カテゴリー [書評]
「だから、改革は成功する」 上山 信一 著
この本は、営利、非営利を問わず組織の中で、あるいはコンサルタントとして改革に挑む人向けに書きました。体験ベースの実践のヒントが満載です。なお、書名はもちろん大平光代さんの「だからあなたも・・」にちなんだもの。彼女は私が執筆時に取り組んでいた大阪市役所の経営改革のパートナー(戦友)かつクライアントでした(当時、助役)。本の中では当時の大阪市改革のエピソードも紹介しています。
ちなみに大阪市改革は、残念ながら未完に終わりましたが4年の時を超えてもうすぐ再稼働。スイッチをいれるかどうかは市民の皆さんの判断にかかっています。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4270001038/ref=cm_sw_r_tw_alp_IudKob09B24NY
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登録日:2011年 10月 08日 20:35:59
書評 「アメリカを変えたミレニアル世代ーSNS・YouTube・政治再編」岩波書店
フェースブック、ツィッターなどのソーシャル・メディアは政治や選挙を大きく変えうる。21世紀の技術が現代政治に直接民主主義の息吹を持ち込む可能性がある。本書はその先がけとなった前回の米大統領選を丹念に分析する。
米国では1982年から2003年までに生まれた若者をM(ミレニアル)世代とよぶ。彼らはソーシャル・メディアを通じてオバマを知り、互いに議論し、政治への関心を高めていった。そうして彼らは政治を身近に感じ、上の世代よりもはるかに前向きな期待を寄せる。
著者はこれを大きな政治変動と捉える。
訳者の中村美千代氏(最近まで米国に在住)は「日本ではオバマが選挙キャンペーンにフェースブックを使った」と報じられた。だが本当の変化はソーシャルメディアを通じて若者たちが政治にコミットし共通の意識を持ち始めたこと」と解説する。
閉塞状況の日本の政治の打開策を考えるヒントとしたい本である。
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登録日:2011年 07月 10日 15:00:33
●厳選14冊
これからの日本と世界を読み解くための厳選14冊。ことしの秋、僕の授業、「パブリックガバナンス論」では次の本をよんできて議論をする。
1.高坂正尭「海洋国家日本の構想」(中公クラシックス)(但し1p-30P、173p以後最後まで)
2.梅棹忠夫「文明の生態史観」(中公文庫)(但し70p-77p、99p-133p、199p-204p)
3.田中明彦「新しい中世」(日経ビジネス人文庫)(但し5章~8章、文庫版のための補章)
4.中西輝政「帝国としての中国」(東洋経済新報社)(但し2章~4章、11章~12章、275p以後最後まで)
5.マルクス エンゲルス「共産党宣言」(岩波文庫) (但し1章、2章、4章)
6.レーニン著・角田安正訳「帝国主義論」(光文社古典新訳文庫)(但し34p-70p、79p-81p、106p-107p、123p-126p、131p-133p、161p-167p、194p-200p、214p-215p)
7.大塚久雄「社会科学の方法ーヴェーバーとマルクス」(岩波新書)
8.マックス・ウェーバー「官僚制」(恒星社)(抜粋)
9.佐々木毅「民主主義という不思議な仕組み」(ちくまプリマー新書)
10.オルテガ「大衆の反逆」(中公クラシックス) (但し1~6節、11~13節、14節Ⅷ~15節)
11.飯尾潤「日本の統治構造」(中公新書)
12.遠藤乾「日本における補完性原理の可能性―重層的なガバナンスの概念化をめぐって」(山口二郎他編「グローバル化時代のガバナンス」(岩波書店)の所収論文(第10章)
13.山岸俊男「安心社会から信頼社会へ」(中公新書)(4,5章を除く)
14.広井良典「コミュニティを問いなおす―つながり・都市・日本社会の未来」(ちくま新書)
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登録日:2010年 08月 30日 16:11:59
●経営戦略に哲学と古典が必要なわけ
