉄ちゃん)。その危うい分野における女性の冷徹な洞察眼である。英語翻訳すれば日本文明の本質をアングロサクソン諸国に広めるのにも一役買うはずだ。

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登録日:2007年 07月 15日 08:01:16

●書評「悲しみから思い出に」(日本医療企画)

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 正式名は「悲しみから思い出に―大切な人を亡くした心の痛みを乗り越えるために」という本。米国には家族を亡くした人を癒すための本、ボランティア団体などがたくさんある。死と向き合うための死生学という専門学問もある。われわれはふだんは死について考えない。「縁起でもない」と話題にしないし、死について考えるとのは「暗い」といわれる。僕もそうだ。だが誰にも死はやってくる。多くの人が両親、親戚、恩師、先輩の死に直面する。米国ではその準備と自殺防止のために死生学が家政学並みの地位を占める。本書は死生学の専門家である日系一世の女性が母の死を悼んで書いた本だ。詩あり追想ありで家族をなくした人向けに書かれている。論理的左脳で読むと私信に見えるがじっくりよむとはっとする。不思議な本だ。原書は英文で発行され米国赤十字社経由で9・11の犠牲者に配布された。日本語版は医療コンサルタント、メディバ社長の大石佳能子氏が翻訳。2005年に日本医療企画社から出版されて以来、静かなベストセラーになる。アマゾンでも買える。

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登録日:2007年 03月 07日 00:13:19

●書評「小泉官邸の真実 飯島勲前秘書官が語る」(アスコム)

 田原総一朗氏の責任編集「オフレコ!別冊」という標題の雑誌。こういう本はふだんは買わない。僕は永田町や政界の動向にはあまり興味がない。政界の動きはスポーツのような現場中継がない。企業情報のように市場や株価もない。政治記者のバイアスまみれの憶測情報に時間を費やすのは無意味だからだ。
 だがすでに役割を終えた政治家の話は別。サッチャー回顧録は特に面白かった。この本もすでに終わった話を当事者との対談で書いているから買う。しかも国の経営者である総理の補佐役という珍しい仕事の回顧録だ。プロとしての政治家秘書、首相秘書の役割がよくわかった。田原氏との対談形式で本音がテレビ的ににじみ出て読み物としても軽快でお勧め。一番驚いたのは飯島氏が実は週刊誌を含めたマスコミとの接触を一手に引き受け、情報操作していたというのはまったくの嘘だったというくだり。首相番記者への対応は4人の首相事務秘書官にゆだね自分は出なかったという。政策秘書と事務秘書官の情報にずれが出たら記事になる。事務秘書官を守るためには沈黙を決めたという。小泉内閣の本旨は情報公開にあったという。そのためにこそ情報はひとつだけ正しいものを出す。プロの流儀のひとつだと思った。それにしても「飯島秘書官がマスコミを操作している」という情報自体がマスコミが作り出した虚像だった・・。もしこの証言が本当にそうだとすれば「官邸が正しい情報公開をするとマスコミは情報操作をされたと感じる」ことになる。これからのプレスは大変だ。会見内容を伝えるだけだと政府のインターネット広報に負ける。透明性が高まると憶測記事の価値がなくなる。おのずと調査報道に移行しなければならない。だがOJTでは限界がある。若い記者を鍛える場を別途用意しなければならない。

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登録日:2007年 02月 17日 17:35:22

●書評「ベルナール・アルノー、語る」(日経BP)

KENZO,LOEWE,DIOR、セリーヌ、ダナ・キャランなど40ものプライマリーブランドを傘下におさめ、ブランドのコングロマリットといわれるLVMH(モエ・へネシー・ルイ・ヴィトン)を作り上げた男のインタビュー対談。49年生まれで北部フランス出身。エコール・ポリテクニーク卒業後、ゼネコン経営を経てブランドビジネスに転じた。伝統的ブランドのメゾンを買収し、斬新なデザイナーの投入で蘇生させ、あとは経営の鉄則を埋め込んでいく。事業再生の技をブランドビジネスに活かし成功してきた。ディオールにはジョン・ガリアーノをヴィトンにはマーク・ジェイコブスを投入し、伝統ブランドのイメージを新素材や新分野へ巧みに展開した。ブランドを劣化をさせずに分野と売り上げを増やすのは至難の技。それをやってのける経営手腕はさすがだ(この本、その具体方策はあまり書いてないが・・・)。「買収屋」との誹謗中傷を避けるために発信したという感じもしなくもない出版企画だが社会投資家の心構えなど尊敬できる世界観も随所にみられる。フランスの良識、フランスが見るアメリカも良くわかりたいへん良い本だ。

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登録日:2007年 01月 04日 14:29:52

●書評「私的ブランド論ールイ・ヴィトンと出会って」(日経新聞社)

 この本はかなりお勧め。読みやすい。そしてあたかも壁に埋められたヴィトンのアンティーク・トランクのようにビジネスの真髄が随所に顔を出す。
 筆者は僕よりちょうど20歳年上。経営コンサルタントの大先輩。筆者はたまたまクライアントだったヴィトンに請われ40歳で日本のトップに。物流(ディストリビューション)は商社・問屋を介さずにパリ本社と百貨店が直にやり、サービス・ブランド管理は日本支社が分担というシステムと一貫したサービス体制を構築。その後の日本での隆盛を築く。
 もとより商品は一流、ブランド哲学も予想通りだがこの本の真価は同社の価格戦略哲学にある。製品コスト+一定利率の利益を常に維持する。そして「ブランド品は値下げをしたらだめ」という取引先の忠告にもかかわらず国内価格の値下げ(円高効果の消費者還元)をしていく。78年の価格はパリの2.8倍、それが今は1.4倍。これができたのも当時、問屋を使わない在庫を持たない流通システムを採用していたからだ。ヴィトンは決して安くはないが実用品で長持ちする。それでいて斬新なデザインにも挑戦する。それが日本女性の4割強に浸透しつつも安定したブランドイメージを維持する秘訣だろう。

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登録日:2006年 12月 25日 00:33:57

プロフィール
上山信一
(男)
http://www.pm-forum.org/ueyama/
慶應義塾大学総合政策学部教授、改革コンサルタント。専門は大企業・行政・NPO等の経営刷新。近年は地域再生も手がける。大学では「経営戦略」「公共政策」等を教える。旧運輸省、マッキンゼー共同経営者等を経て現職。大阪市生まれ。50歳。中央省庁・自治体の各種委員、企業顧問等を兼務。京大法、米プリンストン大修士。趣味は登山、鉄道、料理。メール:ueyama@pm-forum.org
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