絶滅の「何が」問題か
【ジャワ/インドネシア 15日 AFP】ジャワサイ(Javanese rhino)は世界でも最希少種の哺乳動物で、この角が1つのサイは現在50頭が生息しているに過ぎず、そのほとんどがインドネシアのたった1つの密林に住んでいる。この最希少種の哺乳動物を救うため、現在科学者たちはジャワサイを分散させる準備をしている。写真は、世界自然保護基金(WWF)から提供された、ウジュン・クロン(Ujung Kulong)国立公園のジャワサイ(9日撮影)。(c)AFP
分散というが、
サイが棲めるような森が、まだ他にあるのだろうか。
密猟だけではなく
森が失われているからこそ、
ジャワサイもここまで数を減らしている、
という面もあるのだが。
不安でならない。
写真のジャワサイに関しては、
今後も注視していくことにして。
今日は、
「種の絶滅がジンルイにどういう意味をもっているのか」
についてサクッと考察したいと思う。
.
.
◆価値観といったものを超えて◆
さて。
種の絶滅が本当に悪いことかどうなのか疑問を抱いている方、
あるいは
時と場合によっては絶滅も止むを得ない、
と思う方も、世の中にはいるかもしれない。
流石に、ジャワサイやオランウータン、
また先に取り上げたハクトウワシのように、
ジンルイに近い哺乳類だったり
見た目が綺麗だったりカッコよかったりするものに関しては
その絶滅を悪と判断することを心理的な落としどころに
しやすいし、
対外的にも説得しやすい。
だがしかし、
まだジンルイとはあまり共通点のない種類の生きもの、
たとえばミジンコだったら、どうか。
名前もよく知らないコケの一種は。
あるいは、
どう考えてもジンルイには利益をもたらさない種類の
「害虫」は、どうか。
(どうでもいいが、「害虫」「益虫」って
ニンゲンの勝手な価値基準の押し付けだよな、としみじみ)
まあ、
全ての生物種がニンゲン存在と等価値と見なし得るかか否か、
というような話題は、
価値観の範疇で、そこんとこは考え方の違いということになるが。
だが、現実的な話として、
このことは今や、個々人の価値観といったものを超えた
大きな問題となってきている。
◆ジンルイの保険としての「種の多様性」◆
少し単純化した話をしよう。
春から秋にかけて田んぼで稲を育てていくと、
そのうち稲にはいろいろな虫がつく。
いわゆる害虫やら益虫やら、そしてそのどちらでもない
「ただの虫」に分類される種類の虫も、たくさん。(※1)
そこで、
害虫を、コイツは邪魔だから、と絶滅させてしまったとしよう。
しかしその影響で、今後は
その害虫を捕食していた益虫やただの虫が、
飢えて減少するか、絶滅するか、
ということも起こりうる。
害虫と一緒に巻き添えをくって絶滅する可能性も
かなり高いだろう。
やがてその後、全く別の種類の害虫がやってきたときに、
益虫の働きをしてくれる虫がいないかもしれない。
(絶滅させた元の「害虫」が
新顔の害虫に対する益虫になる可能性も含む)
あげく、稲が全滅してしまう、
というような話も、可能性としては否定できない。
これを、稲や益虫といった括りだけではなく、
たとえば植物と昆虫たちといった関係性で捉え直すと、
田んぼひとつとっても
とても複雑な生態系が営まれていることが見えてくる。
そして、コトは稲だけではなく。
何かの種が絶滅したことによって、そこから繋がっている種も
影響を受ける。
場合によっては巻き添えを食って絶滅に至る。
それが巡り巡ってニンゲンにも、ということは
SFの世界だけのことではなくなってきている。
たとえば、抗生物質など
世界で使われている薬の約半分ほどが、
熱帯の森林から見つけ出されたものだ。
今後も、熱帯の森からガンの新薬やHIVの薬のようなものが
見つかるのでは、
という期待が非常に具体的に言われている。
ちなみに、熱帯の森林に生息している生物種の数は、
地球上全ての生物種の約半数を占めていると推測されている。(※2)
(全ての生物種をジンルイが把握しているわけではないので、
「推測」)
それだけ豊かな生態系が背景にあるからこそ、
抗生物質や各種の薬のような、ジンルイに役立つ物質も得られる、というわけで。
もしも、この森林が全て失われてしまったとしたら。
逆に言えば、
地球の生態系が豊かであればあるほど、
そして生物種の数が多ければ多いほど、
ジンルイの生存の可能性も高まる。
種の豊かさ、多様性とは、ジンルイ存続の保険でもあるのだ。
役に立たないと思われた「ただの虫」やよく分からないコケが、
別の何かを支えている。
その別の何かは、また別の何かを支えている。
それが、めぐり巡って、ヒトをも支えている。
この構造は、
余裕や遊びといった部分を持たない機械が壊れやすいのと、
丁度間逆のようなものだ。
◆無意味に見える生きものだってジンルイの補強材◆
図書館などで見かけたらぜひ手にして欲しい一冊に
『絶滅のゆくえ』(1992年 新曜社 ポール・エリック/アン・エリック)
という名著があるが、
同書では「種の絶滅」という出来事を
「リベット抜き」という比喩で表記している。
(概念説明がちとややこしいのでここでの話は省くが、
もし同書を目にしたら冒頭の部分なので
ぜひ一度目を通してほしい。すぐに読める)
実は、これとそっくり同じようなことが、
最近のニホンで起こっている。
マンションの耐震強度偽造問題、というヤツだ。
(もちろん違う点も多々あるが、まあ非常に単純化すれば)
利益のために
見えない部分の構造用の部材をどこまで減らすか、ということに
血道をあげたのが耐震強度偽造問題だが、
その「どこまで減らすか」の鉄筋の1つ、構造用の柱のひとつ、
それぞれを、地球上の生物種に喩えてみれば、
そこに住むことの危険性がとてもよく分かる。
なくなっても当面は困らない柱と、
なくなっても当面は困らない生物種と。
(困らない、と思うのは実はジンルイだけなんだが)
今、そうした強度偽造マンションに暮らす人びとは
震度5以上の地震が来たら○○%の確率で倒れるかもしれない、
ととても心細い思いを抱いているはずだし、
そこを引っ越した人も二重ローンにあえいでいたりして
大変なメにあっている。
でもまだ、生きていられるならばいい。
そのマンションがもしも地球だった場合、
わたし・たちは逃げることも叶わないわけで。
◆動機は問わないが、まずは行動を◆
生物種の絶滅ということを注視した場合、
個々人のそれぞれの内面において良心が痛むか痛まないか、
といった相違があることは、仕方あるまい。
ジャワサイと、学名すらついていないコケといったように、
対象の種の違いから生じる気持ちの温度差もあるだろう。
だがしかし、
自分や、将来の子どもたちの世代の首を絞めていることは、
事実として理解しなければならない。
動機付けは、問わない。
けれども、種を減らす行動は、兎にも角にもしないに限る。
保全は、全力を尽くすこと。
もしも、自分が、ジンルイが生き延びたいのであれば。
※1:「ただの虫」の概念は、虫見板の発明者でニホンの農業における減農薬・無農薬の後押しを行った、宇根豊さんによる。宇根さんの本はいずれもオススメ。農業者以外の読者にも読みやすい。
※2:ちなみに熱帯林の地球表面に占める面積は僅か2%程度だったと記憶している。うろ覚えですまんが。6%以上になることはありえないので、いずれにせよ非常に狭い面積であることは確か。
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登録日:2006年 03月 16日 17:44:10
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