NHKの「白熱教室」(ハーバード、マイケル・サンデル教授)が話題です。先が見えない時代には、強力な哲学や思想が求められています。SFCでもそういう授業が増えています。ところが先日、某大企業の会長が「ITや実学志向のSFCではああいう議論はしないのでしょう」とおっしゃったのは残念です。SFCでも思想や哲学の比重が増えています。ゼミでは古典をよく読むし、ゲストも交えて泊まり込みで思想や哲学について語る授業もあります。先進的であるためには古典や思想は必須なのです。
僕は経営戦略が専門で実学主義者です。しかし2年くらい前(つまりリーマンショックの少し前)から、論理や分析では見えない世界の構造変化が気になり始めました。そこで学生と一緒に古典が展開する思想と哲学から世の中の構造を読み解く授業とゼミをはじめました。「パースぺクティブ(Perspective)」研究会」(成果はhttp://group2050.blogspot.com/)、そして「パブリックガバナンス論」といいます。いずれも少人数で白熱した議論をします
僕は70年代後半、大学紛争の余熱が残る京大で学びました。マルクスやレーニンからフーコー、インド哲学などおよそ実学から程遠いものを授業やゼミ、研究会で読んだのです。あとはひたすらフィールドワーク。それが京都学派の教育法です。その頃の蓄積は20代ではあまり役にたちませんでした。しかし40代以後の改革の仕事ではずいぶん役立った気がします。
僕のゼミでは重たい古典をガツンとよみます。そのうえで議論を通じて未来をよむのです。時代をリードする経営者や政治家を生み出すには若いうちに歴史、思想、哲学に裏打ちされた世界観を構築してもらうしかないと思います。
世界はますます先読みしにくく、それでいて9・11事件や金融危機のように薄々の懸念が急に現実化する時代です。社会主義は崩壊したものの、民主主義、官僚制度、資本主義が限界を露呈しています。18世紀末以降の世界秩序を作ってきた国民国家の枠組みも揺らいでいます。そして国家レベルで解決できない課題(地球環境問題、資本主義の暴走など)が噴出しています。 そんな中で未来を考えるには歴史や偉大な思想がたくさんのヒントを出してくれます。
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登録日:2010年 07月 24日 23:55:47
●書評「地域医療ーー再生への処方箋」伊関友伸著
「コンクリートから人へ」といわれるとおり、わが国の公共サービスの重点は道路、港湾などのインフラから福祉、医療、社会保障にシフトしつつある。だがこれらのサービスのあり方は地域や受益者の個別事情に大きく左右される。また国家よりも自治体が政策の立案と執行を担うべき領域である。中でも地域医療はその崩壊がすでに社会問題化しており、現代の公共政策が直面する課題の筆頭に位置する。
本書はその現場の実態に精通するわが国における第一人者の手による実態分析と政策提案である。筆者は元埼玉県庁職員であり、かつ病院勤務の経験ももつ。現在は各地の病院改革や医療政策の改革に助言している。医療分野に限らず、広く現場発の「あたらしい公共」論としても一読を勧めたい
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登録日:2010年 07月 10日 18:14:14
●書評「戦略の断層ーーその選択が企業の未来を変える」古我知史著(英治出版)
経済、ビジネス分野では「次はこれ!これが新しい!」と次々に本が出る。アルファベット3文字のキーワードが増産されては消えていく。そして日本のビジネスマンはシリコンバレーや中国の勢いに接し、「自分たちだけが遅れている」と自虐的になりがちである。著者は金融、コンサルティングを経て今は数多くの日本企業に自ら資金を投資しつつ手取り足取りの助言をする戦略アドバイザーである。著者は日本企業の経営者に対し、「浮き足立たず、自社の状況を見つめよという。そして個々の会社の成長段階(年齢)にあわせた戦略を構築せよ」と説く。企業は有機体であり変態する。その時機を見据えた戦略展開が肝要だというのである。平易な語り口だが、豊富な事例(戦史解説)に裏打ちされた理論は現代経営戦略論を網羅し、かつ集大成する充実ぶりである。企業経営のみならず国家や都市、地域の戦略を考える上でも役立つ好著である。
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登録日:2010年 07月 10日 17:57:18
●学生による書評(まとめ)⑫2050年に向けて世の中のシステムを変える
今回は、「システムを変えるのは、どうしたらいいのか」について議論したいと思う。今まで「自由・平等・博愛」という現代の原理と「資本主義」、「民主主義」、「官僚主義」、「国家主義」という現代社会を動かす4つのOSを見てきた。
結論から先に2点述べたい。第一に、現代を司っているのは、「システム」という怪物である。第二に、「システム」はその限界として登場する問題群、具体的には環境問題と福祉問題への対応を迫られて変容し、新しい姿を見せる可能性がある。こうした原理やOSについて、政治家でもなく社会科学者でもない、小説を紡ぎ出す専門家である作家は、どう考えているのだろうか。
村上春樹のスピーチが非常に示唆に富んでいたので引用する。村上は、今年2月にイスラエルで開催されたエルサレム賞授賞式の席で以下のようなスピーチした。「高くて、固い壁があり、それにぶつかって壊れる卵があるとしたら、私は常に卵側に立つ」というイスラエル・パレスチナ両国への批判と思われている隠喩に続いて、村上はこう発言した。
「しかし、それだけではありません。もっと深い意味があります。こう考えてください。私たちは皆、多かれ少なかれ、卵なのです。私たちはそれぞれ、壊れやすい殻の中に入った個性的でかけがえのない心を持っているのです。わたしもそうですし、皆さんもそうなのです。そして、私たちは皆、程度の差こそあれ、高く、堅固な壁に直面しています。その壁の名前は「システム」です。「システム」は私たちを守る存在と思われていますが、時に自己増殖し、私たちを殺し、さらに私たちに他者を冷酷かつ効果的、組織的に殺させ始めるのです。」
このスピーチを私なりに解釈するなら、「システム」が私たちを守る統治可能な存在から私たちを精神的に殺す統治困難な存在へと化けつつあるのだと言える。総括すると、現代は、「システム」がますます私たちの手から離れ、問題解決をするどころか問題を増やし続ける、言い換えれば「システム」がますます統治困難になっている時代だと言えるのだ。
敵は、超巨大な「システム」であり、誰も全体を知ることができない。複雑化してしまった「システム」に対抗する術はないように思える。4つのOSで動き続ける現代で「システム」へ絡め取られずに生きる方法はないのか。あるいは、私たちの手で「システム」へ対抗する方法はないのか、次に考えてみたい。
私は、喫緊に対応する必要のある課題となる環境問題と福祉問題が「システム」を変えていく鍵になると考える。まずは、それぞれの問題の特色を見たい。次に、その問題を「博愛」の具体化によってどう乗り越えていくかを考える。最後に、日本の「2050年」はどういう姿になっているか、そして日本はそこへどう貢献していったらいいのか考えていく。
まずは、問題の特色についてだ。環境問題は、大量生産・大量消費・大量廃棄を前提とした「資本主義」の豊かさ、その豊かさに支えられた「民主主義」、「資本主義」と「民主主義」を運営するためのツールである「官僚主義」という3つの「システム」を持続不可能にしてしまう。福祉問題についても深刻である。経済成長を前提に再配分を行う「福祉国家」は、低成長が当たり前となった先進国では既に実現できないモデルとなってしまった。さらに、資本主義を代表する企業などの強い影響を受けている現代の民主主義は、福祉には熱心ではない。官僚主義をもってしても、対人サービスが中心となる福祉には、対応が困難になってしまう。
今までは、公共的な分野の問題は、国家が解決しなくてはならないというのが常識だった。例えば、対外戦争、道路建設などが挙げられる。しかし、今まで述べてきたような問題では、先の述べた国家のできることは少ないままである。むしろ、国家を前提に議論するのではなく、国家とは別の次元、たとえば個人、コミュニティ、NPO、企業、主権国家、欧州連合(EU)などの地域統合、世界政府などのアクターを念頭に置かないといけないのだ。こうしたアクターが多層的に絡み合いながら、解決策を模索していかなくてはならない。つまり、マルチレイヤーにおける問題解決が必要になってくる。これをマルチプル・レイヤー・ソリューション(MLS)と名付ける。さらに言うと、環境問題や福祉問題の先端で、個人が自立することを第一にする「自助」や政府が困っている人を助ける「公助」だけではなく、共に助け合っていく「共助」を念頭においた解決策を考えることが重要だ。「共助」を体現する原理とは、すなわち「博愛」である。「博愛」の原理に基づいて、マルチアクターによる「共助」を進めていくことが最終的に「システム」という怪物を中和することにつながるのではないだろうか。
こうした「共助」の具体案として、福祉・環境それぞれに提案してみたい。
福祉については、「博愛スカラーシップ」を提案する。これは、金銭的に裕福な高齢者が経済的な理由から進学を阻まれている学生に対して、個人対個人、個人間の関係で援助を行う奨学金制度である。人類の未来を作り出す「未来からの留学生」に対して、資金がたくさんある高齢者世代が自分の選んだ若者に対して、資金によって未来を託す仕組みだ。こういう仕組みのように、余裕のある個人が余裕のない個人に対して行う融資は、新しい「共助」の形と言えよう。今ある「あしなが育英会」や「里親制度」を発展させる形で実現が可能だと考える。
環境については、今提案されている排出権取引制度は、「自助」であり、環境税やCO2削減目標設定は、「公助」である。「共助」の取組みは、なかなか見いだしにくいが、琵琶湖での水質汚染防止を目的としたヤシの実洗剤利用運動などは、かなり「共助」のイメージに近いと言える。こうした具体的な制度設計を試みながら、「博愛」をマルチアクターで実現する「共助」というものを少しずつ進めていくべきだ。
最後に、日本の役割について考えたい。日本では、伝統的に結やもやい、頼母子講などの「共助」の文化が根付いてきた。その「共助」の片鱗が残っている地方ではその文化をルネッサンスすることでマルチアクターでの「共助」が実現可能であろう。しかし、そうした伝統が失われてしまった地域(大都会、代表的には首都圏)では、新たに「共助」を作り出す必要がある。
こうした「共助」との関係で言えば、日本は、CO2の規制、保育所の設置・受け入れ児童枠の拡大による待機児童問題解決、高齢化社会に対応する特別養護老人ホームの設置・受け入れ枠の拡大、それに伴う地方分権化を実施しながら、各地域で「共助」を再構築し、中国などの新興国に対して環境技術を輸出するなど具体体に世界へ貢献する「博愛」を体現した国家へと脱皮すべきだ。「博愛」を理念とする国家へ向けた新たな「離陸」こそ、日本の現在の課題なのだ。
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登録日:2010年 06月 16日 01:01:39
●学生による書評シリーズ ⑩「資本主義・民主主義・・」
第10回「資本主義」・「民主主義」・「国家主義」・「官僚主義」という4つのOSについて
資本主義は14世紀に誕生し、産業革命以後に急速に台頭し、社会を動かすOSとなった。マックス・ウェーバーは近代資本主義の起源をプロテスタンティズムの精神に求めた。彼によると資本主義の根底には倫理、勤勉、そして宗教意識があるという。資本主義は現代社会を動かす他の3つのOS、民主主義、国家主義、官僚主義と相互に綿密に係わり合いながら発達してきた。
まず国家主義についてだが、これは資本主義が育てたものである。中世における西欧社会は豪族、教会、王の権力が交錯する多層的かつ無秩序な社会であった。それが国家主義の原理で統合され、やがて国家の概念が17世紀に確立した。資本主義が都市の商人を育て、彼らと王が結託して豪族と教会の権益を奪取し、専制国家の権力を構築したのである。
さらにここから官僚主義が生まれた。大きくなった国家の統治という実務の必要と専制統治の正統性を示す必要があった。官僚主義はさらに企業経営の概念をもたらし、資本主義を強化させた。また資本主義は国家主義と結合し、重商主義と帝国主義への流れを作った。
民主主義との関係についても述べたい。国家主義は戦争を激化させた。また戦争技術の発達で国民徴兵が必要になる。すると命と引き換えに政治に参加したいという民衆の要求が出てくる。また資本主義の拡大再生産が民衆に富を分配し、彼らの意識を覚醒させた。かくして国家主義は民主主義を生み、19世紀には国民国家そして国民主権の考え方が主流になる。
しかしながら民主主義の国家は動きが鈍い。やがて帝国主義戦争に生き残るために近代化で遅れをとった国々は民主主義ではなく、戦前のファシズム国家や戦後のソ連のような独裁、すなわち共産主義と全体主義に走った。
これが逆に米英仏の民主主義と資本主義に絶対的な正統性を与え、この2つの結束を強くさせ、その上でさらなる発達につながった。その象徴が普通選挙(人民民主主義)と福祉国家(修正資本主義)である。さらに戦後は独禁法や市場介入で政府が市場を制御し、後に市場の失敗を補正して公共財を提供するという段階に至った。かくして現代資本主義は民主主義、さらに国家主義、官僚主義とがっちり有機結合したシステムである。
しかし、それぞれのシステムは、資本主義における格差、国家主義における民族主義と経済のグローバリズム、官僚主義における硬直性による人間の疎外、民主主義における衆愚化の問題といった問題点を孕んでいる。
今後の世界においては、これらの問題点を克服し得るような新たなるシステムを再構築することが望まれているであろう。
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登録日:2010年 05月 14日 02:39:57
●学生による書評シリーズ⑨:「自由」・「平等」・「博愛」について
第9回「自由」・「平等」・「博愛」について
今までは、資本主義や民主主義といった我々の世界を動かしているオペレーション・システムについて考えをめぐらせてきたが、今夜は、それよりももっと大きな概念である、「自由」・「平等」・「博愛」について考えてみたい。
人類の歴史は、「自由」・「平等」・「博愛」の3つの概念を基に考えられる。これは、フランス革命において叫ばされていたことでもある。
「自由」の対置概念として「平等」。その両者を取り持つものとして、「博愛」があると考えている。なぜならば「自由」を突き詰めれば、「平等」という発想は出てこないし、「平等」を重視している限り、「自由」という発想は出てこないからである。
第1次世界大戦前後を振り返ってみると、帝国主義の名の下に、強大な資本が植民地を次々と欲して、搾取をしていく。これは、いわば「自由」の謳歌であった。
しかし、強大な資本に支配され、人間が疎外されているとマルクスは指摘した。彼は、共産党宣言を著す中で、疎外された人間の回復を求めて、労働者に団結を促し、革命を起こすことを呼びかけた。それからロシアでは、革命が起こり、ソ連の壮大な実験が始まるのである。
第2次世界大戦終了後には、ソ連の「平等」という名の計画経済体制は、ヨーロッパからは脅威に見えた。そこで、イギリスに代表される、「ゆりかごから墓場まで」という福祉国家政策が採られることになる。
しかし、この福祉国家政策は、特に英国病と呼ばれる生産性の低下や経済成長の鈍化により社会の活力を失わせることになり、サッチャーらによる小さな政府という「自由」主義路線への揺り戻しが起こることになる。
ただ、昨今の経済危機に見られるように行き過ぎた市場の「自由」化は、資本主義の暴走というのも止めることはできなかったのである。
つまり、「自由」と「平等」路線のデッドヒートが今までの世界を作ってきたと言っても過言ではないのだ。
以上のように、「自由」は、「資本主義」を生んだ。資本主義は突き詰めれば、強者の論理である。強い者が勝ち、弱い者は負ける。昨今、日本でも叫ばれる「格差社会」というのは、資本主義を突き詰めていけば現実に起こり得る社会の一側面だと考えられる。
また、「平等」は、「社会主義」を生み出した。社会主義は突き詰めれば、均質化、画一化がもたらすことになり、生産性の低下を招き、経済成長を鈍化させた。
それでは、「博愛」はどうか。「博愛」は、その必要性が指摘されるだけで、実現されることはなかったのである。「自由」も「平等」も、どちらか一方だけではもう世界が成り立たなくなっていくのは、必定のことではないだろうか。
日本の新首相は、「友愛」を旗印に掲げている。また、フランスの知性、ジャック・アタリも「博愛」精神を説いている。我々は、この「博愛」という原理に改めて着目をして考える機会があってもよいのではないだろうか。
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登録日:2010年 05月 08日 12:01:59
●学生による書評⑦「定常型社会」(広井良典著)
経済不況などから来る不安・閉塞感から抜け出せない私たちは、「スローライフ」や「エコライフ」といった言葉に憧れを抱く。持続可能な福祉社会とは何か、「成長」に変わる新たな価値とは何か。広井良典の『定常型社会』からその答えを導きだす。
筆者は本書で「定常型社会」というコンセプトを提示している。このコンセプトを支える一つの概念として、筆者は「個人・共同体・自然と『時間』」という「3つの時間観」を挙げている。筆者はこの「3つの時間観」について筆者は以下のように述べる。
…私たちの生きる世界は「A個人・B共同体・C自然」という三層構造を持った世界として理解することができる。…(中略)Aに対応する「市場/経済」の領域が、BやCの次元から次々と離陸してきたのがこれまでの歩みであった。
現代はAの時間である。だが、地域そのほかにおいて介護・福祉や自然保護などの活動に関して、個人が自発的に参加し、ネットワークをつくり、互いに支えあったり喜びを共有しあったりするような、さまざまなボランタリーな活動によって人々が感じるのはBもしくはCの時間であり、これを「根源的な時間の発見」と筆者は名づけている。しかし、私は「根源的な時間の発見」という言葉に居所の悪さを感じてならない。もしかしたら筆者が考えているよりも、人は性悪説的な存在なのではないか。というのも、そもそも現代人は「根源的な時間」を知っている存在だと思えるからだ。
改めて考えるまでもなく、たいていの現代人はAの時間の住人である。このAの時間は、市場経済のフィールドであり競争と変化の連続が織りなす空間といえる。こうした空間で仕事に追われる人々は、時に消耗したり疲弊したりする。アイデンティティを喪失してしまうこともあるだろう。典型例としてうつ病などが挙げられる。うつ病は言い過ぎにしても、Aの時間で暮らしすぎてしまうと、どこか健全な精神のバランスを失ったように感じるはずだ。
では、健全な精神のバランスを失ったと感じる人々は、バランスを取り戻すために何をするだろうか。おそらく、人はこうした場面に出くわしてはじめてAの時間からBやCの時間に出ていくのではないだろうか。週末のハイキングや釣りといったものを求めて。「癒し」とか「スローライフ」が流行るのはこうした状況を反映したものではないだろうか。BやCの時間軸・すなわち根源的な時間軸に赴けば、心のバランスを取り戻すことができ、「また明日から元気に働ける」ことを現代人は期待している。だから私は「現代人は根源的な時間の存在を知っている」と考えるのだ。したがって、このような観点に立つと筆者の「根源的な時間の発見」とは以下のように書き換えられる。仮面をかぶったAの時間の住人による、Aの時間を生きていくための、「時間の消費」もしくは「演劇」だと。だからボランティアやスローライフ、エコマネーや地域通貨といったものが期待されつつも普及しないのではないかと私は考える。
それでも、人はBやCの時間との接触を求めるという点では変わりない。違いはAの時間に軸足を置くかどうか、である。たしかに、現在はAの時間に閉じこもって成功することを社会的な善とする向きもあるだろう。しかしながら本来の人間の姿とは、そのほかの時間もバランスよく享受できる生き方ではないだろうか。定常型社会を実現するためには現代人の時間観に関する現象面での働きに期待するのではなく、時間観をA軸から開放してやることが肝心だと思う。ここから環境や福祉といった面での政策イノベーションを起こす、突破口に「時間観の転換」になり得るのではないだろうか。
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登録日:2010年 03月 27日 00:16:53
- プロフィール
- 上山信一
- (男)
- 慶應大学総合政策学部教授。大阪市生まれ54歳。専門は企業・行政機関の経営戦略と組織改革。都市・地域再生も手がける。旧運輸省、マッキンゼー共同経営者等を経て現職。国交省政策評価会(座長)、大阪府と大阪市の特別顧問、新潟市都市政策研究所長、日本公共政策学会理事、各種企業・行政機関の顧問や委員等を兼務。府立豊中高、京大法、米プリンストン大学修士。著作等 ツイッター@ShinichiUeyama
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